トップ2015年・猫ニュース一覧11月の猫ニュース

11月の猫ニュース

 2015年11月の猫に関するニュースをまとめました。一番上が最新で、下にスクロールするほど記事が古くなります。記事内にリンクが貼られていることもありますが、古い記事の場合はリンク切れの時がありますのでご了承下さい。

11月30日

 直腸、鼓膜、脇の下(腋窩)の3ヶ所を用いて行った体温測定により、これらの測定値には信頼のおける互換性がないことが判明しました。
 調査を行ったのは、イギリス・グラスゴー大学の研究チーム。150頭の猫を対象として体の各部における体温測定を行い、それらの値にどの程度の差があるのかを検証しました。「直腸温」を基準とした時の結果は以下です。
腋窩温度
  • 90.6%が抵抗を示さない
  • 差異幅は-1.2~1.4℃で平均が0.1℃
  • 78.0%が±0.5℃の範囲内
  • 直腸温が高いほど差異が広がる
  • 太り気味、不妊手術済み、右の腋窩で差異が広がる
鼓膜温度
  • 81.2%が抵抗を示さない
  • 差異幅は-1.6~3.0℃で平均が0.3℃
  • 51.3%が±0.5℃の範囲内
 こうしたデータから研究チームは、鼓膜温や腋窩温を直腸温の代わりに用いない方がよいと推奨しています。ただし、どうしても直腸温の計測が困難な場合は、腋窩温度の方を採用するようにとのこと。直腸温は深部体温を反映する最も信頼のおける計測方法ですが、47%の猫では抵抗を示すというデータもありますので、一長一短と言ったところでしょう。 猫の「正常」を知る Comparison of axillary, tympanic membrane and rectal temperature measurement in cats

11月27日

 高齢猫で頻繁にみられる糖尿病のおよそ四分の一には、猫の顔を変形させてしまう「先端肥大症」という他の病気が関わっているかもしれません。
 糖尿病は、食事を分解して生成したグルコース(ブドウ糖)を、血液の中から細胞内にうまく取り込めなくなる病気。高齢猫で多くなるとされます。一般的には、グルコースの取り込みを促す「インスリン」を分泌する膵臓の機能障害や、ドカ食い・早食い・肥満に起因するインスリン抵抗性の増加(=細胞の方がインスリンを受け付けない)が原因とされますが、2015年に行われた調査によると、内分泌系疾患の一種である「先端肥大症」(アクロメガリ)もまた、糖尿病を引き起こす第三の因子として関わっている可能性が示されました。
 調査を行ったのは、イギリスの王立獣医大学を中心とした研究チーム。糖尿病を患う猫1,221頭を対象に、先端肥大症の指標の1つである「IGF-1」の血清濃度を測定しました。その結果、全体の26.1%に相当する319頭が「1,000 ng/ml以上」という高い値を示し、先端肥大症にかかっている疑いが浮上したといいます。さらにその中から63頭(20%)を選んで脳内の断層写真撮影などを行ったところ、89%に相当する56頭において、先端肥大症の診断を決定づける下垂体の病変が発見されたとのこと。
 こうした事実から研究チームは、イギリス国内で糖尿病にかかっている猫のうち、およそ24.8%は先端肥大症にかかっており、この病気が糖尿病の一因になっているという可能性を示しました。 Studying Cat Diabetes: Beware of the Acromegalic Imposter
 2012年度に「アニコム損保」が行った我が国における猫の糖尿病に関する統計データによると、性別による発症率ではオス猫が7割、メス猫が3割、年齢では6歳を境にして急に発症率が高まることを確認できます。一方、先端肥大症の9割近くはオスに発症すると言われています。ですから特に6歳を超えるオス猫の飼い主は、糖尿病の徴候に気を付けると同時に、糖尿病を引き起こしているのが先端肥大症であるかもしれないことを念頭に置いた方がよいでしょう。先端肥大症型の糖尿病は、正しくインスリンを投与してもうまく血糖値をコントロールできません。猫を診察した獣医師のうち、先端肥大症の可能性を考慮した人の割合がわずかに24%だったというデータもありますので、無駄な治療を延々と続けて猫を苦しめないためにも、飼い主が上記知識を覚えておき、いち早く正しい治療に切り替えることが望まれます。病気に関する詳しい情報については以下のページもご参照ください。 猫の糖尿病 猫の先端肥大症

