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ベンガルに多い病気~原因・遺伝性から検査・治療法まで

 ベンガルがかかりやすい病気を原因、遺伝性、検査法、治療法などに分けて一覧リストでご紹介します。なお出典データには海外のものも含まれているため日本に暮らしている猫には必ずしも当てはまらないことがあります。

猫伝染性腹膜炎(FIP)

 猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、猫腸コロナウイルスが突然変異を起こして強い病原性を獲得し、腹膜炎を特徴とする激しい症状を引き起こす致死性の高い病気。今現在、病原性の低い「猫腸コロナウイルス」(FECV)と致死性の高い「猫伝染性腹膜炎ウイルス」(FIPV)を事前に見分ける有効な方法は存在していません。ひとたび発症してしまうと効果的な治療法がなく、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、免疫力を高めるためのネコインターフェロンの投与、炎症を抑えるための抗炎症薬の投与などで様子を見るというのが基本方針です。猫伝染性腹膜炎の症状・原因・治療

有病率と発症リスク

 1986年12月から2002年12月の16年間、ノースカロライナ州立大学付属の動物病院を受診した11,535頭(純血種2,024頭)の猫を対象とし、猫伝染性腹膜炎(FIP)の発症リスクが検証されました(→出典)。その結果、全体の0.52%に相当する60頭の猫でFIPと診断され、雑種(0.35%)よりも純血種(1.3%)のほうが発症しやすい傾向が確認されたといいます。また品種と発症頻度を統計的に検証したところ、ベンガルの発症頻度が12.5%(1/8)で、雑種より41倍も発症しやすいことが明らかになりました。調査チームはFIPの発症メカニズムは多因子的であることを認めつつも、ある特定の品種でかかりやすい傾向がある事実は否定できないとしています。

ピルビン酸キナーゼ欠損症

 ピルビン酸キナーゼ欠損症(Pyruvate kinase deficiency, PKDef)とは、赤血球上にあるピルビン酸キナーゼと呼ばれる酵素が欠損することにより十分なエネルギーを産生することができなくなり、赤血球の寿命が縮んで貧血に陥ってしまう病気。診断は血液検査を通した貧血の確認や、遺伝子検査を通した疾患遺伝子の確認などで下します。貧血を根本的に改善するには骨髄移植が必要ですが、現実的ではありません。ピルビン酸キナーゼ欠損症の症状・原因・治療

疾患遺伝子保有率

 2012年、カリフォルニア大学デイヴィス校の「Genetics Laboratory」に送られてきたDNAサンプル12,630個と、イギリスの「Langford Veterinary Services」に送られてきたDNAサンプル1,549個を対象とし、ピルビン酸キナーゼ欠損症の関連遺伝子保有率を調査しました(→出典)。その結果、ベンガルにおいて13%という高い保有率が確認されたといいます。調査チームは、ベンガルの繁殖に際してはピルビン酸キナーゼ欠損症の遺伝子検査を行うべきであると推奨しています。

子宮蓄膿症

 子宮蓄膿症とは、メス猫の子宮内に病原体が入り込み、炎症反応が起こって膿が溜まってしまう病気。診断は血液検査や尿検査、エックス線や超音波検査を通して下します。治療は抗生物質による投薬治療や外科的な子宮摘出がメインです。 子宮蓄膿症の症状・原因・治療

発症リスク

 2014年、スイス農科学大学の調査チームはペット保険会社に対する1999年~2006年の請求データを元に、猫における子宮蓄膿症の発生率を調査しました(→出典)。その結果、猫全体における発生率が1万頭中17ケースだったのに対し、ベンガルでは64ケースと3.8倍近い発症が確認されたといいます。調査チームは明確なメカニズムまではわからないものの、猫の中には当疾患を発症しやすい品種があるようだとしています。

ベンガル網膜症

 ベンガル網膜症とはベンガルにおいてのみ特異的に見られる疾患で、生後2ヶ月齢ころから急速に網膜上の光受容器が変性して失われていくというもの。

疾患の特徴

 2015年、イスラエルのヘブライ大学はアビシニアンやペルシャなどで確認されている「CEP290 」や「CRX」といった遺伝子の変異とは別の変異によって引き起こされるベンガルの進行性網膜萎縮症を報告しました(→出典)。
 この変異は常染色体劣性遺伝で、網膜の中にあり白黒を判別する「杆体」に関しては生後7週齢ころから減り始め14週齢になる頃には完全に消失、色合いを判別する「錐体」に関しては生後9週齢ころから減り始め26週齢になる頃にはほぼ消失するとされています。また1歳になるまでには完全に視力を失うとも。
 この疾患に関し調査チームは、「CRX」遺伝子の変異よりも発症と進行が遅いものの、「CEP290」遺伝子の変異よりは進行が早いことから、ちょうど中間的な性質を有していると評し、便宜上「ベンガル網膜症」と呼称しています。ごく少数の個体で自然発生した遺伝病であるため、疾患遺伝子を抱えたベンガルを用いて繁殖しない限り、広まることはないと考えられています

