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猫の椎間板ヘルニア~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の椎間板ヘルニア(ついかんばんへるにあ)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の椎間板ヘルニアの病態と症状

 猫の椎間板ヘルニアとは、背骨の間に挟まっている椎間板と呼ばれるクッションがつぶれ、変形してしまった状態のことです。 正常な椎間板とヘルニアを生じた椎間板の比較図  椎間板は、クッションの外側に相当する繊維輪(せんいりん)と、クッションの中身に相当する髄核(ずいかく)と呼ばれるゼリー状の組織から構成されています。外傷や肥満、老化などにより椎間板が破れてしまうと、中の髄核が外に飛び出し、近くにある神経や脊髄を圧迫してしまうことがあります。これが「椎間板ヘルニア」です。中の髄核が完全に飛び出したものを「ハンセンI型」(髄核脱出型)、髄核が繊維輪の中にとどまっているものの椎間板が後方に膨らんだものを「ハンセンII型」(繊維輪突出型)として分けることもあります。I型の場合は、それまで元気だった猫が急に動かなくなりますが、II型の場合は病変を抱えたまま普通に生活していることも少なくありません。 正常椎間板と髄核突出、髄核脱出の模式図  椎間板は首から腰にいたる全ての背骨に挟まっていますので、基本的にどの部位でも発生します。しかし猫は体がしなやかなため発症頻度は低く、また仮に病変があっても、よほどの重症でない限り症状として現れないこともしばしばです。 猫の椎間板ヘルニア危険地帯  猫の椎間板ヘルニアの主な症状は以下です。犬や猫のヘルニアの重症度は、「痛みだけ→痛みと軽度の運動障害→反射の消失と運動の中等度障害→完全に動かないが痛みは感じる→完全に動かず痛みも感じない」という順番で高まります。髄核がどこを刺激するかにより、片側性や両側性など症状の現れ方は様々です。
猫の椎間板ヘルニアの主症状
  • 歩き方がおかしい
  • 運動を嫌がる
  • 前足の痛みや麻痺(頚椎付近のヘルニアの場合)
  • 胸部の痛みや麻痺(胸椎付近のヘルニアの場合)
  • 後足の痛みや麻痺(腰椎付近のヘルニアの場合)
  • 首から下の痛みや麻痺(頚椎付近における脊髄圧迫)
  • シッフシェリントン現象(第二~第四腰髄, 後肢の麻痺+前肢の伸展姿勢)
ヘルニアとは?
 そもそも「ヘルニア」とは、体内の組織や器官が、本来あるべき場所からずれてしまった状態を指す広い概念であり、何も椎間板にだけ起こるものではありません。例えばおなかの中にある横隔膜が破れて腹部臓器がはみ出してしまった状態は横隔膜ヘルニア、腹部の組織がへそから飛び出してしまった状態は「臍ヘルニア」(でべそ)、腸管が腿の付け根に当たるソケイ部から飛び出してしまった状態は「鼠径ヘルニア」(脱腸)などと呼ばれます。

猫の椎間板ヘルニアの原因

 猫の椎間板ヘルニアの原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の椎間板ヘルニアの主な原因
  • 過度の外圧  椎間板の外側にある繊維輪はコラーゲン繊維からできており、基本的には頑丈です。しかし交通事故や高い場所からの落下、壁への衝突など、瞬発的に強い力が加わると、破れて中の髄核が飛び出してしまうことがあります。
  • 肥満  肥満も椎間板に対する強いストレスになります。また大型猫など体重の重い猫の方が、小型猫に比べて発症しやすいと言われています。
  • 老化  老化によってコラーゲン繊維が弱化すると、今までは大丈夫だった圧力を支えきれなくなり、繊維輪が破れてしまうことがあります。
  • 猫種  小型や短足になるよう選択繁殖されてきた猫は、軟骨の形成に異常を抱えていることがあります。こうした猫種の繊維輪は通常に比べてもろく、それだけヘルニアの危険性にさらされることになります。
 2013年に行われた犬を対象とした研究では、椎間板ヘルニアの発症確率を高める要因は「肥満」、「小型」、「胴長」であるという結果が出ています(→出典)。猫における研究はありませんが、やはり同じような要因が危険因子であると考えたほうが無難でしょう。近年はマンチカンのような胴長短足の品種がもてはやされていますが、外見重視の品種改良の結果、ヘルニアを始めとする病気やけがのリスクを高めている可能性があるということです。
 また2016年にイギリスで行われた調査では、「純血種」、「ブリティシュショートヘア」、「ペルシャ」がリスクファクターではないかと推測されています(→詳細)。

猫の椎間板ヘルニアの治療

 猫の椎間板ヘルニアの治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫の椎間板ヘルニアの主な治療法
  • 対症療法  ヘルニアが軽度の場合は、症状の軽減を目的とした治療が施されます。具体的には非ステロイド系の薬や抗炎症薬の投与などです。また、ヘルニアが悪化しないように運動制限を行い、症状が軽快したら肥満を解消したりします。
  • 手術療法  ヘルニアが重症の場合は、手術によって飛び出した髄核を物理的に除去してしまいます。手術に伴うリスクや再発の可能性といった情報を、担当の獣医師から十分得た上で決定します。
  • 排泄の補助 神経症状が膀胱や直腸にまで及んでいる場合は自力でおしっこやうんちができないこともあります。その場合は尿道からカテーテルと呼ばれる細い管を通して人為的に排尿させたり、おなかを押したり浣腸するなどして排便を促すといった補助が必要となります。
  • 歩行の補助 近年は犬用や猫用の車いすが徐々に普及してきました。運動機能の回復が見込めない場合は、こうした補助用具を用いて猫のQOL(生活の質)を高めることも考慮します。