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猫の股関節形成不全症は潜在的にかなりいるかもしれない

 猫の歩き方がおかしかったり、ジャンプ力の低下が見られるとき、犬の場合と同様「股関節形成不全症」の可能性を考慮しなければならないようです(2016.3.2/ブラジル)。

詳細

 ブラジル・クイアバ にある大学UFMTの獣医学チームは2015年、2歳になる猫を診察した際、太ももの付け根の関節が緩くなる「股関節形成不全症」を偶然発見した症例を報告しました。この猫は高い場所から落下した後、食欲不振と無気力に陥ったため、飼い主によって病院に連れてこられました。当日はしっかりとした保定ができなかったため、どこに痛みがあるのかを特定できませんでしたが、血液生化学検査で急性腎不全の徴候が見つかったことから入院治療を受けました。4日後、猫の症状が改善したタイミングでレントゲン撮影を行い、落下に伴う整形外科的な外傷の有無を調べたところ、偶然にも両側性の股関節形成不全が発見されたと言います。猫の股関節形成不全症のレントゲン写真 飼い主からの事前の聞き取りでは、落下事故以前に「歩き方がおかしい」とか「ジャンプ力が低下した」といった徴候がなかったことから、医療チームは「明確な症状はなくても、潜在的に股関節形成不全症を抱えている猫はかなりの数にのぼるだろう」と推測しています。また診察する際は、寛骨臼(股関節の凹部分)の崩壊といったわかりやすい徴候のみならず、大腿骨頭(股関節の凸部分)と寛骨臼の不完全接触、寛骨臼縁の変性、大腿骨頭の平板化や骨増殖といった微妙な変化にも気を配った方がよいとも。 猫の股関節形成不全症 Displasia coxofemoral em gato

解説

 犬ではお馴染みの「股関節形成不全症」ですが、猫においてはそれほどメジャーな病気とは考えられていないようです。整形外科の専門書を見ても「猫の股関節形成不全症」という項目自体が抜け落ちていることが少なくありません。このように軽視されている理由としては、レントゲンでそれらしき徴候が見られても、猫がとりわけ痛がる素振りを見せないため、「まあいいか」という感じで看過されることが多かったからだと考えられます。しかし過去に行われたいくつかの調査を振り返ってみると、潜在的にこの疾患にかかっている猫は結構な数になる可能性が示唆されています。以下で代表的なものをご紹介しますが、簡潔にまとめると「股関節形成不全症の有病率は6.6~32%」、「股関節形成不全症や骨関節炎を抱えている猫のうち、行動の変化といった明白な徴候を示すものは14~33%だけ」となります。このことはつまり、歩き方がおかしいとかジャンプ力が低下したといった徴候が見られた場合は、病状がかなり進行してしまっていることを意味します。

1998年の調査

 変形性関節症(DJD)と股関節の関連性を調査するため、78頭の猫のレントゲン撮影を行った。股関節形成不全は25頭 (32%)で見つかり、そのうち19頭は軽度、4頭は中等度、2頭は重度だった。また15頭では両疾患を併発していた。NA(形成不全の指標となる角度)の値は56~105で、DJD猫の平均は84、健常猫は95だった。一方、DI(関節の緩みの指標となる値で、1に近いほど緩い)の値は0.2~0.84で、DJD猫の平均は0.6、健常猫は0.49だった。犬の平均NA値が103なのに対し、健常猫の平均は92.4と低かった。また猫全体のDI平均は0.51で、関節が緩いラブラドルレトリバーが示す0.5という値に最も近かった。犬の場合と同様、猫の変形性関節症と股関節の緩みとは関連していると推測される(→出典)。

1999年の調査

 43頭のオス猫と35頭のメス猫から成る78頭の猫(平均2.5歳)を対象とし、膝蓋骨脱臼と股関節形成不全の関連性を調査した。痛みや不自然な動きなど、臨床的な異常所見を示した猫は11頭(14%)だけだった。その後レントゲン等でスクリーニングした結果、膝蓋骨亜脱臼(グレード1)のみを抱えた猫は31頭で、膝蓋骨脱臼を抱えた猫は45頭(58%)だった。また脱臼45頭のうち35頭はグレード1(78%) 、両側性は32頭(71%)だった。一方、股関節形成不全症を抱えた猫は25頭(32%)で、そのうち19頭は軽度、4頭は中等度、2頭は重度で、18頭は両側性だった。
 膝蓋骨脱臼と股関節形成不全症との併発は19頭(24%)で認められ、両疾患の間には弱い関連性が見出された。臨床的な異常所見を見せていない猫でも、膝関節の緩みや股関節の形成不全が潜在している可能性を否定できない(→出典)。

1999年の調査

 1991年1月から1995年12月にかけ、12品種・684頭に対してレントゲン撮影を行った。その結果45頭(6.6%)で股関節形成不全症の徴候が見出された。発症率には品種によってばらつきがあったが、共通所見は「寛骨臼の浅薄化とリモデリング」だった。なおどの症例においても大腿骨頭のリモデリングは著明ではなかった(→出典)。

2006年の調査

 1歳以上の猫292頭を対象にレントゲン撮影したところ、63頭(22%)で骨関節炎の徴候が見つかり、そのうち21頭(33%)では不自然な動きといった臨床上確認できる徴候も並存していた。老齢になるほど発症頻度は高まったが、明確な原因が分かったのは7頭(11%)に過ぎなかった。臨床上の徴候としては現れにくいが、特発性(原因不明の)骨関節炎はよくある疾患だと推測される(→出典)。