11月25日

 出てしまったアレルギー症状を緩和するのではなく、そもそもアレルギー症状が出ないようにする次世代の猫アレルギー免疫治療薬「Cat-SPIRE」が期待を集めています。
 「Cat-SPIRE」はイギリスオックスフォードにある後発製薬会社「Circassia Ltd」と、ロンドンに本部を置くイギリスの公立研究大学「インペリアル・カレッジ・ロンドン」が共同開発した「合成ペプチド免疫調整エピトープ」(SPIRE)。働きは、アレルゲン提示細胞上にある「MHC class II」という部位に取り付くことで、アレルギーを引き起こす免疫T細胞と競合し、「鼻づまり」や「くしゃみ」といったアレルギー反応を抑制するというものです(→ToleroMune® Treatments)。
 この「SPIRE」に関する研究は、1990年代後半にいったん頓挫していましたが、近代的な技術によって新たに生み出された「Cat-SPIRE」の登場により、再び盛り上がりを見せています。「Cat-SPIRE」に関し、2015年時点で完了している研究フェイズは以下です。
Cat-SPIREの研究フェイズ
  • 第1フェイズ:安全性と効果 2011年、88人の猫アレルギー患者を対象として二重盲検テストが行われた。「Cat-SPIRE」の皮内注射組では、鼻咽頭炎や頭痛といった軽い副作用は報告されたものの、症状が重くて脱落した被験者は出なかった。
  • 第2aフェイズ:臨床研究 2012年、121人の猫アレルギー患者を「Cat-SPIREを3nmol」、「Cat-SPIREを6nmol」、「偽薬」とグループ分けした。その結果、「3nmol」よりも「6nmol」を投与した方がアレルギー抑制効果が高かった。また喘息、呼吸困難、喘鳴といった呼吸器系の副作用は低頻度で報告されたものの、偽薬組と投薬組とで差はなかった。
  • 第2bフェイズ:1年追跡調査 2013年、86人の被験者が、アレルギー反応を引き起こす様々な要因を排除した「環境暴露室」(EEC)に4日連続で3時間入った後、「Cat-SPIRE」による免疫治療を受け、18~22週後、および50~54週後に再び入ってアレルゲンを浴び、どの程度症状に変化が現れるかが調査された。その結果、「Cat-SPIRE」による免疫抑制効果は1年以上持続することが判明した。
  • 第2bフェイズ:2年追跡調査 2014年、1年追跡調査を完了した被験者の内51人が、「Cat-SPIRE」による免疫治療から102~106週後、再びEECに入ってアレルゲンの暴露を受けた。その結果、1年追跡調査時ほどの免疫抑制効果は見られなかったものの、「3nmol」よりも「6nmol」を投与した方がアレルギー抑制効果が高いことが判明した。
 2015年現在、北アメリカとヨーロッパにおいて、ボランティアを用いた臨床実地調査(第3フェイズ)が進行中です。これまでの実験では「EEC」という人工的な環境内でアレルゲンにさらされる状況が設定されましたが、実地調査においては、個々人が持つ様々な生活環境の中で、「Cat-SPIRE」が本当に効果を発揮してくれるかどうかが検証されます。結果次第では、2016年内に「次世代の猫アレルギー免疫治療薬」として大々的に発表される可能性もあるとのこと。薬剤の投与は、恐らく2週間間隔で合計4回皮内注射するという形になると考えられます。 猫アレルギーについて Advances in synthetic peptide immuno-regulatory epitopes

