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猫の欲求

 猫は様々な欲求を抱きながら生きています。こうした欲求を理解し、猫にストレスのない生活を送らせてあげることが、飼い主の重要な義務の一つです。

猫の欲求階層

 猫の欲求は生理的欲求安全欲求、および行動欲求とに分けられます。この考え方は、アメリカの心理学者、エイブラハム・マズローが提唱した「人間の欲求階層説」を元にして、Curtisらが動物向けにアレンジしたものです。
 生理的欲求とは「生きていく上で欠くことのできない欲求」、安全欲求とは「不快から解放されようとする欲求」、そして行動欲求とは「生きていく上で必ずしも必要ではないものの、極めて重要な欲求」の事を、それぞれ意味します。
 これら三段階は、イギリスのブランベル委員会が定めた家畜動物の5つの自由をシンプルに言い換えたものとも言えるでしょう。5つの自由とは、「飢えと渇きからの自由」・「不快からの自由」・「痛み・怪我・病気からの自由」・「恐怖や苦悩からの自由」・「正常な行動を表出する自由」のことです。
 猫の欲求階層を具体的に示すと、以下のようになります。対比として、人間の欲求階層も載せました。階層が下であればあるほど、必要性が高いことを意味しています。
猫の欲求階層
人間と動物の欲求階層比較図
  • 生理的欲求 食べる・飲む・眠る・体温を維持する・排泄をする・呼吸をする
  • 安全欲求 病気・怪我などから解き放たれる
  • 行動欲求 探索する・追いかける・触れ合う・遊ぶ・交尾する
動物感覚(NHK出版, P128) 動物への配慮の科学(チクサン出版, P44)
 ちなみに、人間の欲求階層には、「他人から認められたい」(承認の欲求)や「夢を実現したい」(自己実現の欲求)といった、人間特有の高度な欲求まで含まれます。具体的には以下。
マズローの欲求階層説
  • 生理的欲求 生命維持のための食事・睡眠・排泄等の本能的・根源的な欲求。
  • 安全の欲求 安全性・経済的安定性・良い健康状態の維持・良い暮らしの水準、事故防止、保障の強固さなど、予測可能で秩序だった状態を得ようとする欲求。
  • 所属と愛の欲求 情緒的な人間関係や他者に受け入れられているという感覚、および何らかの組織や集団に所属しているという感覚に対する欲求。
  • 承認(尊敬)の欲求 自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求。
  • 自己実現の欲求 自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して自分がなりえるものにならなければならないという欲求。
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猫の生理的&安全欲求を満たす

 猫の生理的欲求とは、「食べる・飲む・眠る・体温を維持する・排泄をする・呼吸をする」といった、生きていく上で欠かすことのできない、極めて根源的な欲求のことです。また安全欲求とは「病気・怪我から無縁で、常に安心した状態を保つ欲求」の事を指します。
 これら生理的欲求と安全欲求を満たす際の、具体的な知識としては、以下のようなページが参考になるでしょう。
猫の生理的&安全欲求を満たすには?
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猫の行動欲求を満たす

明確な応えのない行動欲求を満たしてあげることが、今後のアニマルウェルフェアの進むべき道  猫の行動欲求とは、「生きていく上で必ずしも必要ではないものの、極めて重要な欲求」のことです。「命に関わるわけではないから、重要ではない」と軽視される傾向にありますが、この行動欲求を満たしてあげることが、今後のアニマルウェルフェア(動物への配慮)の進むべき道だと思われます。かのガンジーも「ある国家の偉大さ、その国におけるモラルの成熟度は、動物の扱われ方を見れば分かる」という言葉を残しています。
 以下は、様々な資料を元にして作成した、猫の行動欲求リストです。猫は口が利けないので、どうしても推測の域を出ませんが、少なくとも猫にとって害になることはありません。
猫の行動欲求・目次

身づくろいする

 「身づくろいする」とは、自分で自分の体をメンテナンスすることです。代表的な行動としては「毛づくろい」、「爪とぎ」、「日向ぼっこ」の3つが挙げられます。 猫の身づくろい行動~毛づくろい・爪とぎ・日向ぼっこ

毛づくろいする

 「毛づくろい」には、「体温を下げる」、「ノミの繁殖を予防する」、「血流を促進する」などたくさんの目的があります。グルーミングが72時間制限されると、その後12時間におけるグルーミングが67%も増加する(Eckstein, 1997, 2000)というデータもありますので、猫にとってグルーミングは欠かすことのできない身づくろい行動の一つと言えるでしょう。 毛づくろいがばかりする

