トップ猫の迎え方猫を飼う室内環境猫のキャティオ(catio)

猫向けのパティオ「キャティオ」~種類やDIYでの作り方からメリット・デメリットまで

 戸建て住宅が多いアメリカでは、放し飼いと室内飼いの中間地点として「Cat Enclosure」(猫用の囲い)と呼ばれる屋外区画を設けている人がたくさんいます。「patio」(パティオ)を文字って「catio」(キャティオ)とも呼ばれるこの区画は一体どのような特徴を持っているのでしょうか?詳しく解説します。

キャティオの意味と種類は?

 「キャティオ」(catio)とは、猫が屋外環境と接触できるよう、家に隣接する形で設けられた特別空間のことです。名前は「patio」(パティオ)と「cat」を文字って考案されました。アメリカにはキャティオをキットで販売している専門の業者がおり、概ね以下のようなタイプを取り扱っています。
市販キャティオのタイプ
  • ベランダ型「ベランダ型」はベランダやバルコニーの空間を利用して設置します。ベランダ型キャティオはバルコニーの小空間を利用
  • 窓下型「窓下型」は窓に隣接する形で設置します。窓下型キャティオは窓に隣接した空間を利用
  • 独立型「独立型」は家屋から離れた場所に独立する形で設置します。独立型キャティオは家屋から離れた広い空間を利用
 全てのタイプに共通しているのは骨組みと金網で直方体を作り、猫が自由に動き回れるスペースを作るという点です。近年はキャティオを採用する動物保護施設があったり、DIYで作ってしまう人もいます。 NEXT:メリットや長所は?

キャティオのメリット・長所は?

 以下はキャティオによって猫が得られると考えられるメリットです。ただし「完全室内飼いのメリット」と重複する部分は省いてあります。
キャティオのメリット
猫は外を見張って異常を確認する「ニャルソック」が大好き
  • 運動量が増える移動する空間が増えますので、猫の自発的な運動量が多少増えると考えられます。
  • 外の空気を吸える密閉された室内とは違う空気を吸うことができます。外の空気の方が美味しいという科学的な根拠はありませんが、周囲が緑に囲まれているような地域だと、室内の空気よりは多少化学物質が少ないかもしれません。
  • 開放感を味わえる四方を壁で囲まれた室内とは違い、自分の周囲がスカスカですので、ある種の開放感を味わえるかもしれません。
  • ストレス解消になる猫の性格にもよりますが、冒険好きな猫の場合、五感に新鮮な刺激を与えることがストレス解消につながってくれる可能性があります。二大性格で分類した時「大胆系」に区分されるような比較的好奇心旺盛な猫たち限定です。
 なお2021年にイギリスのリンカーン大学が行った報告では、「キャティオ」を含む猫向けの囲い網製品が、猫にとっても飼い主にとっても大きなメリットをもたらすことが確認されています。調査の詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 猫の屋外行動を制限する「囲い網」の効果 NEXT:デメリットや注意点は?

キャティオのデメリット・注意点は?

 以下はキャティオを設置することによって発生すると考えられるデメリットです。販売業者の中には感染症にかかる危険性がないことを売りにしているところもありますが、必ずしも真実というわけではありません。
キャティオのデメリット
囲いの中にいても猫と他の動物が接する可能性はゼロではない
  • 他の猫との接触キャティオの近くに野良猫がやってきて、家を中にいる猫と接触する可能性を否定できません。例えばフェンス越しに鼻挨拶をしているとき、野良猫がくしゃみをしてヘルペス猫カリシウイルスを内猫に移してしまうなどです。特に窓下設置型と独立設置型においてこの確率が高まります。
  • 空間を区切っているのは金網ですので、金網の目よりも小さい生き物はキャティオの中に入ってくることができます。例えばノミ、ダニ、蜂、蚊、なめくじ、アリなどです。ノミダニは皮膚炎、蜂は刺咬症、蚊はフィラリアを媒介しますので、一部の業者が謳っている「キャティオは安全!」という宣伝文句は誇大広告になるでしょう。
  • キャティオの上面は鳥にとって格好の休息場所になってしまいそうです。上から糞が落ちてきたら不衛生ですし、クリプトコッカスといった病原菌を媒介することもあります。また、鳥の姿を見た猫が興奮して歯をカチカチ鳴らし、天井に向かって飛び上がってしまうかもしれません。激しい動きに伴って怪我をしたり、獲物を捕獲できないストレスが蓄積することも考えられます。
  • 脱走設置の仕方が不十分だと、金網の破損部や隙間などから猫が脱走してしまう危険性があります。特に見よう見まねで作った日曜大工のキャティオなどは、十分に注意する必要があるでしょう。
  • 夜鳴き夜になって「外に出たい!」と大声で鳴きわめくかもしれません。これはハーネスを使って猫を散歩させている場合にも言えることです。
  • 汚れキャティオは屋外の空気にさらしている状態ですので、空気や雨による汚れ、虫や鳥の糞といった汚染物が徐々に蓄積していきます。定期的に掃除しないと猫の被毛に付着し、グルーミングを通じて間接的に摂取してしまうかもしれません。
  • 紫外線室内にいる場合、たとえ日向ぼっこをしても窓ガラスの存在によってある程度紫外線がカットされます。しかし屋外にいる場合、太陽光がダイレクトに当たることになりますので紫外線によるダメージがその分大きくなります。特にサマーカットと称して猫を丸刈りにしているような場合は、皮膚に対するダメージが相当大きくなるでしょう。
  • 気温室内にいる場合、エアコンによって温度が管理されていますので体温調整はそれほど大変ではありません。しかし屋外にいる場合、夏にしても冬にしても外気温と体温との間に大きな格差が生まれます。猫は一般的に暑さに弱いですから、夏場は熱中症にかかってしまうかもしれません。
NEXT:猫はキャティオ好き?