11月23日

 ネコヘルペス(猫ウイルス性鼻気管炎)の予防・治療用補助サプリメントとして広く用いられている「リジン」には、全く効果がないばかりか、逆に猫の健康を害する可能性があることが明らかになりました。
 当調査を行ったのは、カリフォルニア大学の細胞生物学部や神経科学部などからなる研究チーム。医学系論文の膨大なデータベースを有する「NCBI's PubMed」の中から、猫に対するリジンの効果、および人間に対するリジンの効果を検証した論文をかき集め、メタ分析を行いました。内訳は、猫の方が「研究室レベル2+生体レベル5」の合計7論文、人間の方が「研究室レベル3+生体レベル7」の合計10論文です。その結果、リジンは猫に対していかなる効果も持たないことが判明したと言います。
 そもそもリジン神話が生み出された背景にあるのは、人医学の分野で盛んに言われている「リジンは細胞内のアルギニンのレベルを下げることによって間接的にウイルスの増殖を抑える」という能書きです。しかし猫においては、リジンがアルギニンを阻害するという拮抗作用を確認できなかったといいます。また、仮にアルギニン濃度が低下したとしても、細胞内におけるアルギニン濃度の低下がウイルス増殖の抑制につながるという明確な証拠自体が欠けているとのこと。さらに、アルギニンを体内で合成することができない猫においては、アルギニン不足によって高アンモニア血症が引き起こされ、最悪の場合は死に至ることもあるとしています。
 研究報告の中には、リジンの投与によって感染率や感染症の重症度が高まる危険性を指摘するものもあったことことから、研究チームは「リジンがヘルペスウイルスの予防や治療に効果があるという科学的な証拠は、研究室レベルでも生体レベルでも見いだされなかった。よって速やかにサプリメントの投与を中止した方がよい」と推奨しています。
 リジンに関しては、かねてからその効能を疑う声がありましたが、この種の調査はほとんどが海外で行われるため、最新情報をフォローしている獣医師でなければ知らない可能性もあります。もし、動物病院に行って相変わらずリジンを勧められた場合は、この論文のURL(以下リンク参照)を教えてあげるという手もあります。獣医師が、素人からの指摘に対して素直に応じてくれる人格者であることを期待しましょう。 BMC Veterinary Research 猫ウイルス性鼻気管炎

11月19日

 日本全国で行われた肥満率調査の結果、「肥満」のカテゴリーに入る猫の割合が4割を超えるという事実が明らかになりました。
 当調査を行ったのは、日本獣医生命科学大学のチーム。日本全国に散らばる18の動物病院において、猫の肥満の指標である「BCS」を用いた体格評価を行ったところ、「太り過ぎ」を表す「BCS4」、および「肥満」を表す「BCS5」の割合が、全体の56%に達したといいます。さらに「BCS5」だけをみると、全体の42%という高い割合を占めていたとも。
 その後、肥満とその他の変数が健康に及ぼす影響を調査したところ、以下のような関連が明らかになりました。
肥満がもたらす健康への影響
  • BCS4・5遊離脂肪酸の血中濃度が高まり、脂質代謝異常、高コレステロール血症のリスクが高まる
  • 加齢脂質代謝と腎機能が悪化する
  • 加齢と肥満インスリン抵抗性が増す
  • オス猫インスリン濃度がメスに比べて高く、またアディポネクチン(脂肪細胞から分泌されるタンパク質の一種)の値が低い/インスリン抵抗性、およびコレステロール値が高い
 当調査により、過剰な体重が筋骨格系の障害を引き起こすのみならず、体内の代謝系にも影響を及ぼして糖尿病や高脂血症のリスクを高めてしまうことが明らかになりました。飼い主がペットの病気を未然に防ぐ「予防医学」を実践するためには、まず体重管理をしっかり行う必要があるという意識につながることが期待されます。 猫の肥満 Overall prevalence of feline overweight/obesity in Japan as determined from a cross-sectional sample pool of healthy veterinary clinic-visiting cats in Japan