爪をとぐ

 「爪とぎ」には、古くなった爪の鞘を取り除くという目的のほか、指の間にある脂腺を対象にこすりつけ、自分の匂いを残すという目的もあります。人間で言うと「お風呂に入る」ような感覚に近いため、この行動が制限されると猫は大きなストレスを感じてしまいます。常に爪の引っかかりやすい爪とぎを用意しておくことが重要です。 爪をとぐのが好き

日向ぼっこをする

 「日向ぼっこ」には、体温の維持、被毛の殺菌と言った意味がありますので、猫にとって大事なメンテナンス行動の一つと言えます。日当たりのよい窓辺などに、猫専用のお昼寝スペースを設けてあげると喜ぶでしょう。 日向ぼっこが好き

探索する

 「探索する」とは、恐怖を感じない程度の新鮮な刺激を求めることです。「好奇心を満たす」と言い換えてもよいでしょう。犬ほどではないにしても、猫にもこの探索欲求はあるため、飼い主が日常生活の中で満たしてあげる必要があります。
 猫の好奇心を満たす方法の一例は以下です。ただし、「外に出して自由に行動させる」ことには、メリットをはるかに凌ぐ数々のデメリットがありますので、当サイトでは推奨しておりません。猫を外に出すことの危険性に関しては以下のページをご参照ください。 猫をどこで飼うか?

新鮮な刺激を与える

通りを見渡せる場所に猫の休息場所を作ることが、猫への刺激になる  1日1個でも、何か新鮮な刺激を与えるようにします。最も単純な方法は、通りを見渡せる場所に猫の休憩所を作ることです。DeLuca(1992)らの研究では、多頭飼いされている猫たちは、多くの時間を窓辺に座り、そこから見える環境の変化を観察して過ごしたといいます。猫たちにとっての「通りの眺め」は、私たち人間にとっての「映画」に相当するのかもしれません。なお、猫は味の変化にはうるさいため、毎日違うエサにするという方法は避けた方がよいでしょう。

ユーストレスを与える

猫に犬の鳴き声を聞かせたり、カラスの姿を見せることは、適度なストレス=ユーストレスになってくれる  「ユーストレス」とは、動物にとって利益をもたらすストレスのことです。例えば、サルの一種である「ワタボウシタマリン」に、捕食者である鳥を刺激として見せたところ、異常行動が減少し、逆に仲間同士の社会的行動が増えたといいます(Chamoveら, 1990)。
 このユーストレスを猫に応用する際は、例えば、動画サイトで他の猫の姿を見せたり、犬の鳴き声を聞かせたり、カラスの鳴き声を聞かせるなどの方法があります。猫が耳をピンと立てて瞳孔を開いたら「興味津々」ということで成功です。しかし一目散でどこかに隠れたり、威嚇の「シャー!」という声を出したら「刺激が強すぎ」ということですので、もう少し弱い刺激に切り替えるようにします。

コンロラフリーローディング

動物は、わざわざ遠回りして目的を果たそうとする傾向がある=コントラフリーローディング  「コンロラフリーローディング」とは、目的を達成するために、あえて自分に対して労働を課す現象のことです。例えばハシブトインコは、たとえ食事を自由に得られる状況にあっても、なぜか丸太の陰に隠したエサなど、たどり着くために時間の掛かる方を、わざわざ選んで食べるといいます(Coultonら, 1997)。この現象も、探索欲求を満たす行動の一種なのかもしれません。
 コンロラフリーローディングの考えは、犬や猫にも応用できそうです。例えばMcCune(1995)は、穴の空いた容器の中にドライフードを入れておき、犬や猫に1粒ずつ取らせる方法を提案しています。この方法を用いれば「エサを探索する」という行動自体が、動物に満足感を与えてくれる可能性があります。最近は「トリートボール」などの商品も市販されていますので、これを利用するのも手です。パズルフィーダーの詳しい導入ガイドラインに関してはこちらの記事をご参照ください。