多発ニューロパチー

 多発ニューロパチーとは、複数の末梢神経に同時に病変が発生し、運動能力などが低下してしまう病気。原因はよくわかっておらず、自然回復する症例もあります。

疾患の特徴

 カリフォルニア大学サンディエゴ校の「Comparative Neuromuscular Laboratory」は2001年から2010年の期間、アメリカ、イギリス、オーストラリア、スウェーデンから末梢神経のポリニューロパチーを発症した37頭のベンガルに関する症例を集め、共通項が一体何なのかを検証しました(→出典)。その結果、すべての症例において運動神経の軸索ケーブルを囲んで電気(インパルス)の通りを良くする「ミエリン鞘」と呼ばれる絶縁体が、包囲と脱落を繰り返している形跡が認められたといいます。人医学の慢性炎症性脱髄性多発神経炎に似ているものの原因はよくわからず、自然回復することが多いとのこと。調査チームは、1歳未満の若いベンガルにおいて原因不明の手足の筋力低下が認められるような場合は、多発ニューロパチーの可能性を考慮するようアドバイスしています。

白内障

 白内障とは、眼球内にある水晶体と呼ばれる組織が白く濁り、視力が低下~喪失してしまった状態のこと。診断は目視検査や血液の生化学検査、視力の電気的な検査(網膜電図)などを通して下します。治療は投薬や点眼、外科手術(水晶体吸引)がメインです。白内障の症状・原因・治療

有病率と疾患遺伝子

 2017年、パリ東大学を中心としたチームは、眼疾患に関する観測調査のためフランスのアルフォール眼科疾患ユニットを受診した51頭のベンガルと、白内障の検査のためフランス中部にある眼科専門医を受診した12頭のベンガルとを対象とした疫学調査を行いました(→出典)。その結果、観測調査群では45%(23/51頭)、専門医群では100%(12頭)の割合で白内障が見られたといいます。また発症はほぼ両側性で、観測調査群では61%(14/23頭)、専門医群では100%(12頭)が核性白内障だったとも。患猫たちの平均年齢は1.9歳でした。明確な発症要因まではわからなかったものの、調査チームは遺伝的な要因が強いと推測しています。
 また2020年、ポーランド国内にある5つの動物病院において223頭を対象とした有病率調査では、33%に相当する75頭が何らかの形の白内障にかかってることが明らかになりました(→出典)。そのうち67頭は両側性で、病変部に水晶体の核後方部が含まれるという共通点があったとも。 水晶体の核後方部に出現したベンガルの白内障写真  診断を受けた時の平均年齢は20ヶ月齢(1歳8ヶ月)と非常に若く、猫の年齢や被毛と発症率との間に関連性は見られなかったものの、メスに比べてオスの方がやや多い(46:54)という傾向が確認されました。223頭のうち190頭には血縁関係があったことから、常染色体の劣性遺伝による品種特有の疾患ではないかと考えられています。
 これらの調査はヨーロッパ国内で行われたものであるため日本のベンガルには当てはまらないかもしれませんが、両側性かつ若年性の核性白内障が見られた場合は遺伝が関わっている可能性を否定できません。

胸壁の奇形

 胸壁の奇形とは、背骨、肋骨、胸骨などが正常に形成されず、胸腔が変形してしまう先天的な病気。診断はエックス線やCTスキャン、MRIなどを通して下します。治療は保存療法をメインとし、奇形が重度で呼吸が苦しそうな場合は外科手術や矯正具が用いられることもあります。

有病率と発症リスク

 2012年、イギリスにあるイーストコット動物病院は、2004年から2011年の期間にワクチン接種のため診療施設を受診した244頭のベンガルの子猫と、同期間にワクチン接種を受けた1,748頭の非純血の短毛種を対象とした胸壁奇形に関する調査を行いました(→出典)。その結果、短毛種ではゼロだったのに対し、ベンガルでは12頭(4.9%)の奇形個体が見られたといいます。また統計的に計算した所、短毛種を標準とした時のベンガルの奇形発症リスクは1053倍というとんでもない数値になったとも。奇形の種類は漏斗胸(胸骨が内側にめりこむ)が5頭、片側の胸壁陥没(右の下部肋骨が短縮~欠如)が6頭、側弯症(背骨がくねる)が1頭という内訳でした。 ベンガルの子猫で発症した漏斗胸~重度の呼吸困難をきたす  調査チームは、血縁に胸壁奇形を抱えた猫がいる場合、いない場合の17.8倍発症リスクが高いことから、何らかの遺伝が関わっているものと推測しています。ただし遺伝子の浸透度(確実に発現するかどうか)や環境要因が複雑に絡み合っているため、優性遺伝とも劣性遺伝とも異なる発現率になっているとのこと。獣医師がベンガルの子猫を診察する際は、必ず触診によって胸壁の奇形を確認するようアドバイスしています。