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「猫ブーム」や「ネコノミクス」が招く悪影響

 どこからともなく出現した「猫ブーム」や「ネコノミクス」に便乗した最近のテレビ番組には目に余るものがあります。こうした番組が招く悲しい現実に少し目を向けてみましょう。

詳細

 「猫ブーム」や「ネコノミクス」に便乗したビジネスが活気づいていますが、こうしたビジネスがもたらす負の側面にも目を向けておかなければなりません。以下は一例です。

猫ブームやネコノミクス

 近年「猫ブーム」や「ネコノミクス」といった表現をよく耳にしますが、これらの背景にあるのはペットフード協会が公開している犬と猫の飼育頭数に関するデータだと思われます。データによると、犬の飼育頭数が右肩下がりであるのに対し、猫の飼育頭数は右肩上がりで、向こう数年間のうちに順位が入れ替わるだろうとのこと。この逆転現象を表現する際、「猫ブーム」という言葉が選ばれたのだと推測されます。しかし「猫の飼育頭数が急激に増えた」という誤った印象を与えてしまいますので、最適な表現とは言えません。 犬と猫の飼育頭数変遷グラフ(直近5年)  データが示している通り、日本国内における犬の飼育頭数は頭打ちに近づいていると考えられます。このままでは1兆2,000億円ともいわれるペット市場が縮小してしまいますので、業界は何とか打開策を立てなければなりません。そこで白羽の矢が立てられたのが「猫」であるという穿(うが)った見方はできないでしょうか。猫に関連したグッズの売上などを総計すると、その「ネコノミクス」効果は2兆円を超えるとも試算されていますので、あながち的外れとも言えません(→出典)。

軽薄な動物番組の登場

 「猫ブーム」という言葉がマスコミで使われ始めると、それに便乗したテレビ番組も増えてきます。テレビ業界では「小動物」、「食べ物」、「色気」が視聴率を稼ぐ時の鉄板と言われていますので、この機会を逃す手はありません。 動物番組で子犬や子猫を登場させるのは視聴率稼ぎの鉄板  こうしたテレビ番組には、必ず子犬や子猫を紹介するコーナーがあり、「画面下に店名を出して宣伝する」という条件でペットショップやブリーダーから借りてきた動物たちを放映します。この種のコーナーはちょうど、ペットショップのショーケースをテレビ画面に置き換えた状態と言ってよいでしょう。視聴者からのクレームを恐れ、なかなかCMを出せない生体販売業界はウハウハです。業界にとって、「番組の中の1コーナー」という形で子犬や子猫を紹介してくれる動物番組は、広告費を払っていないのに10分間以上も商品の宣伝をしてくれる夢のような存在なのです。さらに、自称動物好きタレントが動物を抱っこして「かわいい~!」を連発してくれたら、広告効果は倍増します。 子犬や子猫を抱っこして歓声を上げるタレントは、自分の罪に気づいていない

生体販売の活性化

 テレビ番組よる広告効果によって生体販売が活性化します。例えば「PETS REVIEW 2016年5月号」では、2016年3月の市況について以下のような描写があります。話題にしているのはペット用品ではなく「生体」の価格です(→出典)。
【関東】昨年の最高値が今年の最低値になる異常値が続いている。
【中部】生体の価格は去年の同時期と比較すると2割増になっている。犬猫全てが高くなっている。バブルの絶頂を迎えているのではないか。
【関西】2月よりも3月の方が価格がヒートアップしている。いつまで続くのだろうか?
 上記した活況を裏付けるかのように、小売店の拡大も進んでいるようです。
【ロイヤルホームセンター】
 大和ハウスグループのロイヤルホームセンター株式会社は、2016年5月26日(木)、東京都荒川区に「ロイヤルホームセンター南千住店」をオープンします。当店は3フロアの内、3階(約1,800平方メートル)をペットフロアとしました。年齢を問わずコンパニオンアニマルとして親しまれている子犬・子猫、観賞魚以外にも、鳥類(フクロウ等)、小動物(ハリネズミ・モモンガ・プレーリードッグ・ヘビなどの爬虫類等)など常時120種類以上の動物を取り扱います。特に人気のある犬のコーナーでは、希少犬種と言われる極小トイプードル・ビションフリーゼや希少猫種と言われるキンカロー・ナポレオンなど、常時約30匹の犬や猫を販売します(→出典)。
【生体販売店A】
 6月は毎週土曜日に北海道エリアで順次7店舗オープン!苫小牧店・函館店に続き、北見、札幌東、旭川、帯広、釧路に出店し、更なる全国展開を目指していきます(→出典)。
■6月4日(土)~ 6月26(日)グランドオープンセール開催!
■6月4(土)・5日(日)の2日間で生体コミコミ1万円の大抽選会を開催!
■セール期間中は200頭のワンちゃん・ネコちゃんがお出迎え!均一犬大集合!頭数限定で1万円・3万円・5万円のワンちゃんを販売します ペットショップは子犬や子猫を「セール品」や「均一品」として扱う  犬や猫を商品として扱い、「オープンセール」とか「均一」などという表現を使っている点に関しては言葉を失います。しかし店舗数が拡大しているという事は、ペットショップと同じ感覚を持った消費者がそれだけ多いということなのでしょう。

