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ヨーロッパにおける猫のカリシウイルス感染率と体外排出の危険因子

 ヨーロッパの6ヶ国を対象としたカリシウイルス感染症の大規模な調査が行われ、各国における感染率と体外排出の危険因子が明らかになりました(2017.4.24/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのは、イギリス・リバプール大学やノッティンガム大学からなる共同チーム。2013年10月から2014年5月の期間、イギリス、フランス、イタリア、オランダ、スウェーデン、ドイツの6ヶ国で開業している獣医師に協力をあおぎ、猫の健康状態を度外視してランダムで口内のスワブチェック(綿棒で口の中をこすってウイルスサンプルを採取すること)を行ってもらいました。
 その結果、50の診療所から合計1,521のサンプルが集められ、ヨーロッパ全体におけるカリシウイルスの感染率がおよそ9.2%であることが明らかになったといいます。各国における具体的な感染率は以下です。
欧州のカリシウイルス感染率
欧州6ヶ国におけるカリシウイルス感染率
  • オランダ=16.2%
  • ドイツ=14.2%
  • イギリス=8.4%
  • スウェーデン=8.3%
  • フランス=5.8%
  • イタリア=5.4%
 感染率調査と同時に獣医師にアンケートを行い、ウイルスの体外排出リスクを高める危険因子になりやすい12の項目を調べていったところ、以下のような傾向が浮かび上がってきました。
カリシウイルスの排出増悪因子
  • フランス、イタリア、イギリスの猫はリスクが低い
  • 不妊手術を受けていない猫はオスでもメスでもリスクが1.7倍
  • 2~3頭の多頭飼い家庭においては1.7倍
  • 4~10頭の多頭飼い家庭においては2.8倍
  • 慢性歯肉口内炎を抱えている猫では8.3倍
  • 1歳年をとるごとにリスクが12%減少
A multi-national European cross-sectional study of feline calicivirus epidemiology, diversity and vaccine cross-reactivity
Afonso MM et al. Vaccine (2017), http://dx.doi.org/10.1016/j.vaccine.2017.03.030

解説

 不妊手術を受けていない猫は、性別にかかわらず受けている猫の1.7倍ウイルスの排出リスクが高まることが明らかになりました。猫エイズウイルス感染症(FIV)と同様、手術に伴う行動パターンの変化が感染率に影響を及ぼしているものと推測されます。具体的には縄張り意識、性衝動の弱まりや放浪行動の減少などです。 猫エイズウイルス感染症
 単頭飼育家庭よりも多頭飼い家庭において、ウイルス排出リスクが1.7~2.8倍になることが確認されました。カリシウイルスに対するワクチンはありますが、症状を緩和するだけでウイルス排出量を減らす効果までは有していません。ですから家庭内において1頭が感染してしまうと、グルーミングによる直接的な接触や、咳やくしゃみによる間接的な接触を通し、容易に感染が広がってしまうものと推測されます。 猫のワクチン接種
 慢性歯肉口内炎を抱えている猫では抱えていない猫の8.3倍排出リスクが高くなるようです。トルコ・イスタンブール大学獣医学部が行った調査では、口内炎を含む口内病変を抱えている猫が高い確率で全身性の疾患を併発していることが確認されています(→詳細)。猫の口内炎と人間の口内炎を同等視するのではなく、細菌やウイルスによる全身性疾患の一部として深刻に捉えた方がよいでしょう。 猫の口内炎猫の口内病変は、全身性疾患を早期発見するための警報装置  現在用いられているカリシウイルス用のワクチンは、様々なウイルス株(F9株やF255株など)を用いて製造されていますが、カリシウイルスの変異スピードが早いため、ワクチンによって体内にできた抗体によっても撃退できないやっかいな野外変種が数多く存在しています(→出典)。ですから一番の予防法は、ワクチン接種ではなくやはり「猫を屋外に出さない」ということになるでしょう。 猫を飼う室内環境 猫カリシウイルス感染症