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アメリカ獣医協会(AVMA)による猫の抜爪術文献レビュー

 アメリカ獣医協会は、猫の指先を切除してしまうおぞましい外科手術「抜爪術」に関する包括的な文献レビューを行いました(2016.3.11/アメリカ)。

詳細

 アメリカ獣医協会(AVMA)は猫の指先を切除する「抜爪術」に関する過去の調査報告を精査し、目的、メリット、デメリット、副作用といった項目別にまとめ上げました。以下はその概要です(→出典)。
 抜爪術に関する包括的な情報はページを分けて解説してあります。より詳しい内容は猫の抜爪術に関する真実をご参照ください。

抜爪術とは?

 抜爪術(ばっそうじゅつ, Onychectomy, Declawing)とは前足の第一関節から先を切除してしまう外科手術のこと。1991年、アメリカ国内では590万頭の猫のうち24.4%にあたる144万頭の猫が手術を受けていたと推定されている。また2014年、ノースカロライナ州のラレインで行われた局地調査では21%という結果だった。 猫の第一関節に対するギロチン型切除

手術の目的

 多くの飼い主は家具を始めとする所有物を猫の引っ掻きから守るために手術を希望する。また年配の人や糖尿病にかかっている人など免疫不全者がいる家庭では、猫の引っ掻きに起因する日和見感染症を予防する目的で手術が選択されることもある。1991年、オンタリオ州の獣医師を対象とした調査では、手術を希望する飼い主のうち「手術をしてくれないなら、猫を保護施設に預けるしかない」と回答した人の割合は50%にも達した。このことから、手術は猫の飼育放棄、遺棄、安楽死を間接的に予防するのに役立っているとする見方もある。また爪の根元にできる腫瘍などを予め予防するという意味では、去勢や避妊手術と変わらないとするスタンスを見せる人もいる。

手術の方法

 外科用メスや専用ギロチン、二酸化炭素レーザーで切断する。術後の痛みに関してはレーザーの方が軽いとする研究報告がいくつか存在する。
  • Misonらの調査(2002年) 20頭の猫に対し、前足の一方を二酸化炭素レーザー、他方を外科用メスによって抜爪術を施した。跛行、痛み、出血、腫脹、化膿といった徴候を手術当日、翌日、1週間後のタイミングで評価したところ、手術翌日においてのみレーザーの方が低いスコアを記録した(→出典)。
  • Robinsonらの調査(2007年) 左前足のレーザー抜爪術を受けた10頭と、左前足のメスによる抜爪術を受けた10頭の歩行解析を行ったところ、レーザーグループの方が足にかかる力が強かった。術後48時間における痛みに関し、レーザーの方が弱いことが要因と考えられる(→出典)。
  • Holmbergらの調査(2006年) 9頭の猫に対し、片方の前足を二酸化炭素レーザー、他方の足を外科用メスを用いて抜爪術を施した。術後10日間の痛みをモニタリングしたところ、レーザーの方がコンスタントに低スコアを記録した(→出典)。

飼い主の満足度

 手術後、多くの飼い主はその成果に満足し、猫と飼い主の間の関係が良好になったと報告する。273人の飼い主を対象としたアンケートでは、術後に行動が悪化したと報告した飼い主はわずか3人だけだった。また10人は「前よりも強く噛むようになった」と報告したが、爪とぎよりはましとの意見だった。60人の飼い主を対象とした別の調査では、「カウンターやテーブルの上に飛び乗る」という行動だけが手術後の問題行動として報告された。

術後の痛み

 術後にモルヒネやキシラジンといった鎮痛剤を投与するとカテコールアミンの反応が顕著に減少することから、痛みを感じていることは間違いないと推測される。なお術後、ストレスの指標である血漿コルチゾールレベルはそれほど変化しない。術後しばらく経過してからの慢性痛の原因としては、神経障害性疼痛、炎症、感染症、骨の切端による軟部組織への刺激などが考えられる。
  • Jankowskiらの調査(1998年) 20頭に深指屈筋腱切除術、18頭に抜爪術を施し、5ヶ月間の行動観察を行った。その結果、手術後24時間における痛みのスコアに関し、深指屈筋腱切除術の方が著明に低かった点以外、両者の間に違いは見られなかった。ただ、飼い主の満足度に関しては、抜爪術の方がわずかに高かった。どちらの方法を用いるにしても合併症が高い確率で起こることを肝に銘じる必要がある(→出典)。
抜爪術を受けて指先に包帯を巻かれる猫