11月16日

 見過ごされがちな動物虐待「アニマルホーディング」(監禁飼育)をご存知でしょうか?「猫屋敷」と言えば耳触りが良いですが、その内部はとんでもない状況になっているかもしれません。
 「アニマルホーディング」(Animal Hoarding)とは、劣悪な環境下に尋常でない数の動物を詰め込んでいる状態のことです。アメリカの動物愛護協会(HSUS)によると、米国内では毎年25万頭に及ぶ動物たちがホーディングの犠牲になっているといいます。日本ではあまりなじみのない言葉ですが、実は表に現れていないだけで、潜在的にはかなりの数の動物達が監禁状態に置かれていると推測されます。一例を挙げれば、生活保護を受けているにもかかわらず、大阪の寝屋川市でなぜか15匹の猫を長屋の一室で飼育している男性(→こちら)や、飼っていた25匹の猫が手に余るようになり、千葉県の動物病院敷地内に大量遺棄した市原市の男性会社員(→こちら)などです。
 密室状態にあるため、なかなか外からはわかりにくいですが、ホーディングはれっきとした動物虐待の一種です。アメリカの動物虐待防止協会では、「アニマルホーダー」に関して以下のようにまとめていますのでご紹介します。 A Closer Look at Animal Hoarding
アニマルホーダーの種類
  • 力不足型 最初は適切な飼養を行っていたものの、動物の数が徐々に増え、個人の手に余るようになる。状況が少しずつ変化したため、悲惨な現状を把握できていない。ブリーダー崩壊など。
  • 保護者崩れ型 動物たちを助けたいという強い衝動に駆られて次から次へと動物たちを受け入れ、結果として劣悪な飼育環境に陥ってしまう。「自分がやらなきゃ誰がやる」という使命感に燃えている。
  • 独善型 自分の満足のために動物をかき集め、動物に対して与える苦痛に関しては気にかけない。後悔や罪悪感がなく、他人による介入を嫌う。
ホーディングに走る原因
  • 強迫神経症の一種
  • 人格障害に根ざした愛着障害
  • 偏執病
  • 妄想的思考
  • うつ病
  • その他の精神疾患
  • トラウマになるような出来事や喪失
アニマルホーダーの特徴
  • 一見正常で自分は動物を助けているんだと強く信じ込んでいる
  • 多頭飼育の状況が十分管理されていると他人に信じこませることができる
  • 動物の苦しみを認識できない
  • 健康が悪化したり社会から疎外された老齢の人が多い
  • 非常に多くの動物を飼育しており、トータル数を把握していない
  • 家が劣悪な環境にある
  • 床が糞尿や嘔吐物で汚れており強烈なアンモニア臭がする
  • 動物たちは痩せこけて元気がなく、社会化もされていない
  • ノミや害獣が蔓延している
  • 当人は社会から孤立しており、気にかける人がいない
  • すべての動物は幸せで健康であるという盲信を抱いている
ホーディングシェルターの特徴
  • 非営利の動物保護施設という形でスタートする
  • 動物たちが管理されている場所をなかなか見せてくれない
  • 管理している総数を教えてくれない。もしくは把握していない
  • 里子に出す数よりも引き取る数の方が圧倒的に多い
  • 時として、行政機関や他の保護団体を目の敵にする
 アニマルホーダーを見つけたら動物たちを保護して、新しい里親のもとに送り出すことがベストです。しかし様々な理由によりそれが難しいことも少なくありません。
 まず国が定める「動物愛護法」では「動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、 人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない」と定められています。動物を劣悪な環境下に置くホーディングは、第三者の目から見れば明らかに動物愛護法違反ですが、アニマルホーダーの多くは「動物たちは満足で幸福な状態にある」という病的な信念を持っており、なかなかその現実を受け入れようとしません。また、第三者の介入を嫌うという特徴もありますので、動物たちを取り上げるということがかなり困難です。また、仮に動物たちを保護したとしても、根本的な性格が変わっていないため、再びホーディングを始めてイタチごっこになってしまいます。
 次に、都道府県レベルで犬や猫の大量飼育に関して何らかの条例を規定している場合は、行政機関に訴えることができます。例えば、新潟市には「動物の愛護及び管理に関する条例」という規定があり、犬や猫を一定の頭数以上飼育する場合は、動物愛護センターへ届出書を提出する必要があります。こうした条例に違反していることが明らかになれば、法的に介入しやすくなるでしょう。しかし、上で述べたのと同じ理由により、仮に一度動物たちを救い出しても、また他の動物たちがホーディングの犠牲になる危険性があります。
 現時点で私たちができることは、まず「アニマルホーディング」(監禁飼育)という言葉の認知度を高め、それが動物虐待であることを広く知ってもらうことだと思われます。
動物を監禁飼育するアニマルホーディングはもはや精神疾患の一種

