トップ猫の心を知る猫の幸福とストレス猫の好き嫌い

猫の好き嫌い

 猫には生理的に好むものと、逆に受け付けないものとがあります。猫のストレスを減らし、幸福度を高めるためには、まず彼らの好き嫌いについて理解しなければなりません。

猫が恐れるもの

 猫が安心できる環境を整備するためには、まず「猫が恐れるものは何か?」について理解しておくことが先決です。
 1980年代、ロンドン大学キングズカレッジ心理学研究所のジェフリー・グレイ博士は、人間も含めた全ての動物に共通する恐怖を以下の5つにまとめました。猫にも当てはまるため、これらを理解することが、猫を理解することにもつながると思われます。
動物の恐怖対象
  • 強烈な刺激  手を叩く音や風船の割れる音。大きな声。目の前に突然何かが現れる。
  • 進化の過程で学習した恐怖  水に入ること。個人的距離への侵入。地震や雷。ヘビや体の大きな捕食動物。
  • 社会的に学習した恐怖  他の猫が何かを恐れているとき、釣られて同じものを恐れるようになる。
  • 個別に学習した恐怖  犬とケンカした猫が、以後、犬を怖がるようになる。サバを食べておなかを壊した猫が、サバ嫌いになる。
  • 目新しい刺激  子猫が、見たことのない家に初めて連れてこられた。トイレが急に変わった。食器が変わった。
猫は進化の過程で水への恐怖を学習した  猫に恐怖を与えないためには、上記した地雷を慎重に避けながら接することが必要です。例えば、猫に近づいてほしいとき、手をパンパンと叩いたとします。人間からすると「こっちおいで!」という意味ですが、猫からすると「大きい音がして怖いなぁ・・」という解釈になります。また、猫をなでようとして腕を伸ばしたとします。人間からすると「なでてあげるよ!」という意味ですが、猫からすると「叩かれる!怖い!」という解釈になります。
 一例を挙げましたが、猫のストレスを軽減するためには、生活環境の中から、恐怖の源となるものを一つ一つ排除していくことが重要です。ただし、猫にシャンプーするときなど、必要に迫られたときは、その限りではありません。
個人的距離
 「進化の過程で学習した恐怖」の中に「個人的距離への侵入」とありますが、これは人間で言うパーソナルスペースに該当します。パーソナルスペースとは、他人に近付かれると不快に感じる空間のことです。
 猫にも近づいてほしくない距離というものがあり、その距離の中にズケズケと入ってきた侵入者に対し、恐怖や怒りを感じます。猫が逃げる用意をする距離は、おおむね2メートルと言われています。 縄張り意識がある
猫の好き嫌いトップへ

音の好き嫌い

 猫は男性の低い声を嫌い、子猫の出す2,000~6,000ヘルツヘルツくらいの音を好む傾向があるといいます。こうした好みには、あらゆる動物に共通する「音程の法則」が影響しているようです。

音程の法則

 音程の法則とは、アメリカの博物学者、ユージン・モートンが明らかにしたものです。彼は、鳥類と哺乳類を合わせた合計56種類の動物に関し、その声を分析したところ、どの動物にも共通した原則があることを突き止めました。それは、低くうなるような声を出すときは不快・恐怖・怒りなどマイナスの感情を表し、高く鼻から抜けるような声を出すときは興奮・喜びなどプラスの感情を表すというものです。 低くうなるような声は、ネガティブで体の大きな動物をイメージし、高くなく声は、ポジティブで体の小さな動物をイメージする。  この音程の原則に照らして、もう一度猫の好みを考えてみましょう。
 猫が男性の声をあまり好まない理由は、「音程が低くてマイナスの印象を与えてしまうから」ということが十分考えられます。また単純に、低い声が体の大きな捕食動物のイメージと結びつき、恐怖心が掻き立てられるということがあるかもしれません。
 逆に高めの声を好む理由は、相手のハッピーな精神状態を連想して安心感を得ているからだと考えられます。また、高い声を出す動物は体も小さく、自分にとって捕食者にはなりにくいということを、本能的に知っている可能性もあるでしょう。

ペティーズとは?