そもそも猫はキャティオを好む?

 飼い主として気になるのは猫がキャティオを気に入ってくれるかどうかですが、残念ながら猫はそもそも開けた場所があまり好きではない可能性があります。
 例えば1981年、Panamanらがイギリスで農場猫の行動を昼夜に渡って観察したところ、活動の中心域から遠出する際は、長く生い茂った草の間や茂みの中、および建物の上などを積極的に活用し、開けた場所を避ける傾向があったと言います。また2007年、Brickner-Braunがイスラエルの集落で猫の観察を行ったところ、砂漠地帯を横切る時は、木の陰や茂みを利用したとも。
 単純に直射日光を避けた結果かもしれませんが、ひょっとすると猫の遺伝子には外敵の目につきやすい開けた空間を本能的に避けるという行動パターンがプログラムされているのかもしれません。 猫の自発的な活動パターンを観察するための生活空間  また近年、室内空間と室外空間を自由に行き来できる猫を対象とした自発的行動調査が行われました。その結果、キャティオに似た室外空間に置かれたキャットツリーの使用時間が4時間だったのに対し、屋内の壁際に設置された棚の使用時間が11時間だったと言います(上図参照)。
 キャットツリーのデザインが気に入らなかったという可能性は否定できませんが、猫はそもそもオープンスペースを好まないという仮説を補強するものとも考えられます。 猫たちの自発的な行動パターンは活動3割の安静7割  猫の好みに関する考察を深めていくと、猫は開放的な空間を積極的に好むわけではないという可能性が見えてきました。メリットの項目で「開放感」という言葉を使いましたが、それはあくまでも人間の主観であり、猫には当てはまらないのかもしれません。
 環境エンリッチメントの一環としてキャティオを設ける事は、アメリカにおいて普及しつつあります。しかし安易に真似する前に、「開放的な空間に対する感じ方は人間と猫とでは大きく異なること」、「囲まれた空間内にいても100%安全というわけではないこと」を理解しておく必要があります。
 時間とお金と労力をかけてキャティオを設置する前に、まずは以下のように室内のエンリッチメントを拡充してはいかがでしょう。どの休息場所を選ぶかは猫の気分次第です。 猫が喜ぶ部屋の作り方ガイド
まだ間に合う!室内エンリッチメント
  • 隠れ家を増やす
  • 壁際の見晴らし台を増やす
  • 日向ぼっこスペースを増やす
NEXT:DIYで作るキャティオ

キャティオをDIYで作るには?

 その気になればキャティオをDIYで作ることも不可能ではありません。しかし、それなりの知識と労力が必要です。
自作キャティオの注意点
  • 骨組みキャティオの骨組みは安普請じゃダメ かなり大きな地震や台風が来ること、および猫がよじのぼることを想定して強度を設定する必要があります。ポリ塩化ビニルパイプなどでいい加減な設計をしてしまうと、最悪のケースでは骨組みが崩れて猫が脱走し、そのまま行方不明になってしまいかねません。また骨組みに木を使う場合は、表面に塗る保護剤によって、猫が中毒に陥ってしまわないよう気をつけます。
  • 金網・フェンスキャティオの金網は切端に注意キャティオのフェンスは隙間ができやすい 骨組みの周囲に貼る金網を切り売りで買った場合は、縁の鋭利な部分で猫が怪我をしないよう気をつけます。市販のフェンスを用いる場合は、組み合わせる時に隙間ができてしまいますので、猫が通り抜けできないことをしっかり確認します。
  • 天井キャティオの天井は脱走予防のために必須 「こんな高いところまでは上らないだろう」とタカをくくり、天井を設置しないのは絶対にNGです。猫は2mくらいのフェンスなら簡単に乗り越えますので、金網など猫が破壊できない素材で空間を遮断するようにします。
 マンションをはじめとした賃貸住宅の場合は防災上の観点から問題に発展することがありますので、事前に契約書をご確認ください。また一戸建て住宅の場合は建築基準法の「増築」に該当します。お住いの地域が防火地域なのか、準防火地域なのか、非防火地域なのかによって微妙に増築の可否が変わりますので、所属の行政機関に必ずご確認ください。
いずれにしても、設置に際しては「キャティオのデメリット」で解説した数々の注意点を、事前によく理解しておくことをおすすめします。