にわかブリーダーの登場

 「猫ブーム」を聞きつけた一部の人々は、にわかブリーダーになってあぶく銭を稼ごうとします。ちょうどベルギーワッフルブームに飛びついて専門店をオープンさせる飲食業者のようなものです。しかしベルギーワッフルを作るのとは違い、一朝一夕で優良なブリーダーになどなれる訳はありません。結果として、遺伝病を無視した耳折れ同士の「スコティッシュフォールド」の乱繁殖や、見切り発車による経営不振からネグレクトといった動物虐待につながるケースが懸念されます。以下は一例です。
 広島県警は2016年6月7日、動物愛護法違反の疑いで住所不定の自称ラウンジ店員・大西誠次郎容疑者(25)を逮捕した。調べによると、ペット販売用の猫を飼育していた大西容疑者は、去年5月頃から6月までの間、広島市中区の自宅で飼っていた25匹の猫にエサや水を与えず衰弱させ4匹を死なせた疑いが持たれている。容疑者の自宅を訪ねた元従業員の女性が、衰弱した猫を見つけ事件が明らかになった。大西容疑者は「逮捕されることに納得いかない」と容疑を否認している(出典:2016年6月8日/日テレNEWS24)。

「引き取り屋」の顕在化

 2016年5月26日、NHKの「クローズアップ現代+」で「追跡!ペットビジネスの闇」という特集が放送され、大きな反響を呼びました(→出典)。番組内で取り上げられたのは、ブリーダーやペットショップから不要になったり売れ残った犬猫を引き取り、終生飼養する「引き取り屋」と呼ばれる人たちです。こうした業者の中には、動物の福祉を完全に無視したような所もあり、目も当てられない劣悪な環境下で健康管理もせず、ただ単に引き取った動物たちを飼い殺しているケースもあると言います。 引き取り屋の狭いケージ内にすし詰めにされた犬たちの哀れな姿  こういう業者が突如として現れたのかというとそういうわけではありません。2013年に施行された「改正動物愛護管理法」により、各自治体に設けられている動物愛護センターや保健所は、ペットショップやブリーダーからの引き取りを拒否できるようになりました(→詳細)。結果として、それまでひっそりと営業していた「引き取り屋」がにわかに忙しくなり、否応なく人目を引くようになってきます。つまり、これまで潜在化していたものが、ただ単に顕在化しただけなのです。現に、番組内で紹介されていた栃木県矢板市の劣悪業者は、日本動物福祉協会が10年前からマークし、県の動物愛護指導センターにも再三に渡って指導依頼をかけていたといいます(→出典)。

まとめ

 「猫ブーム」に便乗した軽薄なテレビ番組とその前後にある流れを見てきましたが、一概にどこが悪いとは言えません。視聴率を稼ぐため安易に子犬や子猫を利用するテレビ局、イメージアップのため子犬や子猫を抱っこして歓声を上げるタレント、犬や猫を商品として扱うペットショップ、「オープンセール」という表現に違和感を覚えない消費者。その全てが、引き取り屋の狭いケージの中で糞尿にまみれで寝起きする猫たちや、飼育放棄されて行政機関で殺処分される猫たちの数を増やすことに、直接的・間接的に関わっています。 ペット業者のみならず、業界の裏側に無頓着な消費者もまた犬猫の苦しみを助長している  これから猫を飼おうとする方は、できれば保護施設から引き取ってあげてください。そしてこれから猫を飼おうと言っている友人知人がいる方は、「保護施設から猫を迎える」という選択肢があることを教えてあげてください。猫の年間の殺処分数は犬と比較し、なかなか減っていないのが現状です。そんな中で「猫ブーム」が起こり、犬や猫を「物」としか考えていない生体販売業が活性化してしまうと、右肩下がりのグラフが逆向きになってしまう危険性すらあります。純血種だろうが雑種だろうが、猫はそこにいるだけで可愛いものです。 猫の殺処分の現状 猫の里親募集機関 猫の愛以上に素晴らしいものが、果たしてこの世にあるのだろうか?(チャールズ・ディケンズの名言)