11月13日

 数多くの臨床データを元にして作成された「動物用メタボリックシンドロームの新基準」が、来秋をめどに首都圏の動物病院で実用化されることが明らかになりました。
 当基準を作ったのは、日本獣医生命科学大学、新井敏郎教授らのチーム。人間界で問題となっている「メタボリックシンドローム」が、犬や猫といったペット動物にも起こりうると考えた教授は、2008年頃から当症候群を早期発見するための指標作りに取りかかっていました。大規模な臨床データを数年かけて精査した結果、メタボリックシンドロームと関連がある数値として、皮下脂肪から肥満の度合いを目視評価する「BCS」のほか、総コレステロール、トリグリセリド、血糖値、アディポネクチンなどが有力候補として残ったと言います。 犬と猫のメタボリックシンドローム判定基準値  獣医療分野では世界初の試みとなる当基準値は、来年の秋ごろをめどに東京都獣医師会に加盟するおよそ700の動物病院で活用される予定とのこと。メタボの早期発見を始めとした「予防獣医学」が普及した暁には、以下に示すような誰も損する人がいない理想的な経済循環が出来上がると期待されています。
予防獣医学がもたらす経済効果
  • 飼い主→医療費が減る
  • ペット動物→病気の早期発見につながり寿命が延びる
  • 保険会社→支払い金額が減る
  • ペットフード会社→「メタボ予防」を謳った商品が売れる
 ただし動物病院だけは、患者の来院機会が減ることによって売り上げが落ちるかもしれません。しかし動物の病気が減ったことを嘆く獣医師は、「倫理上は」いないはずです。
動物の生命を尊重し、その健康と福祉に指導的な役割を果たすとともに、人の健康と福祉の増進に努める。 獣医師の誓い-95年宣言
猫の肥満 日本における飼育犬の早期肥満判定基準の策定

11月11日

 動物の体に生えている被毛を面積に換算したところ、猫では卓球台、ラッコではホッケーリンクほどにもなることが明らかになりました。
 当調査を行ったのは、アメリカ・ジョージア工科大学の研究チーム。合計27種類に及ぶ哺乳類や昆虫の被毛の総数を概算し、それらを平面上に広げた場合の総面積を調べたところ、以下のような結果になったといいます。
動物の被毛の総面積
  • ミツバチ→トースト
  • チンチラネズミ→SUV
  • ネコ→卓球台
  • ラッコ→ホッケーリンク
 猫が一生懸命毛づくろいしているとき、彼らは卓球台を端からペロペロ舐めているのに等しいということでしょうか。
 上記した調査は、一見無意味な暇つぶしに思えますが、研究チームが虎視眈々と狙っているのは、動物の持っている生体機能を模倣してテクノロジーの開発につなげる「バイオミメティクス」(Biomimetics)です。とはいっても、今回応用しようと考えているのは、被毛が持っている断熱能力ではなく、空気中を漂うゴミを吸着する能力の方。火星の探査ローバーやドローンといった精密機器は、内部に侵入した細かなゴミによってすぐに故障してしまうといいます。こうしたデリケートな機械に、動物の被毛に着想を得たゴミ吸着装置を取り付ければ、いくらか故障率が低下するとのこと。かといって、あまりにも毛むくじゃらにしてしまうと、今度はオーバーヒートで逆に故障しやすくなってしまいますので、実用化する際は恐らく、まばらな「うぶ毛」程度になるものと予想されます。 猫の被毛 GeorgiaTech
猫の被毛の総面積はピンポン台に相当する