 音程の法則に基づいて考えると、猫が嫌いなのは「低くて、大きい音」であり、逆に好きなのは「高くて、小さめの音」であることが分かってきました。では、この知識をうまく日常生活の中に取り入れ、不快感を与えずに猫とコミュニケーションするには、一体どうしたらよいでしょうか?その答えの一つは、ペティーズです。
 ペティーズ(pettise)とは、言葉を理解できない乳幼児に対し、大人が話しかけるときの万国共通の話し方である「マザリーズ」(motherese)のペット版です。具体的な特徴としては、高いピッチ、短い発声、多くの命令、質問、繰り返し、単純な文章、付加疑問文などが挙げられます。 大人が赤ちゃんに話しかけるときの、万国共通の話し方がマザリーズ。そしてそのペット版がペティーズ。  さて、ペティーズが持っているこうした特徴は、猫が好む「高くて、小さめの音」に似通っていることに、既にお気付きでしょう。猫に何かを話しかけるときは、このペティーズに添った形で行うことがよさそうです。
マザリーズとペティーズの違い  人間の乳幼児に対して用いる「マザリーズ」と、ペットに対して用いる「ペティーズ」との違いは、後者の方がより声を潜め、顔の筋肉も緩み、より接近してリラックスした状態で行うという点です。
 また、特に犬に対して用いられるペティーズのことは、「ドゲレル」(Doggerel)という特殊な呼称が存在するほど有名です。

ペティーズの活用

 猫が好むだろう話し方として「ペティーズ」をご紹介しましたが、具体例としては以下のようなものが挙げられます。
ペティーズの一例
  • かわいいねぇ!(高いピッチ)
  • いい子(短い発声)
  • よーしよしよし(繰り返し)
  • おいちかった?(質問)
  • 一杯食べたねぇ、おいちかったねぇ(単純な文章)
  • もうねんねしなさい(多くの命令)
  • 寂しかったんだよねぇ?(付加疑問文)
 これらは「子犬をあやすときのムツゴロウさん」をイメージして頂けると、分かりやすいでしょう。 犬や猫などのペット動物に話しかけるときは、ペティーズを活用して  ただこうしたペティーズは、一人のときはともかく、他人がいるときには抵抗があると思われます。また、女性よりも男性の方が、より強い抵抗を感じることでしょう。しかし、ペットに話しかけるという行為自体は、極めて普通のことであることが分かっています。例えば、1984年にBeckが行った調査によると、およそ1/3の飼い主がペットに話しかけているといいます。また、1982年Treimanらがに行った観察によると、マザリーズのほぼ全ての特徴が、犬に対する一方的な話しかけの中にも現れていることが明らかになっています。さらに女性の飼い主は犬に話しかけるとき、「Doggerel」(ドゲレル)と呼ばれる、ペティースの一種を用いるという報告もあります。
 このように、動物に話しかけることは、恥ずかしいことでもなんでもありません。男性も女性も、やや声を高くして、ムツゴロウさんのように話しかけてあげると、猫は警戒心を解いてくれるはずです。
猫の好き嫌いトップへ

匂いの好き嫌い

 猫の鼻は、犬ほどではないにしても、人間よりは遥かに高性能です。その結果、人間の鼻では感じることができないような微妙な香りに対しても、好き嫌いの反応を示すことがあります。

猫の嫌いな匂い

 猫には嫌いな匂いがあり、具体的には以下のようなものが挙げられます。
猫の嫌いな匂い
  • メチルノニルケトン  石鹸、フローラル系調合香料、フルーツフレーバー等に用いられる。
  • 桂皮アルデヒド  シナモンの香りの主成分。
  • サッカリン  人工甘味料の一つ。
  • チクロ  人工甘味料のひとつ。日本では1969年から使用禁止。
  • カゼイン  牛乳やチーズなどにふくまれるリンタンパクの一種。
  • 中鎖トリグリセリド  香料や化粧品に用いられる。
  • カプリル酸  ココナッツや母乳に含まれる。弱い不快な腐敗臭を持つ油状液体。
 猫は香水を嫌う傾向にありますが、ひょっとすると、香水の中にメチルノニルケトンや中鎖トリグリセリドに似た匂いを感じ取っているからかもしれません。猫と接するときは、不要なデオドラント類を付けたり、匂いのきつい洗剤や柔軟剤を用いた服は、身に着けない方がよさそうです。
 なお2014年、男性の脇の下の汗に含まれている成分が、哺乳類全般に対しストレスを感じさせるという可能性が示されました。男性の脇の下の汗には、哺乳類全般をそわそわさせる危険なにおいが含まれている実験では、男性が着用したTシャツの匂いをマウスに嗅がせたところ、「ストレス関連ホルモンの増加」、「体温の上昇」、「脱糞」といった典型的なストレス反応のほか、「ストレス誘発性無痛覚」(Stress-Induced Analgesia, SIA)という現象を見せたといいます。これは、外敵の存在などを感知した動物が、闘争や逃走に専念するため、一時的に痛覚を鈍らせる現象のことです。また女性のTシャツで同様の実験をしたところ、上記したようなストレス反応は見られなかったとも。
 こうした事実から研究者は、男性の匂いの中でも特に、脇の下の汗に含まれている3種類の化学物質が、マウスを始めとする哺乳類全般のストレス反応を誘発している可能性があることを突き止めました。
 なおこの「ストレス誘発性無痛覚」という反応は、一時的なもので永続性はないとのこと。飼い主の脇の下をわざわざ嗅ぎに来る猫がいるのは、「この男は危険ではない!」と学習した結果なのかもしれません。とはいえ、脇の匂いを放置することは猫にとっても人にとっても得策ではないので、「こまめに汗を拭き取る」、「無香性の制汗剤をつける」といったの身だしなみは必要です。 実験動物、男性の匂いでストレス

