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ドイツ猫におけるヘモプラズマの保有率と感染の危険因子が判明

 ドイツ国内に暮らす400頭以上の猫を対象とした調査により、猫伝染性貧血を引き起こすヘモプラズマの保有率が明らかになりました(2017.7.13/ドイツ)。

詳細

 ヘモプラズマは、赤血球表面に取り付いて貧血症状を引き起こすマイコプラズマの一種。猫伝染性貧血の病原菌として知られています。今回の調査を行ったルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの調査チームは、ドイツ南部にある複数の動物病院を受診した猫合計479頭(オス猫298頭 | 年齢中央値7.4歳)を対象とし、ヘモプラズマの大規模な保有率調査を行ないました。主な結果は以下です。
ヘモプラズマ感染率調査結果
  • 感染率=9.4%(45頭)
  • M. haemofelis=93.3%(42頭)
  • M. haemominutum=4.4%(2頭)
  • M. turicensis=2.2%(1頭)
  • 感染猫の年齢中央値=9歳
  • 外を出歩く猫=90.2%(37/41頭)
  • 多頭飼育猫=97.8%(44/45頭)
  • ヘモプラズマ感染猫の貧血率=13.4%(6/45頭)
  • 非感染猫の貧血率=21.1%(67/317頭)
  • オス猫の感染リスク=3.6倍
  • 外出猫の感染リスク=9.6倍
  • 多頭飼育猫の感染リスク=8.7倍
 さらに調査チームは、ヘモプラズマに感染した猫だけを対象とし、かねてから感染率の増悪因子として疑われていた猫白血病ウイルス(FeLV)と猫エイズウイルス(FIV)の同時感染率を調査したところ、以下のような結果になりました。
ヘモプラズマの同時感染症
  • 進行性FeLV感染症FeLV(猫白血病ウイルス)が血中に存在しており、抗原とプロウイルスが存在している状態。同時感染は1頭だけで、ヘモプラズマへの感染リスクには影響しない。
  • 退行性FeLV感染症FeLV抗原は存在していないものの、プロウイルスは存在しているキャリアの状態。同時感染は2頭だけで、ヘモプラズマへの感染リスクには影響しない。
  • 不発性FeLV感染 免疫系統がFeLVを駆逐した結果、抗原もプロウイルスも存在していないが、特異的抗体が存在している状態。同時感染は12頭で、ヘモプラズマへの感染リスクは2.64倍。
  • FIV感染症猫後天性免疫不全症候群を引き起こす猫エイズウイルス(FIV)に感染した状態。同時感染は5頭で、ヘモプラズマへの感染リスクは26.9倍。
Risk factors of different hemoplasma species infections in cats
Bergmann et al. BMC Veterinary Research (2017) 13:52 DOI 10.1186/s12917-017-0953-3

解説

 ヘモプラズマは、かつて「ヘモバルトネラ」と呼ばれた病原菌のことです。遺伝子解析技術の進歩により、ヘモバルトネラはリケッチアではなくマイコプラズマに属する可能性が高いということから、現在分類の修正が進められています。獣医学の教科書では、猫伝染性貧血のことを「ヘモバルトネラ症」と表記しているものもありますが、向こう5年間のうちに徐々に修正されていくことでしょう。 M. haemofelis(マイコプラズマ・ヘモフェリス)の顕微鏡写真  猫に感染することが確認されている3種類のヘモプラズマのうち、圧倒的な感染率を誇っていたのは最も病原性が高いとされる「M. haemofelis」(マイコプラズマ・ヘモフェリス)でした。しかし貧血の発症率を比較してみると、感染猫が13.4%であるのに対し非感染猫が21.1%と理屈に合わない数字になっています。こうした事実から「M. haemofelis」は、感染したからといってすぐに症状を引き起こすわけではなく、宿主の免疫力が低下するまで体内に潜伏する日和見感染症としての側面が強いことが伺えます。
 オス猫の感染リスクはメス猫の3.6倍、外出できる猫の感染リスクは室内猫の9.6倍、多頭飼育猫の感染リスクは単頭飼育猫の8.7倍という結果になりました。これらのデータが指し示しているのは出血を伴うような喧嘩が感染リスクを高めるという一点です。外を自由に出歩けるオス猫たちがメス猫の匂いに惹かれて公園に集合し、そこでガチンコバトルを繰り広げるといった状況が想定されます。猫の爪や唾液には菌が含まれていますので、咬み傷や引っかき傷を通じて体内に病原菌が入ってしまうのでしょう。 爪や牙による傷口からヘモプラズマが体内に侵入する  不発性FeLV感染、およびFIV感染症によって感染リスクが高まることが明らかになりました。FeLVもFIVも猫同士の争いを通して感染が広がりますので、ウイルスと同時にヘモプラズマも傷口経由で伝播してしまうのかもしれません。またFeLVもFIVも共に宿主の免疫力を低下させる病気ですので、白血病やエイズを発症すると同時に体内に潜伏していたヘモプラズマが増殖し、病的な貧血を引き起こすという状況も考えられます。ウイルスにしてもヘモプラズマにしても予防可能な病気ですので、飼い主としては責任ある完全室内飼育の徹底に努めたいところです。 猫伝染性貧血 猫エイズウイルス感染症 猫白血病ウイルス感染症 猫を飼う室内環境の整え方