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疥癬~症状・原因から治療・予防法まで

 人獣共通感染症の内、疥癬(かいせん)について病態、症状、原因、治療法別に詳しく解説します。人にも犬猫などのペットにも感染する病気ですので、予備知識として抑えておきましょう。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

疥癬の病態と症状

 疥癬とは、ヒゼンダニというダニの一種が人の角質層に寄生し、人の肌から肌へと感染する皮膚疾患です。人間にも犬にも猫にも発症しますが、症状を引き起こしているダニの種類は一様ではありません。

ヒゼンダニの種類

 ヒゼンダニにはいくつかの種類があり、それぞれある特定の動物に好んで寄生する性質があります。具体的には以下です。
主なヒゼンダニの種類
ヒゼンダニの種類~ヒゼンダニ・イヌセンコウヒゼンダニ・ネコショウセンコウヒゼンダニ
  • ヒゼンダニ正式名称=Sarcoptes scabiei
    主な寄生動物=人間
    メス=0.3mm~0.45mm
    オス=0.25mm~0.35mm
  • イヌセンコウヒゼンダニ正式名称=Sarcoptes scabiei var. canis
    主な寄生動物=犬
    メス=0.3mm~0.45mm
    オス=0.2mm~0.25mm
  • ネコショウセンコウヒゼンダニ正式名称=Notoedres cati
    主な寄生動物=猫
    メス=0.2mm~0.23mm
    オス=0.14mm~0.16mm
 これらのヒゼンダニは、好みの動物に寄生した場合はオスとメスが繁殖して卵を産み付けますが、それほど好きではない動物に寄生した場合はそのまま死滅してしまいます。しかし死んでしまう前に、宿主の皮膚に一過性の症状を引き起こしますので、全く無視してよいというわけではありません。なお犬が大好きなイヌセンコウヒゼンダニや猫が大好きなネコショウセンコウヒゼンダニが人間に感染することはあるものの、人間が大好きなヒゼンダニが他の動物に寄生することはめったにないとされます。 猫の疥癬 犬の疥癬(子犬のへや)

人に寄生するヒゼンダニ

 主に人間に寄生する「ヒゼンダニ」(Sarcoptes scabiei)は、卵から幼虫、若虫を経て成虫(雄、雌)となります。人の体温が最も生活しやすい温度で、人体から離れると動きが鈍くなり、16℃以下では動けなくなります。
 メスのヒゼンダニは体長約0.4mm。手首や手のひら、指の股、足、肘、腋の下、外陰部などで角層に横穴を掘り進み、卵を産みつけます。産卵数は1日2~3個で、産卵期間は約1ヵ月です。 ヒゼンダニは上記した部位で角層内に体を潜り込ませた後、あたかもトンネルを掘り進めるように水平に皮膚内を前進し、後方に卵や糞を残します。外から皮膚を見たとき、これは細い曲がりくねった1本の線状の痕として認められることから、「疥癬トンネル」と呼ばれます。幅は約0.4mm、長さは長くて5mm程度です。トンネルの天井にあたる部位には等間隔に約0.2mmの穴があいており、トンネルの先端部には産卵中のメスヒゼンダニ成虫が潜んでいます。 人の皮膚の上にできた疥癬トンネルとその模式図  オスのヒゼンダニはメスより一回り小さく、皮膚の表面を歩き回りながら、メスのヒゼンダニを探して交尾します。このようにして生み出された卵が、再び孵化して成虫になるというのがヒゼンダニのライフサイクルです。
 寄生された動物にとってやっかいなのは、ヒゼンダニが皮膚に付けた傷や体内に残した排せつ物によって免疫細胞が呼び寄せられ、激しい炎症が起こってしまうということです。免疫細胞は異物を排除するために数々の化学物質を出しますが、この化学物質が神経に作用して激しいかゆみを引き起こします。以下は、疥癬にかかった時の主な症状です。
疥癬の主症状
  • 通常疥癬の症状 通常疥癬の症状は、感染後約1~2ヵ月の潜伏期間をおいて発症します。きわめて強いかゆみと、皮膚の丘疹、結節、疥癬トンネルが主症状です。 丘疹はへそを中心とした腹部、胸部、腋の下、太腿の内側、腕の内側などに、結節は外陰部や腋の下、肘、臀部に好発します。
  • 角化型疥癬の症状 角化型疥癬の症状は、手や体の骨ばったところや摩擦を受けやすい部位の皮膚に厚く増殖して、灰色から黄白色の垢がつくのが特徴です。高齢、ステロイドの投与、免疫抑制剤、悪性腫瘍などの基礎疾患があり、免疫力の落ちている人に発症します。

疥癬の原因

 疥癬の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
疥癬の主な原因
  • 接触感染  疥癬(かいせん)の感染経路は、疥癬を保有した動物と長時間、直接肌と肌が接触することによって感染します。短時間の接触では感染しません。しかし、ヒゼンダニの生息密度が高い「角化型疥癬」を保有した動物の場合、短時間の接触、および動物の使用した寝具などを通して容易に感染します。

疥癬の治療

 疥癬の治療法としては、主に以下のようなものがあります。なお以下は主に人間に対する治療法です。犬や猫に発症した疥癬の治療法に関しては、それぞれ犬の疥癬(姉妹サイト「子犬のへや」)と猫の疥癬をご参照ください。
疥癬の主な治療法
  • 投薬治療  疥癬の治療薬には、γ-BHC外用、ペルメトリン外用、イベルメクチン内服といったものがあります。ただしペルメトリンは猫に有毒ですので犬専用です。
  • 疥癬の予防策  疥癬の予防策は、日ごろから部屋の中を清潔にし、ノミやダニの生息数を極力少なくすることです。また、猫を放し飼いにしている場合は、外の猫からヒゼンダニをもらってしまわないよう、完全室内飼いに切り替えることも必要です。
     人間から猫や犬などのペットに感染させてしまう危険性もゼロではありませんので、自分の体に疥癬の症状が見られた場合は、すみやかに皮膚科を受診し、ペットとの濃厚なスキンシップは疥癬が完治してからにしましょう。 猫のノミ・ダニ用品