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猫における塩分(ナトリウム)の許容最大値と最小値

 猫が飲む水の量を増やすため、塩を舐めさせるというのはやっても良いことなのでしょうか?これまでの調査から正当性の検証が行われました(2017.5.22/フランス)。

詳細

 おしっこに溶けている物質が結合して形成される「尿結石」を予防するためには、水をたくさん飲ませておしっこを希釈し、溶質が結晶を形成する前に体外に排出する必要があります。猫にたくさん水を飲ませようとよく言われるのはこのためです。
 猫の飲水量を増やすため、塩分の摂取量を増やすという方法は簡便で魅力的ですが、まともな医学書や飼育本に「猫に塩を舐めさせよう!」とか「猫に塩辛いものを食べさせよう!」といった事はまず書かれていません。この理由は、人医学の分野において塩分の過剰摂取と様々な疾患との関連性が指摘されているからです。しかし猫においては塩分の摂取と体調不良との因果関係が明確に証明されておらず、塩分の必要最低量と最大量がよくわかっていないというのが現状です。 猫における塩分(NaCl)の最適な摂取量はよくわかっていない  フランス・ナント大学を中心としたチームは、2016年時点で存在している猫の塩分(ナトリウム)摂取に関する研究を網羅的に調べなおし、最適な摂取量がどの程度なのかを検証しました。その結果、ナトリウムの摂取不足によって体調不良に陥る事はあるものの、摂りすぎによって何らかの疾患が引き起こされるという明確な証拠は見つからなかったと言います。とは言え無制限に摂って良いというわけではなく、上限値として以下の値を推奨しています。
猫の年齢にかかわらず1日当たり3.1mg/kcal(740mg/MJ)
 例えばある猫の1日の摂取カロリー数が400kcalの場合、ナトリウムの摂取上限値は「3.1mg×400kcal」で「1,240mg=1.2g」ということになります。食塩1gに含まれるナトリウムはおよそ400mgですので、ナトリウム1.2gを食塩でイメージすると「3g」程度となります。
Sodium in feline nutrition
Nguyen, P., Reynolds, B., Zentek, J., Paslack, N. and Leray, V. (2017), J Anim Physiol Anim Nutr, 101: 403-420. doi:10.1111/jpn.12548

解説

 人医学の分野においては、食塩の過剰摂取と以下のような疾患との間に関連性があるのではないかと指摘されています。
塩分摂取と関連疾患
  • シュウ酸カルシウム結石
  • ストルバイト結石
  • 高血圧
  • 心臓病
  • 腎臓病
  • 骨粗しょう症
 今回の調査を行ったナント大学のチームが、過去に猫を対象として行われた研究を精査したところ、ナトリウム摂取量と上記した疾患との間に明確な因果関係は確認されませんでした。
 一方、健康を悪化させる可能性とし浮上してきたのが、ナトリウム摂取量を抑えることによりRAASが活性化し、腎臓に対する保護機能が薄れて慢性腎不全の進行を助長するかもしれないというものです。
RAAS
 RAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)は、各種のホルモンが連携して腎臓の尿細管に作用し、ナトリウムと水の再吸収を促進すると同時に、カリウムの再吸収を抑制して尿中カリウム排泄を促す。 人医学においてはRAASを抑制することが腎臓保護につながると考えられているが、アメリカ獣医内科大学(ACVIM)が2006年にまとめた犬と猫の高血圧治療ガイダンス(P10)の中では、塩分の制限によって犬や猫の腎臓に対する負担が逆に増えてしまう可能性が指摘されている(→出典)。
 猫及びげっ歯類を用いた調査では、ナトリウムの摂取によってRAASが抑制されるという可能性が報告されています。一方、人間においては逆にナトリウム摂取量を制限することでRAASが抑制されたと報告されています。動物間でなぜこのような違いが見られるのかに関してはよくわかっていませんが、ナトリウムの摂取量とRAASの関係性については、人間と猫とを同等視するわけにはいかないようです。
 ペット動物の栄養要求に関する研究を行っている「NRC」(全米研究評議会)によると、最新の2006年度版では猫のナトリウムの推奨摂取量に関し、成長期の子猫で「3.09mg/kcal」(740mg/MJ)、維持期にある成猫で「0.17mg/kcal」(40mg/MJ)と定められています。またAAFCO(アメリカ飼料検査官協会)が公開した最新の栄養ガイダンス(2016年度版)では、猫の年齢、性別、妊娠状態にかかわらず、ナトリウムの摂取最小値が「0.5mg/kcal」と定められています。
 NRCとAAFCOの推奨値、および当調査で推奨されている摂取最大値をまとめると、子猫だろうと成猫だろうとフード1kcal中に含まれるナトリウムの許容量は以下のようになるでしょう。
✓猫のナトリウム摂取許容量=0.5mg~3.1mg/kcal
 最小値を下回るとRAASが活性化して腎臓の負担が増え、慢性腎不全を悪化させてしまう危険性があります。逆に最大値を上回ると、人医学の分野で確認されているような各種の疾患を引き起こしてしまう可能性を否定できません。猫の飲水量を増やすために塩分を摂取させる際は、上記した適性値を超えない範囲内で行うことが、現時点では無難だと考えられます。 猫と水 猫の慢性腎不全