狩りをする・遊ぶ

 猫に「狩り」という行動を取らせる狩猟欲求は生得的なものです。
 農場の飼い猫やその他の家庭のメス猫を観察したところ、食料が確保されているにもかかわらず、外に出て遠くまで移動するという行動が頻繁に見られるそうです(Libergら多数の研究)。こうした「満腹狩り」という行動は、狩猟欲求は食欲とは別物であり、個別に満たす必要があることを示しています。 しとめた獲物をもてあそぶ  猫の狩猟欲求を満たす方法は、大きく分けて2つあります。一つは猫を外に出して自由に狩猟させること。そしてもう一つは、家の中で飼い主がおもちゃを使い、「狩りごっこ」をすることです。 猫の狩猟欲求を満たす際は、屋外で自由に狩をさせるのではなく、室内で飼い主が狩りごっこをしてあげること  前者の方法は、猫を外に出すことのリスク(事故・迷子・感染症・虐待etc)のほか、捕食動物の持つ病原菌(ドブネズミのレプトスピラ、トキソプラズマなど)をもらってしまうというリスクを含んでいますので、到底お勧めできません。
 後者の方法はコツさえつかめば誰でも簡単に実行できるものです。また、DeLucaら(1992)の研究では、「研究施設の中で飼われている猫たちは、おもちゃを用いて人と接触することを明らかに好む」ことが確認されています。これら「簡便性」と「嗜好性」という観点から、狩猟欲求を満たすために猫と遊んであげることは、全ての飼い主にお勧めです。
 なお、猫と遊ぶ際のコツとは、猫にとって獲物になりやすい「ネズミ」、「トリ」、「ウサギ」の動きを、おもちゃで上手に再現してあげることです。詳しくは以下のページをご参照ください。 猫と遊ぶ

距離を保つ

猫に必要なのは、他の個体から距離を置くのに十分な広さと高さ  猫には、他の猫や人間から十分な距離を置くだけの空間が必要です。
 猫は、集団で生活しているときでさえ、そのほとんどの時間は単独で過ごしていると言います(Barry, 1995)。また、エサが豊富な行動中心域に集まることはあっても、猫たちはたいていその領域内では単独で過ごすとも。このように猫は、他の個体からある程度の距離を置いて過ごすことを好むようです。
 また、以下に挙げるような研究結果から、室内飼育している猫には、最低でも他の個体から2メートル以上の距離を保てるような空間が必要だと思われます。もちろん、これより広いに越したことはありません。
猫に必要な空間
  • Kesslerら(1999)  保護施設で猫を複数飼育する場合、1頭当たり1.67平方メートルの広さが必要である。
  • Brunner(1968)  猫が恐怖を感じて他の動物から逃げ出す逃走距離は、おおよそ2メートル。
  • Bernstein(1996)  去勢済みの猫14頭を対象にした観察では、1頭当たり10平方メートルの空間を保てる平屋で共同生活を送っている場合、猫たちはお互いに適度な距離を保ち、ほとんどケンカすることはなかった。
 さらに、1995年にBarryが行った観察では、室内飼育の猫の場合、20%は1メートル未満のやや高い場所で、4%は1メートル以上の比較的高い位置で、残りの時間は床の上で過ごすそうです。また2016年に行われた調査では、キャットタワーを設置してあげるだけで、多頭飼いしている猫間の敵対行動が減ることが確認されています(→詳細)。ですからただ単に広いだけではなく、猫が好む高い場所にも休憩スペースを作ってやることが重要と言えるでしょう。 キャットタワー一覧 高い場所が好き

隠れる

 適度な「距離」同様、猫には身を隠すための「隠れ家」も必要です。
 ネコ科動物は、隠れ家を与えることで探索行動が増加し、逆に常同行動(じょうどうこうどう)が減少すると言います。「探索行動」は、動物が心身ともに健全であることの指標であり、「常同行動」は、動物がストレスを感じていることの指標です。また1996年にBernsteinらが行った実験で、部屋の中にいる猫のほとんどは壁際をお気に入りの場所にすることが明らかになりました(下図参照)。外敵から身を隠すため、猫は本能的に壁を背にする癖があるのかもしれません。 部屋の中における猫の行動を観察すると、壁際をお気に入りの場所にしていることが分かる  その他、猫にとっての隠れ家の必要性は、以下に挙げるような研究結果からも示されています。
猫に必要な隠れ家
  • Carlsteadら(1993)  ベンガルヤマネコはストレスを感じているとき、まるで人目を避けるかのように隠れ家で横になる。
  • Shepherdson(1994)  ウンピョウに隠れ家を与えたところ、ストレスの度合いを示す糞中のコルチゾール値が低下した。
  • UFAW(2007)  「身をすっぽりと隠せる箱を与えられた猫」と「囲いの無いベッドのみを与えられた猫」とでは、前者において大幅なストレスの軽減が見られた。
猫には、ストレスを軽減するため、物陰に隠れるという習性がある。  このように、ネコ科動物はストレスを感じているときに隠れ家を利用するようです。2016年にオランダ・ユトレヒト大学が行った最新の調査でも、保護施設に収容された野良猫のうち、箱を与えられたグループ10頭のストレスレベルは、箱を与えられなかったグループ9頭のストレスレベルよりも、有意に低かったという結果が出ています(→詳細)。つまり、猫のストレスを軽減するには隠れ家が必要だということです。具体的には、猫がすっぽりと入れるようなキャットハウス、クレート、猫ちぐら、ベッドの下の空間などを、猫用の隠れ家として用意してあげるとよいでしょう。さらに、それらをなるべく壁際に近い場所に設置してあげるとベターです。 猫に必要な睡眠・管理グッズ 狭くて暗い場所が好き
動物と隠れ家  ネコ科動物のみならず、動物全般にとって隠れ家はとても重要です。
 例えば、イヌ科動物であるギンギツネの繁殖場でケージの中に巣箱を併設すると、キツネの恐怖心が軽減されて新奇な環境を探索しようとする行動が増えたと言います(Jeppesenら, 1991)。また、ウサギを隠れ家のあるケージで飼育したところ、異常行動が減少したとも(Hansenら, 2000)。
 このように、外界から自分を見えなくする「隠れ家」の存在は、様々な動物にとって非常に重要な意味を持っているのです。