合併症

 よくある合併症は出血、爪の再生、傷口の離開、一時的な麻痺、足先への血流不全、ストレスに起因する免疫力の低下など。まれなものとしては傷口の化膿、拘縮などが挙げられる。爪を引っ掛けて手前に引きつけるという運動ができなくなるため、その運動に関連した筋力が衰えるという主張もあるが、検証して実証した人はいない。また、術後に問題行動が増えることを実証した報告もない。逆に、保護施設に預けられた猫のうち手術を受けた猫と受けていない猫における「不適切な排泄」や「攻撃行動」の割合を調査したところ、両者の間に違いは見られなかったという結果がある。さらに1歳以前と以後において手術を受けた猫を比較したところ、1歳未満の猫の方が問題行動が少なく回復も早かったという。
  • Tobiasらの調査(2008年) 1985年1月から1992年11月までの間、抜爪術を受けた163頭の調査を行った。その結果、50%以上の猫が手術直後に1個以上の合併症を発症しており、具体的には痛み(38.1%)、出血(31.9%)、跛行(26.9%)、腫脹(6.3%)、荷重不可(5.6%)などが報告された。またギロチンタイプよりも外科用メスを用いたときの方が発症頻度が高かった。その後121頭に追跡調査を行ったところ、19.8%で退院後の合併症が見られ、具体的には感染症(11.6%)、爪組織の再生(7.4%)、第二関節突出(1.7%)、荷重不可(1.7%)、断続的跛行(0.8%)などが報告された。また外科用接着剤は跛行の確率を高め、ギロチンタイプの術後の外科用接着剤は感染症にかかる確率を高める傾向があった(→出典)。

法的な問題

 猫の品種団体「Cat Fancier's Association」や「Canadian Cat Association」では、手術を受けた猫がショーに参加することを禁じているが、手術自体を禁止する法律は今のところ存在しない。ただしカリフォルニア州ウェストハリウッド市のように、地方レベルでは禁じているところもある。AVMAとしては「他のあらゆる代替手段を徹底的に試したにもかかわらず問題が解決しなかった場合や、猫による引っかき傷が重大な感染症につながる可能性がある場合のみ手術を容認する」という姿勢を取っている。なおヨーロッパにおいては、「European Convention for the Protection of Pet Animals」の第10項において医療目的以外での抜爪術を禁じているため、批准国内において手術を施すことはできない。

解説

 日本における抜爪術は、「小動物医療の指針・第11項」において以下のような扱いを受けています(→出典)。なお文中では「爪除去術」という言葉が用いられています。
 飼育者の都合等で行われる断尾・断耳等の美容整形、あるいは声帯除去術、爪除去術は動物愛護・福祉の観点から好ましいことではない。したがって、獣医師が飼育者から断尾・断耳等の実施を求められた場合には、動物愛護・福祉上の問題を含め、その適否について飼育者と十分に協議し、安易に行わないことが望ましい。しかし、最終的にそれを実施するか否かは、飼育者と動物の置かれた立場を十分に勘案して判断しなければならない。
 どうやらアメリカのAVMA同様、やむを得ない場合は容認するという姿勢を示しているようです。「動物の愛護及び管理に関する法律」 (通称:動物愛護法)の中でも抜爪術を禁止する明示的な条文はどこにも見当たりません(→詳細)。よって抜爪術を行うかどうかは、最終的に担当獣医師と飼い主の判断に任されているというのが現状です。
 猫の爪とぎに起因する問題は、多くの場合解決が可能です。お悩みの方は以下のページを参考にしながらありとあらゆる方法を試してみてください。猫の指よりも大事な家財道具がある場合は、猫も泥棒も触れないよう、その部屋に鍵をかけておけば一石二鳥ではないでしょうか。 猫の爪とぎのしつけ