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外猫と野生動物との関係に関する意識調査

 日本を含めた6ヶ国の住人を対象とし、外に出る機会がある猫と野生動物との関係に関する意識調査が行われました(2016.10.31)。

詳細

 外をうろつきまわる猫が野生動物に対して与える影響に関しては、過去にさまざまな国において報告がなされています。しかし各国の間で見られる意識レベルの違いが、調査方法の違いを反映したものなのか、それとも各国の住人のリアルな意識の違いを反映したものなのかはよくわかっていませんでした。そこでオーストラリアやニュージーランドの大学が中心となった共同調査チームは、2012年から2013年にかけ、世界6ヶ国の住人を対象とした大規模なアンケート調査を行いました。調査項目は合計77つで、そのうち8項目は「猫への法規制」、「野生動物」、「不妊手術」に対する個々人の考え方を明確化するため更なる分析に回されました。
調査対象国(都市名)
  • オーストラリア(シドニー・ウロンゴン)
  • ニュージーランド(オークランド・デューンディン)
  • イギリス(サウサンプトン・バーミンガム)
  • アメリカ(ロサンゼルス・シカゴ・ハワイ)
  • 中国(北京・ハルビン)
  • 日本(東京・神奈川・大阪・静岡)
設問内容
  • 猫に関する法規制が必要だ
  • 猫の夜間外出を禁止すべきだ
  • 猫は飼い主の居住区内から出すべきではない
  • 都市、街、郊外に暮らしている野生動物は重要である
  • 野生動物を殺しているペット猫は問題だ
  • 農場で飼われているペット猫は野生動物に害をなす
  • 自然保護区内に暮らしているペット猫は野生動物に害をなす
  • ブリーダー以外に飼われている猫はすべて不妊手術を受けるべきだ
 「全く賛同しない」~「大いに賛同する」までの5段階で回答してもらったところ、以下のような傾向が見られたといいます。
猫と生態系に関する意識調査
  • すべての国において猫を飼っている人よりも、猫を飼っていない人の方が、ペット猫による野生動物の狩りが、都市、街、郊外において問題になっていると考えていた
  • 猫を飼っているといないとにかかわらず、中国を除くすべての国において、85%以上の人が都市、街、郊外における野生動物を重要であると考えていた
  • 日本を除くすべての国において、猫を飼っていない人の方が、猫に関する法律や規制を是とした
  • ペット猫が野生動物を殺しているということを「問題あり」と考えていた飼い主の割合は、アメリカの20%からオーストラリアの62%まで大きな幅があった
 各国間で見られた意識の違いから、「野生動物を守るため」という名目で猫の飼育に何らかの規制を設けようとする場合、最も受け入れられる可能性が高いのは、野生動物への問題意識が比較的高いオーストラリアだけだろうと推測されました。その他の国において責任ある猫の飼育に関する議論を進めるためには、「猫の福祉を向上させるため」という、生態系保護の代わりとなる目的意識が必要だろうとのこと。
 調査チームは、野生動物を守るにせよ猫の福祉を向上させるにせよ、目的達成のための最も確実な方法は「飼い主の敷地内から猫を外に出さないこと」だと提言しています。ただし、飼い主の敷地がアパートの一室という狭い空間に限定されるような場合は、「退屈」というマイルドな虐待を防ぐため、環境エンリッチメントを同時に実践していく必要があるとも。 Community Attitudes and Practices of Urban Residents Regarding Predation by Pet Cats on Wildlife: An International Comparison
Catherine M. Hall ,Nigel A. Adams, et al. 2016

解説

 野生動物や生態系に対する各国間の意識差を生み出している最も大きな要因は、地域特有の生物多様性ではないかと推測されています。わかりやすい例を挙げれば、巨大ネズミの目撃例がたびたび報告されている東京都渋谷に暮らしている人と、絶滅危惧種であるアマミノクロウサギが生息する奄美大島に暮らしている人に対し、「野生動物を殺しているペット猫は問題か?」という質問を投げかけた時、同じ答えが返ってくるはずがないということです。生物多様性以外の要因としては、宗教(不妊手術や堕胎を容認しない etc)、歴史(昔から猫は放し飼いと決まっている etc)、文化(動物保護団体による啓蒙活動のレベル etc)などが想定されています。 猫と生態系に関する問題意識は人々の住環境によって大きく左右される  当調査において明白な関連性が確認されたのは、猫を室内飼いする割合が少ないニュージーランド(約8%)やイギリス(約4%)において、猫による捕食行動が最も頻繁に観察されたという現象です(約80%)。不要な狩猟を減らすためには猫を敷地内に閉じ込めておくことが理想ですが、それができない場合は捕食行動を邪魔するような各種のアイテムを使うことが代替案として提案されています。具体的には鈴、とびかかりプロテクター(CatBib®)、バッテリ搭載アラーム、カラフルな首輪(Birdsbesafe®)などです。しかしこうしたアイテムを用いても、猫の捕食行動を完全に予防することはできないし、また交通事故や感染症の危険を回避できるわけでもありません。 猫の捕食を妨げるアイテムは、交通事故や感染症までは予防してくれない  野生動物への被害を減らし、なおかつ猫の福祉を向上させるための最善策は、やはり調査チームが提言しているように「飼い主の敷地内から猫を外に出さないこと」であるように思われます。しかし狭い一室に軟禁状態にしてしまうと、運動不足や刺激不足で猫が心身ともに参ってしまいますので、「環境エンリッチメント」という概念が極めて重要になってきます。猫のストレス管理法に関しては以下のページにまとめてありますのでご参照ください。 猫の幸福とストレス