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猫は赤ん坊の息を盗む

 猫の都市伝説の一つである「赤ん坊の息を盗む」について真偽を解説します。果たして本当なのでしょうか?それとも嘘なのでしょうか?

伝説の出どころ

赤ちゃん用ベッドに入った猫  欧米には「猫が赤ん坊の息を盗む」といった類の都市伝説があります。例えば、「5月生まれの猫は子供の息を吸い取る」(ラドフォードの「迷信事典」, 1947年)や「猫は眠っている間に忍び足で近づき、人の体の中から全ての息を吸い取ると信じられている」(リチャード・ウェブスターの「迷信事典」, 2008年)などです。
 こうした風説の出どころは、1500年代に活躍したイギリスの小説家ウィリアム・ボールドウィンの「Beware the Cat」(1561年)という作品ではないかと考えられています。この本の中で注目すべきは、「その猫は(中略)彼の口元に近づいて息を吸い込んだため、もう少しで窒息させるところだった」という一節です。そもそも本の内容がかなりオカルトチックなものであるため、上記した猫の話が事実に即したものとはとうてい考えられません。しかし「猫が赤ん坊の息を吸い取る」という風説の原型になった可能性は十分にあります。
 一方、ネット上でよく見かけるのは、「1791年、イギリス・プリモスの法廷において、検視官が赤ん坊の死を猫のせいだとした。そこからこの都市伝説が始まった」というものです。しかしこのお話は、ネット上で広く出回っているにもかかわらず、誰一人として明確な情報源を示せていません。ですから、かなり眉唾物と考えてよいでしょう。
 情報源がはっきりしているものとしては、1930年、医師であるモリス・フィッシュバイン氏が著した「Shattering Health Superstitions」(健康迷信をぶっとばせ)内に記載されている逸話があります。モリス医師は出版前年の1929年、アメリカ・ネブラスカ州の州報に記載された医師の談話を、以下のように紹介しています。
 猫が赤ん坊の息を吸い取っている、まさにその現場を目撃したんです。猫は赤ん坊の胸の上に乗り、両前足を口元において唇に吸い付いていました。赤ん坊の顔は、まるで死人のように青ざめていました。
 モリス医師はこの事例を、「猫と魔女とが結びつけられていた時代の名残だ」として一蹴しています。しかしそれを明確な根拠を持って証明するまでには至らなかったようです。はっきり証明された事例が登場するまでには、さらに70年という長い年月を待たなければなりませんでした。
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伝説の検証

 猫と赤ん坊の死とを医学的に検証した事例としては、2000年にイギリスで起こった赤ん坊の突然死が有名です。
 イギリス・デヴォン州に暮らすニコーラ・ペインさんは、生後6週齢の赤ん坊ケイロンに朝の授乳をしようと部屋に入りました。すると猫が赤ん坊の上に覆いかぶさっており、ケイロンは瀕死の状態です。ニコーラさんと父親のイアンさんは急いで病院に搬送したものの間に合わず、ケイロンはそのまま息を引き取ってしまいました。警察の調べに対しニコーラさんは、「赤ん坊の死は猫のせいだ」と主張しました。 Baby death:Cat not to blame
 この事例に関してはその後、ブリストル病院において検視や組織検査が行われ、赤ん坊の死は「乳幼児突然死症候群」(SIDS)が原因だったことが判明しています。乳幼児突然死症候群の原因自体がよくわかっていないものの、少なくとも赤ん坊の死と猫とは無関係であることが確認されました。
乳幼児突然死症候群
 「乳幼児突然死症候群」(SIDS)とは、それまで元気だった赤ちゃんが、眠っている間に突然死亡してしまう現象のことです。好発年齢は生後2~6ヶ月で、6~7千人に1人の割合で発症すると推計されています。明確な原因は分かっていないものの、少なくとも外傷や窒息ではなく、男児、早産児、出生時の低体重、冬、早朝から午前中、うつぶせ寝、両親の喫煙、人工栄養などが危険因子と考えられています。乳幼児突然死症候群(SIDS)について(厚生労働省)
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伝説の結論