11月6日

 勢い良くオシッコを撒き散らしてしまう不適切行為の一種「マーキング」が、経皮的な向精神薬の投与で改善する可能性が示されました。
 家の中の柱や壁といった垂直の物体に対し、尻尾を上げて勢い良くオシッコを吹きかける「マーキング」は、飼い主が報告する猫の問題行動のうちで高い割合を占めています。基本的な正攻法は「去勢・避妊手術」、「環境エンリッチメント」、「人工フェロモン」などですが、近年は投薬による問題行動修正の可能性も検証されています。
 今回調査を行ったのは、チリ・サントトマス大学の獣医学チーム。チームはマーキング行動を示した猫を2つのグループに分け、一方には向精神薬の一種「ブスピロン」(buspirone)を経口投与し、他方には「プルロニック®レシチンオルガノジェル」(PLO)という形で経皮的に吸収させました。その結果、どちらのグループにおいてもマーキングの頻度が著明に下がり、両グループ間に効果の差は見られなかったと言います。こうした結果から研究チームは、口から薬を飲ませる代わりに皮膚に薬を塗りこむという、問題行動解決の新たな選択肢を示しました。 Regional variations in percutaneous absorption of methimazole: an in vitro study on cat skin
 ニュージーランドのマッセイ大学が行った調査では、猫の皮膚のうち最も薬剤が浸透しやすいのは、「耳介」(耳のヒラヒラ)だとの結果が出ています。一方、動物の問題行動修正を目的とした認可薬は今のところないものの、有効性が証明されている薬剤はたくさんあります。こうした知識を融合し、犬や猫に対する「行動薬理学」というアプローチ方法が確立すれば、問題行動に起因する飼育放棄や遺棄の問題も、多少改善してくれるものと期待されます。 猫のトイレの失敗

11月5日

 東洋医学で「ツボ」と呼ばれている部位を、鍼の代わりに赤外線レーザーで刺激したところ、術後の痛みがいくらか緩和されるという効果が確認されました。
 調査を行ったのは、ブラジル・オエステパウリスタ大学の獣医学チーム。周術期の疼痛管理に鍼灸治療が役立つかどうかを確認するため、20頭の避妊手術(卵巣子宮除去)を受けるメス猫を対象とした比較調査が行われました。チームはまず猫たちを10頭ずつランダムに振り分け、手術前に「鎮痛薬+赤外線レーザー」およびは「鎮痛薬のみ」という処置を施しました。そして手術が終わってからの24時間、猫用のペインスケールを用いて痛みの度合いを定期的に評価し、介入が必要と判断されたタイミングで鎮痛薬を再投与するという段取りが組まれました。
 その結果、両グループにおける痛みの平均値に違いは見られなかったものの、鎮痛薬による術後の介入が、「赤外線レーザーあり」グループでは10頭中1頭だったのに対し、「赤外線レーザーなし」グループでは5頭だったといいます。こうした結果から研究チームは、東洋医学で「ツボ」と呼ばれている部位に対して赤外線レーザーで刺激を与えると、術後の疼痛緩和につながるとの結論に至りました。なお、今回ターゲットとなったのは「ST36」および「SP6」と呼ばれる経穴です(下図参照)。「アメリカ国立衛生研究所」(NIH)では、鍼治療の適応症として疼痛管理をリストに入れていますので、日本においても今後、鍼灸治療を導入する動物病院が増えていくかもしれません。 Laser Acupuncture for Postoperative Pain Management in Cats
猫の「ST36」および「SP6」と呼ばれる経穴の位置

