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猫の角膜炎~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の角膜炎(かくまくえん)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の角膜炎の病態と症状

 猫の角膜炎とは、黒目の部分を覆っている透明な膜である角膜(かくまく, cornea)に炎症が発生した状態のことです。 角膜の肉眼的・顕微鏡的模式図  角膜の表面に炎症は起こっているものの、上皮以下の欠損が見られないような角膜炎は「非潰瘍性角膜炎」、上皮以下の欠損を伴うような角膜炎は「潰瘍性角膜炎」と呼ばれます。前者はさらに3種、後者は2種に分類されます。大まかな解説は以下です。
非潰瘍性角膜炎
非潰瘍性角膜炎のタイプ~実質性角膜炎・角膜分離症・好酸球性角膜炎
  • 実質性角膜炎 角膜の上皮から実質にかけて炎症が発生している状態です。多くの場合、猫ウイルス性鼻気管炎とヘルペスウイルスが関わっています。通常は両側同時に発症し、第三眼瞼に炎症が波及することもあります。慢性化すると角膜が破壊され、潰瘍性角膜炎へと進行します。
  • 分離性角膜炎 角膜表面に褐色~黒色の変色部分が現れ、時間の経過とともに自然分離するものです。「角膜分離症」、「角膜黒色壊死症」とも呼ばれ、ペルシャヒマラヤンシャムバーミーズに好発します。
  • 好酸球性角膜炎 角膜の外側に隆起した桃色~褐色の腫瘤が見られる状態です。「増殖性肉芽腫性角膜炎」とも呼ばれます。
潰瘍性角膜炎
潰瘍性角膜炎のタイプ~表層性角膜潰瘍・深層性角膜潰瘍
  • 表層性角膜潰瘍 角膜の上皮が欠損した状態です。その下の実質までは届いていません。病変が上皮にとどまった状態は「びらん」と呼ばれます。
  • 深層性角膜潰瘍 角膜の上皮を完全に突き破り、角膜実質まで欠損が広がってしまった状態です。病変が上皮以下にまで広がった状態は「潰瘍」と呼ばれます。病原微生物やタンパク質分解酵素のせいで角膜が融けてしまった場合は、「融解性潰瘍」や「コラゲナーゼ潰瘍」と呼ばれることもあります。
 どのタイプの角膜炎にしても、罹患した猫は以下に示すような症状を見せます。なお新生血管(パンヌス)とは、眼球内に見られる直線~枝状の毛細血管のことです。病変が表面に近い場合は枝状、表面から遠い場合は直線状に見える傾向があります。
角膜炎の主症状
  • 激しい痛み
  • 足で目をこすろうとする
  • まばたきが多くなる
  • 目を床や壁にこすりつけようとする
  • 涙が多くなる
  • 角膜が白くにごる
  • 新生血管(パンヌス)の視認

猫の角膜炎の原因

 猫の角膜炎の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
角膜炎の主な原因
  • 非潰瘍性角膜炎 「実質性角膜炎」に関しては、猫ウイルス性鼻気管炎を引き起こすヘルペスウイルスが関わっています。ウイルスを駆除するために集まってきた免疫細胞が、角膜の上皮から実質にかけての炎症を慢性化します。
     「分離性角膜炎」に関しては、ペルシャヒマラヤンシャムバーミーズに発症しやすいと言われています。原因はよくわかっていませんが、慢性的な角膜への刺激が引き金になっていると推測されています。またヘルペスウイルスとの関連性も示唆されています。
     「好酸球性角膜炎」に関しては原因がよく分かっていません。恐らくヘルペスウイルスが関わっているのだろうと推測されています。
  • 潰瘍性角膜炎 潰瘍性角膜炎の原因は、表層性でも深層性でも角膜に対する慢性的な刺激です。具体的には、角膜にトゲが刺さる、ぶつかる、ゴミが入る、毛が入るなどです。またドライアイを悪化させる兎眼(まぶたを閉じきれない)、眼球突出、緑内障に伴う牛眼なども遠因とされます。その他の原因としては眼瞼内反症眼瞼外反症などです。

猫の角膜炎の治療

 猫の角膜炎の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
角膜炎の主な治療法
  • 対症療法 「非潰瘍性」でも「潰瘍性」でも、失明の恐れがあるほどの重症例以外は、基本的に症状が悪化しないような対症療法が選択されます。具体的には、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、炎症の悪化を防ぐための抗炎症薬の投与、眼球破裂を予防するための運動制限、医療用コンタクトレンズの着用などです。免疫力が正常であれば、角膜上皮の傷も角膜実質の傷も、上皮細胞によって自然に修復されます。前者の場合は7日ほど、後者の場合は数週間かかるというのが目安です。
  • 外科手術  失明の危険性があったり、生活に著しい支障をきたしているような場合は、外科手術が行われることがあります。具体的には、まるで道路に張り付いたガムのように角膜にくっついている遊離上皮の除去や、角膜の表層の切除などです。また傷の修復を早めるために角膜用接着剤が用いられたり、角膜移植が行われることもあります。
 なお、通常の猫よりもペルシャヒマラヤンなど短頭種の猫では、角膜の感度が悪いという報告がありますので、飼い主には格段の注意が求められます。角膜への刺激でまぶたを自然に閉じる「瞬目反射」(しゅんもくはんしゃ)が発生するまでの数値を調べた結果は以下です。要した刺激が大きければ大きいほど、感度が鈍いことを意味しています。
通常猫と短頭猫の角膜感度
通常の猫と短頭猫の角膜感度を比較したグラフ(g/平方ミリ) A comparison of corneal sensitivity  通常の猫の角膜感度が、中央域で「1.77g/平方ミリ(右目:1.79±2.33|左目:1.74±1.65)」、周辺域で「5.02g/平方ミリ(右目:5.01±5.07|左目:5.02±4.55)」であるのに対し、短頭種の感度は中央域で「3.93g/平方ミリ(右目:4.09±5.29/左目:3.18±3.75)」、周辺域が「6.92g/平方ミリ(右目:6.18±5.65/左目:7.66±6.24)」と、かなり鈍感なことがうかがえます。この事実は、短頭種は目の中に異物が入っても、通常の猫より気づきにくい可能性があることを意味しています。
 こうした特徴を持つ短頭種の飼い主が、角膜炎予防のために特に気をつけるべき点は以下です。
短頭猫の角膜炎予防
  • 眼球周辺のひげを切らない 眼球の上にある「上毛」と呼ばれる長い毛をむやみに切らないようにします。この毛は、目の近くに飛んできたゴミや抜け毛を静電気で吸着し、眼球に入らないようにする防護壁として機能しています。猫のひげ
  • こまめなブラッシング 日常的にブラッシングを施し、空中に浮遊する抜け毛の量を減らしておけば、目に入る確率を減らすことができます。猫のブラッシング
  • 眼球周辺のマッサージ 眼球周辺を日頃からよくマッサージし、抜け毛をあらかじめ減らしておけば、それだけ目の中に毛が入って炎症を起こす可能性を減らすことができます。猫の顔マッサージ