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「X染色体の不活性化」に新たな光

 サビ猫や三毛猫のまだら模様を作り出している「X染色体の不活性化」のメカニズムが、ほんの少しだけ解明されました(2016.1.20/アメリカ)。

詳細

 「X染色体の不活性化」とは、動物の性を決定する「X」と「Y」という性染色体のうち、「X」の方だけが本来の機能を失い、タンパク質を生合成できなくなる現象のことです。この現象は「XX」という遺伝子型を持つメス(女性)の細胞内でのみ観察されるもので、 2本のうちの1本だけを不活性化することにより、細胞内の情報過多を解消するという役割を果たしています。ちょうど、同時に話しかけてくる2人のうちの一方を黙らせて、聞き取りやすくするようなものです。
 この不活性化は従来、X染色体上に存在している「Xist遺伝子」が「Xist RNA」と呼ばれる分子を作り出すことで引き起こされると考えられてきました。しかしこの考え方では、メスの細胞内にある「XX」という遺伝子型の一方は不活性化できるにもかかわらず、オスの細胞内にある「XY」は不活性化できないという奇妙な現象を説明できません。そこで出てきたのが、「XX」という遺伝子型に特有の何かが不活性化を成立させているはずだ、という予測です。
 今回の調査報告を行ったミシガン大学の医療研究チームは、上記「特有の何か」が「潜伏遺伝子」(※仮名)と呼ばれる特殊な遺伝子ではないかとの推論を展開しています。この遺伝子はX染色体上に存在しており、「Xist RNA」に働きかけて染色体の不活性化を引き起こすサポーターのような存在です。ユニークなのは、X染色体が2本あって初めて機能する、すなわち「XX」という遺伝子型をもったメスの体内においてのみ、その機能を発揮するというところです。さらにこの遺伝子だけは、X染色体上にあるにもかかわらず、不活性化のあおりを食わずにひっそりと職務を遂行できるといいます。
 従来の考えと今回新たに得られた知見の比較すると、以下のようになります。
X染色体の不活性化モデル
  • 従来のモデルXist遺伝子→Xist RNA→X染色体の不活性化
  • 新しいモデルXist遺伝子→Xist RNA+潜伏遺伝子(←New!)→X染色体の不活性化
 この思考モデルだと、オス(男性)の細胞内にある「XY」は不活性化できないという奇妙な現象もうまく説明できるとのこと。将来的にはこの知識を活かし、X染色体に関連した遺伝的疾患の治療に役立てていきたいとしています。 Sex-specific silencing of X-linked genes by Xist RNA Xistential crisis: Discovery shows there's more to the story in silencing X chromosomes サビ猫も三毛猫も「X染色体の不活性化」によって模様が発現する

解説

 サビ猫や三毛猫のまだら模様を作り出しているのも「X染色体の不活性化」です。毛の色を作り出す遺伝子はX染色体上に存在しており、「O」の場合は「オレンジ」、「o」の場合は「オレンジ以外」という発現ルールを持っています。メス猫の体を構成している体細胞は全て「XX」という性染色体を保有しており、上で説明した「X染色体の不活性化」を通して2本の内のどちらか1本が機能不全に陥ります。残ったほうのX染色体にたまたま「O」が乗っている場合は「オレンジ」、「o」が乗っている場合は「オレンジ以外」になるという寸法です。不活性化は細胞ごとにランダムに発生しますので、体のある部分では「オレンジ」が現れ、他の部分では「オレンジ以外」が現れるという現象が起こります。その結果が「サビ猫」です。さらにサビ猫が白い斑点を生み出す「S」という遺伝子を併せ持っている場合、「オレンジ+オレンジ以外+白」となり、「三毛猫」となります。仮に「X染色体の不活性化」のメカニズムが完全に解明されたとしても、さすがに猫の模様を操作することは難しいでしょう。 猫の模様と色