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赤ちゃんと猫の同居

 飼っていた猫を捨てる理由の1つとして、飼い主が妊娠し、「近々赤ちゃんが産まれるから」というものがあります。しかしその言葉の根底にあるのは、漠然とした思い込みかもしれません。

トキソプラズマが感染する?

 トキソプラズマとは、背骨を有する脊椎動物を宿主とする病原性単細胞生物(原虫)の一種です。妊娠中の女性がこの原虫に初感染した場合、胎盤を通じて赤ん坊に乗り移り、「先天性トキソプラズマ症」を引き起こすことがあります。しかし先天性トキソプラズマ症は、母親が正しい知識さえ持っていれば十分に予防が可能な疾患です。具体的には以下のような点に注意します。
トキソプラズマ予防法
  • 生肉を避けるトキソプラズマは生肉から感染する トキソプラズマは、牛、豚、鳥を始めとする脊椎動物の生肉に「シスト」(硬い殻に閉じこもった状態)という形で含まれていることがあります。ですから妊娠の前や妊娠の最中は、できる限り生肉を避けた方がよいでしょう。生肉を食べる場合は内部の温度が70℃を超えるまで加熱し、生肉を扱った調理器具も熱湯で加熱消毒するようにします。また加熱処理していない生水、洗浄していない野菜や果物も危険です。
  • 猫の糞便に気を付けるトキソプラズマは猫の糞便から感染することがある トキソプラズマは猫の糞便中に「オーシスト」という形で含まれていることがあります。ですから妊娠の前や妊娠の最中は、飼っている猫の糞便処理を第三者にお願いした方が無難でしょう。どうしても自分で行う必要がある場合は、ゴム手袋をして行うようにします。猫の糞便中にオーシストが排出されるのは、猫がトキソプラズマに初感染してから数日~2週間というかなり限定的な期間だけです。さらに、体外に排出されたオーシストが感染能力を獲得するには24時間が必要となります。つまり、猫がウンチを出してすぐに処理すれば、それだけ感染確率が下がるということです。トキソプラズマ症
  • 土いじりを控える トキソプラズマは、土壌や砂場の中にオーシストという形で含まれていることがあります。ですから妊娠の前や妊娠の最中は、なるべく土いじりや草むしり、ガーデニングを控えたほうがよいでしょう。仮に行った場合は、念入りに手洗いするようにします。以下は洗い残しが生じやすい部位です。手の中で洗い残しが発生しやすい部位
 上記した経路に注意していれば、妊婦がトキソプラズマに感染することはまずありません。感染源として重要なのは、口の中に入る可能性が極めて低い猫の糞よりも、むしろ生肉や生水、生野菜の方です。また妊婦がすでにトキソプラズマに感染している場合は、脳や筋肉に潜伏しているシストが活性化しないよう、免疫力を落とさないことの方がよほど重要となります。
先天性トキソプラズマ症
トキソプラズマ(タキゾイト) 妊娠中の母親から、胎盤を通じて子宮内の胎児にトキソプラズマ原虫が移行して発症するのが「先天性トキソプラズマ症」です。水頭症、視力障害、脳内石灰化、精神運動機能障害を主症状としています。2001年にスウェーデンで行われた疫学調査によると、妊娠中における母親の初感染率は1万人中5.1、先天性トキソプラズマ症をもって生まれた子供は1万人中0.73人となっています。妊婦が知識をもって予防策を講じていれば、この低い感染率をさらにゼロにすることも十分可能でしょう。なお、自分がトキソプラズマに感染しているかどうかを知りたい場合は、IHA法、LA法、ELISA法といった抗体検査があります。 国立感染症研究所
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赤ちゃんが喘息になる?

 赤ちゃんの近くに猫がいると喘息になりやすくなると言う風説があります。「猫が赤ん坊の息を盗む」(cats steal breath from baby)という都市伝説も、ひょっとするとこの風説と関係があるのかもしれません。しかし様々な研究の結果、猫の存在はむしろアレルギー反応の低下に役立っているという可能性が示唆されています。以下はその一例です。
猫がもたらす免疫力
  • 国際調査(1999年) 子供の頃に猫を始めとしたペットと接していると、大人になってから猫アレルギー反応が出にくくなる(→出典)。
  • スウェーデン(1999年) 1歳になるまでの間に、兄弟姉妹や猫を始めとするペットと接していると、学童期に入ってからのアレルギー性鼻炎と喘息の発症率が低下する(→出典)。
  • アメリカ(2001年) 猫が放出するアレルゲンは、喘息を引き起こすことなく子供の体内でIgGとIgG4抗体を高める。これはちょうど減感作療法と似た効果であり、ペットを飼っている家庭において喘息の発症率が低くなるという現象の説明になるかもしれない(→出典)。
  • オランダ(2002年) 2歳になるまでの間にペットを飼育したことがある人では、花粉に対する感作(敏感になること)がある程度軽減される可能性がある(→出典)。
  • スウェーデン(2002年) 喘息もちの家庭においてよく言われる「猫を飼うと喘息が悪化する」と言う思い込みは、再評価の余地がある(→出典)。
 もちろん、世の中にいる全ての赤ちゃんに対し、猫が「喘息を出にくくする」という効果を等しくもたらすわけではありません。しかし少なくとも、猫が赤ちゃんの喘息を引き起こすという風説は過去のものになりつつあることはお分かり頂けたのではないでしょうか。
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一緒に寝てはいけない?