11月4日

 200頭の猫を対象とした調査の結果、猫の平熱の基準値がやや引き下げられるかもしれません。
 調査を行ったのは、アメリカ・フロリダ大学の獣医学チーム。チームは、環境温度がしっかりと管理された動物保護施設、動物病院、普通の家庭内において、合計200頭の健康な猫の直腸温度を計測。得られたデータを地ならししたところ、猫の平熱参照値として妥当なのは「36.7~38.9℃」との結論に至りました。
 当値は、従来正常値と考えられていた温度帯よりやや低い温度であることから、今まで「低体温症」と診断されていた猫が「平熱」と、そして「平熱」と診断されていた猫が「発熱」と診断し直される可能性があります。こうしたシフトは、より適切な医療的介入につながるという意味で重要でしょう。 Reference interval for rectal temperature in healthy confined adult cats
 猫の平熱に関しては未だに世界基準がないというのが現状です。例えば以下は複数の獣医学書を参照した時の猫の平熱に関する記述です。混乱を嫌ってか、そもそも基準値を記載していない教科書も少なくありません。
猫の平熱比較
  • 獣医臨床麻酔学(学窓社)
    →37~40℃
  • プライマリケアのための診療指針(学窓社)
    →38.3~38.8℃
  • 小動物臨床のための5分間コンサルト(インターズー)
    →38.1~39.2℃
 上記したように、すべての書物でバラバラの値が記載されています。ただし、すべてに共通して言えるのは「最低温度が37度を下回らない」という点です。ですから今回フロリダ大学が提唱した「36.7℃」という最低値は、かなり画期的なものといえます。ただし、猫が極度に興奮しておらず、環境温度が暑すぎず寒すぎない状況で計測する、というのが条件です。 猫のバイタルサイン

11月2日

 猫の性格と大型ネコ科動物の性格とを比較したところ、全ての動物は支配的で衝動的で神経質という「猫らしさ」を共有しているという事実が明らかになりました。
 調査を行ったのはスコットランド・エジンバラ大学の研究チーム。チームはネコ科動物全般に共通している性格傾向を明らかにするため、スコットランドとイギリス、アメリカをまたいだ大規模な調査を行いました。比較対象となったのは、スコットランド国内にある2つの動物保護施設に収容された100頭の猫、およびスコットランド、イギリス、アメリカにある動物園や動物保護区で管理されているヨーロッパヤマネコ、アフリカライオン、ユキヒョウ、オセロットです。
 性格分析に当たっては、人間の性格判断でよく用いられる「ビッグファイブ」(Big Five)という指標をネコ科動物用にアレンジしたものが適用されました。その結果、以下のような傾向が明らかになったといいます。
ネコ科動物の性格
  • ヤマネコ支配的 | 従順 | 自律的
  • イエネコ支配的 | 衝動的 | 神経質
  • オセロット支配的・衝動的 | 従順・開放的 | 神経質
  • ユキヒョウ支配的 | 衝動的・開放的 | 神経質
  • ライオン支配的 | 衝動的 | 神経質
 こうした結果から調査チームは、ネコ科動物全般に共通して言えるのは「支配的 | 神経質 | 衝動的」という傾向である可能性が高いとの結論に至りました。また猫に限って言えば、最も性格的に近いのはライオンだとも。 Edinburgh Research Explorer
 ネコ科動物に共通して見られた「支配的 | 神経質 | 衝動的」という傾向は、私たちが漠然と「猫らしさ」と呼ぶものに近いと思われます。しかしこの特質は、数十年すると薄れてしまうかもしれません。1950年代のロシアでは、遺伝学者D.ベリャーエフが、ギンギツネの中から人なつこい個体だけを繁殖に用いるという極めて単純な手法により、元々は凶暴な性格だったキツネを、まるで犬のように人なつこい性格に変えることに成功しました。もし、猫にもこのような「犬化」が起こってしまうと、いわゆる猫らしさというものに魅力を感じている人にとっては寂しい限りでしょう。 ネコ科動物に共通性てみられる性格傾向~支配的・神経質・衝動的