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猫の食べる量を最終的に決めているのはタンパク質含量

 猫の食欲不振に対抗する最善策は、やはり「良質なタンパク質を与える事」であるようです(2016.6.20/イギリス・フランス)。

詳細

 今年に入ってから猫の摂食パターンに関する研究が立て続けに行われ、「猫は完全肉食動物である」という事実を裏付けるかのような結果が報告されました。以下はその概要です。なお「マクロ栄養素」とは熱量を生み出す炭水化物、タンパク質、脂質という3大栄養素のことで、「官能特性」とは栄養素に加えられる味や匂いのことです。

ウォルサムの調査

 調査を行ったのは、ウォルサム・ペットニュートリション。設定の異なる3つの給餌試験を行い、炭水化物、タンパク質、脂質という「マクロ栄養素」の摂取量を変化させる要素が何であるかを検証しました。調査で用いられたのは、タンパク質と脂質がカロリー中で占めるの割合を「1:9」、「4:6」、「7:3」に調整し、官能特性として「魚」、「ウサギ」、「オレンジ」、「無添加」という4つのフレーバーを付加した合計12の食餌パターンです。
  • 実験1【内容】オス12頭とメス12頭からなる24頭に対し、12パターンの食餌うちのどれか1つを1日1回提示し、24日間観察する。つまり1パターンにつき2回提示されるという計算。

    【結果】タンパク質と脂質の栄養比率にかかわらず「魚>ウサギ=無添加>オレンジ」という嗜好性の勾配が見られた。
  • 実験2【内容】27頭の猫を9頭ずつ3グループに分け、グループ1には「1:9(魚) | 4:6(ウサギ) | 7:3(オレンジ)」、グループ2には「1:9(オレンジ) | 4:6(魚) | 7:3(ウサギ)」、グループ3には「1:9(ウサギ) | 4:6(オレンジ) | 7:3(魚)」を与えた。

    【結果】加えられた官能特性に関わらず、タンパク質と脂質の栄養比率が「7:3」の食餌が最も多く消費された。最終的には、全てのグループにおいてタンパク質と脂質の一日あたりの消費量が均一化した。
  • 実験3【内容】 大豆タンパクの含有量を調整し、実験2と同じデザインで27頭の猫に摂食させる。

    【結果】タンパク質が動物性だろうと植物性だろうと、最終的には全てのグループにおいてタンパク質と脂質の一日あたりの消費量が均一化した。
 こうしたデータから調査チームは、猫は食事を摂取した後、体に足りないタンパク質がどのくらいであるかを検知することができ、体の求めに合わせて食べるものを選択することができるとの結論に至りました。当調査で得られた知見をまとめると以下のようになります。
  • 猫の食事量は、最初は官能特性に左右されることもあるが、長期的には栄養要求が優先される
  • カロリーの中でタンパク質が占める割合は、最終的に50%前後に落ち着く
  • タンパク質に対する栄養要求は完全肉食動物として知られているミンクとも近似している
Balancing macronutrient intake in a mammalian carnivore: disentangling the influences of flavour and nutrition

ダイアナの調査

 調査を行ったのは、フランスのダイアナペットフード社。官能特性がマクロ栄養素の摂取比率より優先されるだろうという仮説を検証するため、オス15頭とメス24頭からなる39頭の猫を対象とした2つの給餌試験を行いました。使用された食餌は、脂質含有量を36%前後に固定し、タンパク質と炭水化物の含有比率だけを「53:11」(D1)、「40:20」(D2)、「33:30」(D3)、「24:43」(D4)に調整した4つです。
  • 実験1猫を9~10頭ずつの4グループに分け、D1~D4までの食餌を1つずつ提示して16日間観察する。その後、各食事に官能特性を加えた上でさらに16日間観察する。
  • 実験2官能特性を加えた食餌を2つ同時に提示し、39頭の猫が自発的にどちらを選ぶかを観察する。提示する2つの食餌のタンパク質と炭水化物の含有比率は同じにならないようにする。
 観察の結果、選択肢が1つしかない「実験1」でも選択肢が2つある「実験2」でも、マクロ栄養素が必要エネルギーの中で占める割合に大差は見られなかったといいます。具体的には、官能特性がない時が「タンパク質51% | 脂質35% | 炭水化物14%」で、官能特性を添加した時が「タンパク質53% | 脂質36% | 炭水化物11%」という内訳です。
 こうしたデータから調査チームは、マクロ栄養素への要求と官能特性があった場合は前者が優先され、高タンパク低炭水化物食が選ばれるとの結論に至りました。また、タンパク質は摂取カロリーの50%前後になるよう自動調整される一方、炭水化物の摂取量は上限3g/kgに設定されており、この上限を超えるような食事しかない場合、猫は潔く空腹を選ぶとも。 Impact of macronutrient composition and palatability in wet diets on food selection in cats

解説

 ペットフードの基準値を提供する「AAFCO」(全米飼料検査官協会)が推奨している猫の最低タンパク質摂取量は「3.5g/kg」、そして「NRC」(全米研究評議会)では「2.5g/kg」となっています。一方、今回行われた2つの調査で共通して見られた知見は「猫は摂取エネルギーの50%がタンパク質になるよう自己調整する」というもので、これをグラムに換算すると「6g/kg」程度になると推測されています。単純に数字で比較すると、「AAFCO」や「NRC」が設定している値は猫の体が求めているタンパク質量からはほど遠いと言えるでしょう。 マクロ栄養素を満たせない食餌しかないとき、猫は潔く空腹を選ぶ  猫が食欲不振のときは、ひょっとすると食事に含まれる炭水化物の量が多すぎるのかもしれません。市販のペットフードの中には、炭水化物の占める割合が総カロリー数の40%を超えるものも数多くあります。よく加工されたデンプンならば猫でも十分に消化できることは実証されているものの、「炭水化物の摂取上限は3g/kg」である完全肉食動物の猫にとって、現代のフードは理想からほど遠いというのが現状です。
 食餌中の炭水化物含量が食欲不振の原因である場合、単純に高タンパクのフードに切り替えることで改善する可能性があります。粗悪なフードを強引に食べさせようとしても、猫は「ハンスト」に入るだけですので、肝リピドーシスのような病気を予防するためにも、良質なタンパク質を多めに含んだフードに切り替えるのが賢明でしょう。 猫の食欲不振と増進 キャットフードの選び方