猫の好きな匂い

 猫の嗅覚に働きかけて陶酔感を与える植物が何種類か知られています。
 これらの植物に共通しているのは、「7-メチルシクロペンタピラノン」、「7-メチル-2-ピリジン」、「4-メチルベンゾフラノン」という化学基を含むということです。猫に影響を及ぼす以下のような植物には、上記した化学基が含まれているものと推測されます。
猫の行動に影響を及ぼす植物
  • マタタビ
  • キャットニップ(西洋マタタビ)
  • カノコソウ
  • キャットタイム
  • 低木スイカズラ
  • ミツガシワ
 特にマタタビとキャットニップは有名で、猫の陶酔アイテムとして数多くの商品が市販されています。しかしごく少数ながら、「長期に渡る使用によって、周囲環境の一部を認識できない状態が慢性的に続くようになる」との報告もありますので、猫が喜ぶからと言って、あまり大量に与えないようにした方がよいでしょう。 猫とマタタビ  なお、部屋の中を観葉植物で一杯にしたり、アロマオイルを焚いたりすることは控えて下さい。なぜなら、猫にとって有毒になる植物は数百あり、またアロマオイルやエッセンシャルオイルは時に中毒症状を引き起こすからです。「人間が好ましく感じるのだから、猫も好きになってくれるだろう」という考えは、植物に関しては全くの間違いです。 猫にとって危険な毒物 猫にとって危険な有毒植物
猫の好き嫌いトップへ

味の好き嫌い

 猫は味に対する独特のこだわりがあるようです。まとめると以下のようになります。
猫の味の好み
  • 好きな野生動物ウサギ>ハタネズミ>その他のネズミ・食虫動物>イエスズメ
  • 好きな食用肉ヒツジ>ウシ>ウマ>ブタ>ニワトリ>魚
  • 好きな食感トロッとした濃厚な液体
  • 好きな温度熱すぎず、冷たすぎない「人肌」程度
 「好きな野生動物」を見ると、猫はネズミが好きだという風説は、ある程度真実をついているようです。完全室内飼いならともかく、自由に外に出られる猫では、外でネズミを捕らえる危険性が常にあります。危険性と表現したのは、ネズミが数々の病原菌(レプトスピラ・トキソプラズマなど)を運ぶ媒体だからです。猫が妙な病原菌をもらわないようにするためには、避妊・去勢手術を施して放浪欲求を減らした上で、完全室内飼いに切り替えることが望まれます。 猫の不妊手術  手作りフードを用いている人は、「好きな食用肉」の知識がヒントになるかも知れません。猫の栄養要求を全て計算するのは容易ではありませんが、市販のフードに不信感を抱いている方は、自作にトライしてもよいでしょう。
 「好きな食感」や「好きな温度」に関しては、市販のキャットフードを与えるときにも役立ちそうです。例えば、ウェットフードを与えるとき、ただ単に缶からお皿に移すのではなく、レンジで軽くチンして、人肌程度に温めてから与えるなどです。また、乾燥して粉っぽいドライフードを、水で軽く柔らかくしてから与えるのもよいでしょう。 猫の食生活
猫の好き嫌いトップへ

触り方の好き嫌い

 猫は本来、抱きしめられることがそれほど好きではありません。理由は、逃げ出すことができないという状況に対し、本能的な恐怖心を抱いてしまうからです。また、腹部を触られることもあまり好きではありません。これは、腹部が骨格で覆われていない弱い部分だからです。  逆に、顔や頭、首元やうなじなどをなでられることは比較的好きです。理由は、自分ではグルーミングできない部分だからです。複数の動物がお互いにグルーミングし合うことを「アログルーミング」と言いますが、猫同士の間で行うアログルーミングでは、自分では舐めにくい首や顔を舐め合う姿が頻繁に観察されます。また、触るスピードは「母猫が子猫を舐めるリズム」がベストです。これは、無条件の愛に包まれていた子猫の頃の記憶が蘇るからだと考えられます。  通常、猫は「ポンポン」と叩かれることを好みません。しかし一部の猫では、お尻周辺を叩かれる事を好むものもいます。理由は定かではありませんが、恐らく人間で言うと「電車に乗ってガタゴト揺られる」感覚に近いのではないかと考えられます。一定のリズムで体に加わる振動を心地よいと感じるのは、人間も猫も同じなのでしょう。猫がしっぽをピンと伸ばして、腰を突き出してきたら、「気持ち言いからもっとやって!」のサインです。 猫マッサージ
猫の好き嫌いトップへ