猫と赤ん坊との仲睦まじい光景がいわれのない俗信を生んだ  猫と赤ん坊を結びつける都市伝説は、様々な要因が複雑に絡みあって生まれたものだと推測されます。例えば、猫アレルギーによる小児喘息が「猫が赤ん坊の息を盗む」という風説になったり、乳幼児突然死症候群を起こした赤ん坊の隣でたまたま猫が昼寝をしていたため「猫が赤ん坊の命を奪った」という風説になったり、赤ん坊の口元についたミルクをなめている場面が「猫が赤ん坊の生気を吸い取る」という風説になったりなどです。いずれにしても、猫が積極的に赤ん坊に危害を加えるという事はなさそうですので、安心しても良いでしょう。
 一方、現実に起こりうる現象として注意すべきことがあります。それは「人獣共通感染症」と「乳幼児突然死症候群」です。

人獣共通感染症の予防法

 「人獣共通感染症」(じんじゅうきょうつうかんせんしょう)とは、人から動物、動物から人へと感染する能力を持った病気のことです。赤ん坊やエイズ患者、高齢者や妊婦など、免疫力が不完全な人において発症しやすいと言われています。しかし予防法に関してはそれほど難しくありません。
 2015年、アメリカ・オハイオ州立大学を中心とする研究グループが、世界中で行われた人獣共通感染症に関する研究をもとに、ペットからの感染リスクを最小にする方法をまとめました。具体的には以下です。 The Ohio State University
人獣共通感染症予防
  • 水槽やケージを掃除する時や糞の始末をするときは手袋をはめる
  • ペットを触った後はしっかりと手洗いをする
  • ペットに顔をなめさせない
  • 爬虫類や両生類などサルモネラ菌を保有した生き物は極力素手で触らない
  • ペットのケージ、給餌場、寝床を定期的に消毒する
  • ペットのトイレを調理場から遠ざける
  • 免疫力が回復するまでペットの飼育を保留する
  • ペットを定期的に動物病院へ連れて行く
 人獣共通感染症に含まれる具体的な病名や、赤ちゃんと猫を同居させる際の注意点については、以下のページでもまとめてありますのでご参照ください。 人獣共通感染症 赤ちゃんと猫

乳幼児突然死症候群の予防法

 「乳幼児突然死症候群」(SIDS)とは先述したとおり、明確な原因もなく、睡眠中の赤ちゃんが突然死んでしまう現象のことです。生後6ヶ月未満の乳幼児に多く、6~7千人に1人の割合で発症すると推計されていますが、明確な原因についてはいまだに分かっていません。厚生労働省が発表している予防策としては以下のようなものがあります。
SIDS予防策
  • 早朝から午前中は要注意
  • うつぶせで寝かさない
  • 周囲での喫煙は控える
  • 母乳を優先する
 上記した注意点のほか、人間と動物の病気を同一平面上で考える「汎動物学」(ズービィキティ)の提唱者バーバラ.N.ホロウィッツ女史は、大きな音を避けた方がよいと主張しています。女史の説によると、「うつぶせで寝ている赤ん坊に、びっくりするような大きな音を聞かせると、警戒性徐脈が発動し、急激に血圧が低下する」とのこと。「警戒性徐脈」(けいかいせいじょみゃく)とは、危険を察知した生体が外敵に見つかる可能性を減らすため、瞬間的に血圧を下げて体の動きを最小限に抑制する反応のことです。この説はまだ実証されていませんが、覚えておいて損はないと思われます。具体的な活用法は、赤ん坊の周囲で「大声での口論」、「目覚まし時計」、「携帯の着信音」といった大きな音を出さないようにするなどです。 人間と動物の病気を一緒にみる(インターシフト)
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