トップ猫の健康と病気抜爪術の真実抜爪術のメリット・利点

抜爪術のメリット・利点~実は猫に対するプラスが何一つ無い!

 抜爪術の影響に関しては膨大な数の調査がありますが、猫の健康や福祉にプラスになったとする報告はありません。抜爪術に何かメリットがあるとしたら、それは猫の側のメリットではなく、すべて飼い主の側のメリットということになります。

抜爪術を行う理由

 猫の飼い主が抜爪術を選択する理由として最も多いのは、「ひっかきによる家財道具へのダメージを防ぐ」というものです。1988年の調査では80%、1991年の調査では99.5%、2009年の調査では95%の飼い主が、少なくとも理由の1つとして「家財の傷を防ぐ」という項目をあげています(→出典。また 2001年にAVMAが行った調査や、2012年にジョージア大学が行った調査でも「家財への傷を防ぐ」が理由の筆頭に来ています。
 いずれにしても抜爪術を行うのは飼い主のためであり、猫の健康や福祉のためではありません。アメリカの獣医学教科書「Textbook of Small Animal Surgery」の中で、抜爪術が「選択的手術」と表現されているのはそのためです。「選択的」とはずばり「やってもやらなくてもよい」という意味であり、ガンの転移や重度の爪周囲炎などに対して行われる医療的な断指手術とは区別されます。

抜爪術による飼い主のメリット

 抜爪術を行う理由に連動し、抜爪術によって飼い主が受ける恩恵のうち最も大きいものは、家財道具へのダメージがなくなるというものです。
 1991年の調査では、抜爪術を終えた猫を持つ276人の飼い主を対象としたアンケートが行われ、調査を行った時点で96%が抜爪術に肯定的な意見を持っており、否定的な意見を述べた人は10人(3.6%)にすぎなかったとされています。また少なくとも70%の飼い主が「猫との関係性が改善した」と報告したとも(→出典
 また2001年に行われた調査では、1993年2月から1998年5月の期間、腱切除術を受けた18頭と抜爪術を受けた39頭の猫の飼い主を対象とした比較が行われました。その結果、どちらの手術法でも、手術の前後において問題行動に大きな違いは見られず、術後しばらくしたタイミングにおける飼い主の態度は概ねポジティブだったとしています。具体的には「怪我の心配がなくなった」と回答した割合が抜爪術で77%、腱切除術で28%、また「他の動物との関係が良好になった」と回答した割合が抜爪術で46%、腱切除術で11%だったとのこと。両グループの飼い主を統計的に比較した所、満足度に違いは見られなかったそうです(→出典
 この調査では、飼い主が手術を行う理由として以下のような項目が挙げられています。
抜爪術を行う理由
  • 家財道具へのダメージを防ぐ●抜爪=69%
    ●腱=78%
  • 人への危害を防ぐ●抜爪=49%
    ●腱=17%
  • 他の動物への危害を防ぐ●抜爪=26%
    ●腱=6%
 どちらのグループでも、主な理由が「家財道具へのダメージを防ぐ」になっています。またどちらのグループでも、術後の飼い主の満足度に違いは見られなかったと言います。こうした事実から言えることは、飼い主の満足感は主として家財道具へのダメージがなくなったことでもたらされているということです。つまり抜爪術のメリットとはあくまでも飼い主にとってのメリットであり、決して猫にとってのメリットではないと言い換えることもできます。

抜爪術による猫のメリット?

 抜爪術によって猫の健康や福祉が向上したとする報告は一つもありません。しかし獣医師の中には「抜爪術を施さないと猫は飼育放棄されてしまう。この手術は間接的に猫の命を救っているんだ」と思い込み、これを猫の側のメリットとして考えている人がいるようです。しかしこの思い込みは、抜爪術で収入を伸ばそうとしている一部の獣医師が作り出した都市伝説である可能性が大です。

都市伝説の出どころ

 都市伝説の出どころは、1991年にLandsbergが発表した「抜爪は賛否両論あるが、ペットの命を救う」(Declawing is controversial, but still saves pets)というタイトルのレポートだと考えられます。
 レポート内では、もし抜爪術を施さなかったら猫を飼育放棄する飼い主の割合が56%にも達すると報告されていますが、この数値は獣医師が行った単なる推測であり、飼い主からの回答を集計したものではありませんでした。にもかかわらず、筆者がつけた誤解を招くようなタイトルのせいで数字だけが一人歩きを始め、レポートを読んだ多くの獣医師が「抜爪術を施さないとおよそ半分の猫たちは飼育放棄されてしまう!」と思い込んでしまった可能性があります。
 そして抜爪術を売り上げの大きな柱にしている一部の獣医師は、上記した「飼育放棄50%説」を利用し、自分自身の行為を正当化したり、飼い主の良心の呵責を軽減するため、臨床の現場で頻繁に引き合いに出すようになったと推測されます。例えば「抜爪術は間接的に猫の命を救っているんだ」と自分に言い聞かせたり、「シェルターに持ち込むよりはいいんじゃないですか?」と飼い主を安心させるなどです。

抜爪術は猫の命を救わない

 実は「抜爪は賛否両論あるが、ペットの命を救う」と同じ筆者が、猫の飼い主に対して実際に行ったアンケート調査の結果があります。同年(1991年)に行われたこの調査では「抜爪術を施さないと飼育放棄するか?」という質問に「はい」と回答した実際の飼い主の割合は、わずか4%にすぎないことが明らかになりました(→出典
 また1996年の調査では、抜爪術を施してある猫の方が1.86倍飼育放棄されやすいという結果が報告されています(→出典
 さらに、抜爪術が条例で禁止されたカリフォルニア州の5つの都市(サンタモニカ・バーバンク・バークリィ・サンフランシスコ・ロサンゼルス)を対象とした統計調査では、条例が施行された2009年を境とし、動物保護施設における5年間の猫の収容数が集計されました(→出典。その結果、抜爪術が違法化されたことによって収容数が増えるどころか逆に減っていることが明らかになったといいます(下グラフ)。
 こうした事実から言える事は、少なくとも抜爪術は猫の収容数を減らすために必要ではないということです。 2009年を境目としたカリフォルニア州の5都市における猫の収容数統計