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猫の尿中にはシュウ酸カルシウム結石の元が数え切れないほど含まれている

 猫の腎結石と尿管結石の90%以上を占めるとされるシュウ酸カルシウム結石に関し、謎が多い形成メカニズムの一端が明らかになりました(2017.3.23/アメリカ)。

詳細

 腎臓と尿道の間のどこかに結石ができてしまう尿路結石症のうち、シュウ酸カルシウム結石に関しては人間と猫で発症リスクがある程度似通っていると考えられています。具体的には、男性(オス猫)、水分摂取量が少ない、尿の過剰な酸性化、特発性の高カルシウム血症などです。人間にしても猫にしても高い再発率が報告されているものの、結石が形成される詳細なメカニズムに関してはよくわかっていません。
 そこで、カリフォルニア大学やロイヤルカナンなどからなる共同研究チームは、統一環境内で全く同じ食事を摂取している9頭の健康な猫から尿を採取し、シュウ酸カルシウム結石がどのようにして形成されるのかに関する観察を行いました。チームが着目したのは「石灰化ナノ粒子」と呼ばれる超極小物質です。
石灰化ナノ粒子
 石灰化ナノ粒子(Calcifying nanoparticles, CNP)とは、生物由来の無機質でできた、大きさ54~362nm(1nm=1mmの100万分の1)程度のコロイド状懸濁粒子。生理学的なミネラルホメオスタシスや、異所性の骨格外ミネラル化を特徴とするさまざまな病気の発症に関わっていると考えられている。特に尿路結石症の発症で重要な役割を演じていると推測されており、尿石、腎杯乳頭部分におけるランドールプラーク(Randall's plaque=リン酸カルシウム塊)、膀胱炎を発症した膀胱粘膜などで発見されている。
 大きさがせいぜい数百nmしかないCNPを検出するため、調査チームは「Nanoparticle Tracking Analysis」(NTA®, Malvern Instruments)と呼ばれる最新技術を用い、猫のおしっこを精査しました。NTAの特徴は、30~1000nmという極めて小さい物質を検出できるという点と、必要とするサンプルの量が1~5μL(1μL=0.001mL)と極めて少なく、ショウジョウバエのおしっこでも検査対象にできるという点です。
 室温(18~24℃)、明暗サイクル(14時間は照明をつける)、食事内容(市販のドライフード)などを全て統一した状況で、臨床上健康な去勢済みのオス3頭(平均年齢6.54歳 | 体重5.99kg | BCS5.2)と未手術のメス6頭(平均年齢8.75歳 | 体重4.32kg | BCS6.75)が自然排出したおしっこを採取し、中に含まれるサブミクロン粒子(1ミクロン未満の微粒子)を調べた所、以下のような特徴が浮かび上がってきたと言います。

粒子の正体はエクソソームではない

 CNPに近いものとして、細胞から分泌される直径40nm~150nm程度の膜小胞「エクソソーム」があります。猫の尿中で発見されたサブミクロン粒子の正体を突き止めるために屈折指数を調査したところ、エクソソームよりも3~10倍大きいことが判明しました。また「Exo-FITC®」と呼ばれる特殊な方法によってエクソソームの存在を確認したところ、検出できないレベルだったとも。
 こうした事実から、猫たちの尿中に含まれるエクソソームは極めて微量であると判断されました。さらにこの仮説は、電子顕微鏡でエクソソームの特徴であるカップのような形が観察されなかったことからも裏づけられました。

粒子の正体はCNP

 サブミクロン粒子が何らかの微生物によって作られているとすると、数や大きさが増大するために数週間を要するとされています。一方、粒子が非生物的に形成されている場合、この時間は数時間にまで一気に短縮します。猫の尿中で発見されたサブミクロン粒子を、細胞の一切存在していない37℃の環境下に4時間置いた所、粒子の濃度がおよそ4倍増加し、直径も増大したと言います。
 この観察結果から、サブミクロン粒子は何らかの微生物が形成しているものではなく、生物由来の無機質から自然に形成されるCNPであると判断されました。

CNPの外側はハイドロキシアパタイト

 体内で自然発生した原発性CNPは、中が空洞になっており、外側はハイドロキシアパタイト(水酸基、リン、カルシウムを含む物質の総称)でできていると考えられています。この特徴を確認するため、ハイドロキシアパタイトと親和性の高い2つの物質(アレンドロン酸とオステオポンチン)を猫から採取したおしっこと混ぜ合わせた所、どちらの物質も尿中に含まれるCNPと特異的に結合することが確認されました。一方、比較として用いたポリスチレン製の極小ビーズ(100nm)では同様の現象が確認されず、またシュウ酸カルシウムの形成を阻害するキレート剤(クエン酸塩)を添加することで結合が見られなくなったとも。さらにカルシウムによって活性化される蛍光色素分子「Fluo-4」を用いた所、猫の尿中に含まれるサブミクロン粒子の外側にはカルシウムが豊富に含まれていることが確認されたと言います。
 これらの事実から、原発性CNPの外層はカルシウムとリンを含むハイドロキシアパタイトで形成されていると判断されました。
Nanoparticle Tracking Analysis for the Enumeration and Characterization of Mineralo-Organic Nanoparticles in Feline Urine.
Mellema M, Stoller M, Queau Y, Ho SP, Chi T, Larsen JA, et al. (2016) PLoS ONE 11(12): e0166045. doi:10.1371/journal.pone.0166045

解説

 猫の腎結石と尿管結石の90%以上を占めるとされるシュウ酸カルシウム結石は、核であるハイドロキシアパタイトの上にタンパク質(フェチュイン-aやアルブミンなど)や粘膜が付着することによって、まるで真珠のように徐々に形成されていくものと考えられています。
 今回の調査対象となった9頭の猫における尿中サブミクロン粒子の平均は「2.7×1010/mL」でした。これは1mL中およそ270億個という途方もない数です。そしてこれらの極小物質はほとんどの場合、細胞由来のエクソソームではなく、生体由来のミネラルで構成されていました。さらにそのミネラルの構成要素は、シュウ酸カルシウム結石の核となるハイドロキシアパタイトでした。一見健康に見えても、猫の尿中には結石の原因となる核のようなものが、数え切れないほど含まれていると考えたほうが無難なようです。
 今回試験的に用いられた「NTA®」という技術がもう少し手軽に利用できるようになれば、尿中に含まれるCNPの量を目安にして、食事内容を変更するといった予防医学的なアプローチも可能になると期待されています。 猫の腎結石 猫の膀胱結石 猫の尿道結石