猫と赤ちゃんの添い寝は望ましくない 赤ちゃんの横で猫が添い寝している姿には微笑ましいものがあります。しかし過去の事例から考えると、赤ちゃんと猫を同じベットの中で寝かせることは避けた方が良いでしょう。
 以下は、犬や猫といったペットとのスキンシップが原因で発症したと考えられる疾患の一覧です。「添寝」はペットと一緒に寝ること、「キス」はペットとマウスツーマウスのキスを交わすこと、「舐め」はペットに舐められることを意味しています。また「犬」や「猫」といった動物名は、感染源になりうるという意味です。 Zoonoses in the Bedroom
病名添寝キス舐め
ペスト犬猫××
シャーガス病犬猫××
猫ひっかき病犬猫×
パスツレラ症犬猫犬猫
C.カニモルサス症×犬猫
ブドウ球菌感染症××
MRSA感染症××
狂犬病××
トキソカラ症犬猫犬猫犬猫
ジアルジア症犬猫犬猫犬猫
クリプトスポリジウム症犬猫犬猫犬猫
ツメダニ症××
 ペットと添い寝することによって発症する病気は稀です。また、生死に関わるような重篤な症状に陥る事はさらに稀といってよいでしょう。しかし万全を期すならば、免疫力が不安定な赤ちゃん、および何らかの理由で免疫力が低下した大人が、犬や猫と寝具を共にすることは避けた方が無難です。中には、「猫に舐められた指を赤ん坊に吸わせて病原菌が移ってしまった」という珍しいケースもありますので、赤ちゃんと接する機会のあるすべての人が、人獣共通感染症に対する知識を共有しておくことが重要と言えます。
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赤ちゃんを傷つける?

 「猫が赤ちゃんを引っかいて傷つけるのではないか? 」という不安を口にする人がいます。もちろんその可能性はゼロではありませんが、周囲の大人が気を遣うことによって、十分に予防が可能です。具体的には以下のような点に気をつけます。
猫による事故予防
  • 匂いや声に慣れさせる猫を赤ちゃんい慣れさせるにはまず匂いから すでに猫が暮らしている家に赤ちゃんを連れて行くにしても、赤ちゃんがいる家に猫を迎え入れるにしても、いきなりご対面させるのは避けるようにします。赤ちゃんが身に付けた毛布、よだれかけ、おしゃぶりなど、赤ちゃんの匂いが染み付いた物を、あらかじめ猫のそばに置いて慣れさせておきます。また同様に、赤ちゃんの声を録音したものを小さい音量から聞かせ、徐々に大きくしていきます。匂いにしても音にしても、最初のうちは耳をぴんと立てて目をまんまるくし、警戒心を示すかもしれません。しかしそのうち、自分にとって毒にも薬にもならないことを理解して関心を示さなくなります。赤ちゃんとご対面させる前に、猫をこの状態まで慣れさせておくことがポイントです。赤ちゃんの声(SE)(YouTube)
  • 赤ちゃんの動きに慣れさせる 小さい体で手足をばたつかせる赤ちゃんの姿は、猫に警戒心を抱かせるかもしれません。最初のうちは保護者が赤ちゃんを抱っこした状態で猫に近づくようにします。極端な場合は「シャー!」という威嚇音を発するかもしれませんが、そのうち見慣れない動きにも慣れて関心を示さなくなります。
  • 隠れ家を用意する 猫の中には警戒心が強く、赤ん坊の存在になかなか慣れてくれない個体もいます。そういうデリケートな猫のために、完全に身を隠すことのできる隠れ家を用意しておきましょう。猫にとっての隠れ家は、赤ん坊がいようといまいと、ストレス軽減のために絶対必要なものです。
  • 隔離部屋を用意する 猫がどうしても赤ちゃんの存在を認めようとしない場合は、猫専用の隔離部屋を用意します。孤立した部屋を用意できない場合は、部屋の中にパーティションを設けて猫専用の区画を作る形でも構いません。よほどの頑固者でない限り、次第に赤ちゃんの存在にも慣れてくるはずです。
  • 保護者が付き添う 猫と赤ちゃんが接する場合は、たとえ短時間でも必ず保護者が付き添うようにします。これは引っ掻き事故はもちろんのこと、猫が赤ちゃんを舐めたり噛んだりすることを予防する上でも重要です。また赤ちゃんが猫を踏んづけたりしっぽを引っ張ったりしないよう、双方を注意深くモニターするようにします。
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