トップ2017年・猫ニュース一覧8月の猫ニュース8月17日

猫を撫でる喜びは男性よりも女性の方が大きい?

 猫を撫でたときの脳内の活性度を調べた所、男性よりも女性の方が大きい喜びを感じている可能性が示されました(2017.8.17/日本)。

詳細

 調査を行ったのは麻生大学獣医学部のチーム。30人の大学生(男性10名+女性20名/平均年齢20歳)を対象とし、ぬいぐるみや本物の猫を撫でている時、脳内で一体どのような変化が起こっているのかを「機能的近赤外線スペクトロスコピー」(fNIRS)という計測機器を用いてデータ化しました。
fNIRS
 「機能的近赤外線スペクトロスコピー」(fNIRS)とは、酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンの間で見られる吸光度の違いを利用して脳内の血流をモニタリングする機器。CTやMRIに比べて大掛かりな装置を必要とせず、スペースを取らないのが特徴。今回の調査では、感情や社会的コミュニケーションとの関わりが深いとされている下前頭回という部位が調査対象となった。機能的近赤外線スペクトロスコピーの使用場面
 統一された実験室内に被験者を招き、以下のような6種類のセッションを一人一人にこなしてもらいました。ちなみに被験者はすべて右利きで、撫でる時も右手が用いられています。
猫撫でテスト(各60秒)
  • おもちゃの猫の背中を触る
  • おもちゃの猫の背中を撫でる
  • おもちゃの猫の背中を自由に撫でる
  • 本物の猫の背中を触る
  • 本物の猫の背中を撫でる
  • 本物の猫の背中を自由に撫でる
 調査チームは脳内の活性データと併せ、「NEO-FFI」および「SAM」というテストを行いました。「NEO-FFI」は60項目からなる質問に回答することでパーソナリティーを「神経質/外向性/開放性/協調性/誠実性」という5つの側面で客観化するテスト。「SAM」は「喜びと悲しみ」、「感情の高ぶり」、「独占欲」という3つの側面を9段階で自己評価するテストで、各セッションの直後に行われました(=1人につき6回)。
 すべてのデータが出そろったところで、各項目の関連性を統計的に調べたところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。
猫撫でと脳内変化
  • 本物の猫を接触対象としているとき、下前頭回の活性レベルは男性よりも女性の方が高かった
  • 女性の喜びの度合いは、おもちゃの猫よりも本物の猫を接触対象としているときの方が強かった
  • 女性では左脳にある下前頭回の活性化レベルが高まるほど本物の猫を撫でる回数が増えた
  • 女性では喜びの度合いが強まるほど本物の猫を撫でる回数が増えた
  • 女性が本物の猫を撫でている時、神経質傾向が強い人ほど左脳にある下前頭回の活性レベルが高まった
 こうしたデータから調査チームは、猫を撫でている時の男性と女性の脳内では、活性化の仕方に明確な違いが見られるとの結論に至りました。特に、神経質傾向が強い女性が本物の猫をなでている時、とりわけ強い喜びを感じている可能性があるとのこと。ただし被験者の数が少ない、被験者の男女比が大きい、ペットの飼育歴が考慮されていないといった制限があることから、得られた知見はあくまでも予備的なものだとしています。
The Effects of Touching and Stroking a Cat on the Inferior Frontal Gyrus in People
Ai Kobayashi et al., Anthrozoos Volume 30, 2017, Issue 3, dx.doi.org/10.1080/08927936.2017.1335115

解説

 猫好きの人間はたまに「モフモフしたい!」という衝動に駆られることがあります。これが先天的なものなのか後天的なものなのかはわかりませんが、脳科学レベルで解析するとある程度は説明が可能なのかもしれません。

おもちゃと本物

 おもちゃの猫と本物の猫を比較した場合、本物の猫を触っている時の方が脳が大きく活性化しました。反応性の違いを生み出したのは、「対象が生きている」という認識のほか、動き、肌触り、体温といった生物固有の有生性(animacy)だと推測されます。 なでなでねこちゃんDX2  近年は猫をデザインに取り入れたセラピーロボットが数多く開発されているようです。人間に対する癒し効果は本物に及ばないかもしれませんが、人獣共通感染症の心配がないとか世話の必要がないといったメリットもあります。認知症患者の心理的な安定につながったという報告もありますので(→出典)、時と場合によっては本物の猫よりも役に立ってくれるかもしれません。

神経質傾向

 その人が持つ神経質傾向が、猫と自由に接触しているときの反応に影響を及ぼしていました。具体的には、神経質傾向が強い男性ほど猫を撫でているときに脳の活性が低くなったのに対し、神経質傾向が強い女性ほど活性が高くなるというものです。過去に行われた調査では、神経質傾向が強い飼い主ほど猫とポジティブに交流すると報告されています(Wedl et al., 2011)。しかしもっと掘り下げて調べていくと、その反応は一様ではなく男女差が見られるのかもしれません。ちなみに「ビッグファイブ理論」で言う「神経質」とは、怒り、不安、抑うつといった不快な感情を抱きやすい傾向のことです。

男性と女性

 男性と女性を比較したとき、女性の方が猫と接しているときの反応が強いことが明らかになりました。過去に行われた調査では、男性と女性とでは感情の処理をする脳の容量に差がある(Gur et al, 2002)、顔の動きや感情の変化に関し男性よりも女性の方が強く反応する(Kring et al, 1998)、猫と交流しているとき男性よりも女性の方がポジティブな接し方をする(Wedl et al, 2011)と報告されています。ですから猫と接した時のリアクションの違いには脳の器質的な男女差が関連しているのかもしれません。そう考えると、猫カフェデートで彼女に無理矢理連れてこられた男性がつまらなそうな顔をしているのは、致し方ないことと言えるでしょう。 野良猫のエサやり人は統計的に女性の方が多い  野良猫に餌付けをしている人を統計的に調べたところ、アメリカ・フロリダ州では84%(年齢中央値45歳)が、そしてイスラエル・エルサレムでは81%(年齢中央値58歳)が女性だったと言います。こうした女性優位の傾向を生み出している要因としては、「家にいる時間が長く自由な時間が多い」といった家庭環境的なもののほか、「そもそも女性の方が猫との接触によって得られる感情的な報酬が大きい」といった脳生理学的なものも考えられます。 野良猫の「エサやり人」に関する統計調査