触れ合う

 猫は孤独を好むという印象が強いですが、猫にも触れ合いは必要です。猫の行動学者Leyhausenは「猫は定期的に交流を持つ社会的な肉食動物である」と言っています。また、この言葉を裏付けるかのように、1986年にVoithらが行った調査では、「飼われている猫の大多数は、他の猫と頻繁に社会行動を行っている」という結果が出ています。

子猫と触れ合い

 子猫にとって触れ合いは、性格を形成するために必要なものです。
生後2~7週齢の間に人間がハンドリングすることで、猫の性格は穏やかになるといわれる  1984年、Karshが行った実験では、「子猫を人懐こい性格にするには、生後2~7週齢の間に人と触れ合う必要がある」という結果が出ています。また、1980年にGuyotが行った観察では、「兄弟猫との社会的遊びが極端に少なかった子猫は、兄弟猫と一緒に遊んで育った子猫に比べ、噛み付く頻度が高く、また強く噛み付く傾向がある」とのこと。
 このように、子猫にとって他の猫との接触や人間との接触は、性格を形成する上で欠かすことのできない重要なものなのです。 猫の性格

成猫と触れ合い

 成猫にとって触れ合いは、ストレスを軽減するために必要なものです。
成猫と触れ合うことは、人間と猫、双方に対してよい効果をもたらす。  1993年、Carlsteadらが行った調査では、「人が猫に話しかけたり愛撫したりすることをやめると、猫の尿中のコルチゾール値上昇が見られた」という結果が出ています。「コルチゾール値」とはストレスの指標のことで、上がれば上がるほどストレスを感じているということです。また1993年、Scraedeが行った調査では、「猫の飼い主は何も飼っていない人に比べ、精神医学的な問題が少なく、落ち込んだり不眠になったりすることが少ない。さらに、動物一般に対して肯定的な態度を持ち、ストレスを感じることがおおむね少なかった」そうです。
 こうした事実を考え合わせると、「人間と猫が触れ合っているとき、両者共にリラックスしている」と言ってもよいでしょう。つまり、成猫のストレスを軽減するためには、触れ合いが必要ということです。猫マッサージを日課にしておけば、病気の早期発見とストレス解消という、一石二鳥の効果が期待できます。

交尾する

 異性と交尾するという行動は、しなかったからと言って死んでしまうものではありません。しかし、性欲が満たされないとストレスの原因になることも確かですので、放置するわけにもいかないでしょう。
 性欲に起因する猫のストレスを軽減するには、2つの方法があります。一つは、猫に自由に交尾させること。そしてもう一つは、不妊手術を施すことです。 猫の性欲を管理するには、自然交配を許すのではなく、事前に不妊手術を施すことが賢明  猫の自由交尾を許した場合、「猫に自然な行動を取らせる」という観点から考えると、一見、正解のような印象を受けます。しかし、繁殖期の猫を自由に行動させて生まれてきた子猫たちの多くは、面倒が見切れず、殺処分という憂き目に会うことも事実です。 猫の殺処分について  不妊手術を施した場合、性欲自体が減少しますので、それに連動してストレスも自然と低減されます。また、生殖器の一部を取り除くことにより、それに関連した疾病の発症率が下がることも確認されています。デメリットは「体を復元することができない」という点でしょう。
 ストレスの根本原因である性欲自体を減少させること、処分される子猫の数を減らすこと、および生殖器関連の疾病を予防すること、などを考え合わせると、不妊手術を施すことが、飼い主が猫に与えられる最大の優しさだと思われます。 猫の不妊手術
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