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猫の慢性腎不全

 猫の慢性腎不全(まんせいじんふぜん)について病態、症状、原因、治療法別にまとめました。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら。また猫の採尿と尿検査についてはこちらをご参照ください。

猫の慢性腎不全の病態と症状

 猫の慢性腎不全とは、尿のろ過を行っているネフロンが緩やかに壊れていき、腎臓が慢性的に機能不全に陥った状態のことです。急性腎不全ではたった1日で腎臓の機能が破壊されますが、慢性腎不全では数ヶ月~数年かけて徐々に破壊されていきます。
 ネフロンとは、腎臓の基本的な機能単位であり、腎小体(じんしょうたい)とそれに続く1本の尿細管(にょうさいかん)から構成されています。何らかの理由によりこのネフロンが徐々に破壊されていき、数ヶ月~数年かけて徐々に症状の悪化を見るのが慢性腎不全です。 腎臓とネフロンの腎小体・尿細管の模式図  猫の慢性腎不全の症状としては以下のようなものが挙げられます。腎臓が75%以上破壊されてようやく症状が現れることもしばしばです。好発年齢は9歳頃で、年齢の上昇と共に発症率も高まります。
猫の慢性腎不全の主症状
 腎臓では「エリスロポエチン」や「カルシトリオール」と呼ばれるホルモンを産生しているため、腎臓の細胞数が目減りするとこうしたホルモンの産生量も減ってしまいます。「エリスロポエチン」は赤血球の産生を促進する働きを担っており、減少すると貧血を招きます。また「カルシトリオール」は、血液中のカルシウム濃度を高める働きを担っており、減少すると副甲状腺機能亢進症を招きます。これは足りない分のカルシトリオールを、副甲状腺から分泌されるパラトルモンと呼ばれるホルモンが補おうとするために生じる現象です。
 数ある症状の中でも、食欲不振とそれに伴う体重減少は非常によく見られるものです。以下は、2016年に500頭を超える慢性腎臓病を抱えた猫から算出した、平均的な体重減少グラフです(→詳細)。慢性腎臓病診断の前後3年における猫の体重変化 早ければ、診断される3年も前から体重の目減りが始まることがお分かりいただけるでしょう。病気を早期発見するためには、定期的な健康診断のほか、飼い主が日常的に猫の体重を計測しておくことも重要です。
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猫の慢性腎不全の原因

 猫の慢性腎不全の原因としては、主に以下のようなものが考えられますが、犬や人間に比べてなぜ猫に腎不全が多いのかは解明されていません。一説では、1つの腎臓に含まれるネフロンの総数が他の動物に比べて少ないのが一因と言われています(猫:20万/犬:40万/人:100万以上)。1995年に行われた調査によると、全年齢層の発症率は犬で0.9%、猫で1.6%。そして15歳以上に限定したときの発症率は、犬で5.7%、猫で15.3%となっています(DiBartola, 1995)。
猫の慢性腎不全の主な原因
  • 基礎疾患 あらかじめ保有している何らかの病気によって腎不全が引き起こされることがあります。具体的には水腎症糖尿病、間質性腎炎、腎硬化症、多発性嚢胞腎などです。
  • 遺伝 慢性腎不全を発症しやすい品種が確認されています。具体的にはアビシニアンペルシャで、共に常染色体優性遺伝だと考えられています。
  • AIM 2016年に行われた調査により、猫の腎臓では「AIM」と呼ばれる特殊なタンパク質が十分に機能しておらず、これが慢性腎臓病の遠因になっている可能性が示されました。急性腎障害が発生した時、人間やマウスでは上記「AIM」が傷害部位に駆けつけて応急処置をしてくれます。それに対し猫では、血中の「AIM」が免疫グロブリンM(IgM)と結合したままなぜか離れようとせず、傷害部の治療が放置されてしまうとのこと。結果として腎機能の回復が遅れ、慢性腎不全に発展しているそうです。 AIMと腎機能の関係性に関してはこちらの記事をご参照ください。
 2015年より、犬や猫などの外注検査を受け持つ「アイデックス」(Idexx)が「SDMA™」と呼ばれる新しいバイオマーカーの検査を開始しています。「SDMA™」(対称性ジメチルアルギニン)とは、タンパク質の異化作用と共に血液中に放出され、ほぼ腎臓でのみ排出される物質のことで、従来の「血中クレアチニン濃度」よりも忠実に腎機能低下を反映するとされています。クレアチニンは腎機能が75%まで低下してようやく血中に出現するものでしたが、SDMA™はわずか25~40%低下しただけで検査値に現れるとのこと。これを時間に換算すると、従来よりおよそ17ヶ月も早く検知できる可能性があるといいます。血液検査のオプションに関しては、通っている病院に一度お問い合わせください。
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猫の慢性腎不全の治療

 猫の慢性腎不全の治療法としては、主に以下のようなものがあります。現在検証されている「AIM」を用いた治療法の可能性に関してはこちらの記事をご参照ください。
猫の慢性腎不全の主な治療法
  • 対症療法  まずは症状の軽減を目的とした治療が施されます。例えば高窒素血症の改善を目的に、輸液、ホルモン剤投与、腹膜灌流(ふくまくかんりゅう=腹の中に灌流液を入れて1時間位してから回収する)、血液透析(腎臓を模した機械に血液を流す)、窒素化合物を吸着させる薬剤の投与などの治療が施されます。
  • 心臓への投薬  腎臓機能の悪化によって高血圧が発生している場合は、血圧を安定させる薬剤が投与されることがあります。
  • ホルモン薬の投与 腎臓における産生量が低下したエリスロポエチンやカルシトリオールを人工的に投与します。
  • 食事療法  タンパク質と塩分量をコントロールした食事療法が施されます。基本は低タンパク、低ナトリウムですが、素人判断で食事を決定すると思わぬ副作用が生じることもありますので、必ず担当獣医師のアドバイスを聞くようにしましょう。なお近年は、腎不全に特化した療法食なども販売されていますので、これらの利用も検討します。
  • 腎移植 他の治療法が効かなくなってしまった重症例の猫に対しては、腎臓の移植手術が行われることがあります。術用顕微鏡下で行われる猫の腎移植手術 猫の腎移植はアメリカでは1980年代後半から行われており、結構長い歴史を持っています。一方、日本においてはほとんどなじみがなく、ごく少数の機関でひっそりと行われている程度です。国内においてドナーとなるのは、実験用に飼育されている猫たちで、術後の猫たちは依頼者が引き取って終生飼養することが通例となっています。過去のデータをまとめると、手術における死亡率が「22.5~30%」、6ヶ月生存率は「59~65%」、 3年生存率は「40~42%」程度と推定されます。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
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