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アメリカ猫医療協会(AAFP)が抜爪術に対する強い反対姿勢を表明

 2017年9月、アメリカ猫医療協会(AAFP)が抜爪術に対する従来の曖昧な立場を改め、「強く反対する」という断固たる姿勢を打ち出しました(2017.9.14/アメリカ)。

詳細

 「アメリカ猫医療協会」(AAFP)は猫を専門として診療を行う獣医師達からなる組織。一方「抜爪術」(ばっそうじゅつ, ディクローとも)とは、家財道具のダメージや爪による引っかき傷を予防するため、猫の第一関節から先を切断してしまう外科手術のこと。AAFPは2007年と2015年の2回にわたり、抜爪術に関する立場表明を行ってきましたが、前回の改変からわずか2年しか経っていない2017年9月、これまでの「獣医師は患者に対して事前に教育を行うべきだと強く信じる」という弱腰の立場を改め、「抜爪術に強く反対する」という断固たる姿勢を打ち出しました。以下は概要です。なお「選択的施術」とは、医学的な目的を持たないやってもやらなくても良い手術のことを意味しています。
AAFP立場表明2017
 AAFPは選択的施術としての抜爪術に強く反対する。猫の飼い主に対して抜爪術の代替案を提供することは獣医師の義務である。飼い主が抜爪術を考えている場合、施術に関する完全な情報提供が行われていなければならない。以下は根幹部分である。
  • 猫の抜爪術は倫理的に議論の余地がある施術である
  • ほとんどの場合、抜爪術は医学的に必要な施術ではない
  • 爪とぎは先天的なものであれ後天的に学習されたものであれ、猫の自然な行動の1つであり、飼い主はこのことを理解しておく必要がある。獣医師は猫が爪とぎ行動を自然に発現できるよう、行動に関するアドバイスを行い、飼い主が望ましくないとみなす猫の行動を減らすべきである
  • 抜爪術とは末節骨の切断である
  • 抜爪術の代替案を飼い主に提供することは獣医師の義務である
  • 獣医師は猫の飼い主と相談し、以下に述べるような代替案を試してみるべきである
    ✓爪とぎを与える(水平・垂直)
    ✓定期的な爪切り
    ✓ネイルキャップ
    ✓フェイシャルフェロモン(スプレー・蒸散)
    ✓適切な環境エンリッチメント
  • 抜爪術には加齢とともに増加する付随リスクや後遺症がある。急性のものでは痛み、患部の感染症、神経への外傷。慢性のものでは荷重不全、問題行動、持続性の神経痛など
AAFP Position Statement 2017 "Declawing"

解説

 2007年と2015年の立場表明では以下のような文言が用いられていました。
アメリカ猫医療協会(AAFP)は、猫の飼い主に対し抜爪術の代替案に関する完全な情報提供を行う事は獣医師の義務であると強く信じる
The American Association of Feline Practitioners(AAFP) strongly believes it is the obligation of veterinarians to provide cat owners with complete education about and alternatives to feline onychectomy. Position Statement 2007 Position Statement 2015
 前回の改変からわずか2年という短期間で「強く反対する」(strongly oppose)という文言に変更された理由は、2017年5月、AAFPも発行に関与している医学雑誌「Journal of Feline Medicine and Surgery」に掲載された1本の論文だと考えられます。「Pain and adverse behavior in declawed cats」(抜爪術を受けた猫における痛みと反動行動)と題されたこの論文の中では、抜爪術を受けた猫が高い確率で問題行動を発現する危険性が示唆されました(→出典)。問題行動の中には「噛みつき」や「粗相」など、飼育放棄の原因になり得るものまで含まれていたことから、恐らくAAFPは「猫と共同生活するために行った抜爪術が、逆に飼育放棄の原因になってしまう」という危険性を強く嗅ぎ取ったのでしょう。 猫は痛みを感じにくいというのは医学的な根拠のない都市伝説  猫の抜爪術に関しては、年々動物虐待であるとの認識が強まりつつあります。例えば以下は獣医療に関わる各種団体が公開している立場表明です。
ASPCA
 アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)は、飼い主の都合や家財道具へのダメージを予防するという目的での抜爪術に強く反対する。唯一許容されるのは、行動的・環境的なあらゆる代替案がうまくいかず、猫が安楽死の危険にさらされている状況だけである(→出典)。
The ASPCA is strongly opposed to declawing cats for the convenience of their owners or to prevent damage to household property. The only circumstances in which the procedure should be considered are those in which all behavioral and environmental alternatives have been fully explored, have proven to be ineffective, and the cat is at grave risk of euthanasia.
AAHA
 アメリカ動物病院協会(AAHA)は、猫に対する抜爪術に強く反対する。そして猫の飼い主に対して効果的な代替案を提供する獣医師の努力を支持する(→出典)。
The American Animal Hospital Association strongly opposes the declawing of domestic cats and supports veterinarians’ efforts to educate cat owners and provide them with effective alternatives.
AVMA
 アメリカ獣医師協会(AVMA)は、猫に抜爪術を施す前に飼い主に対して情報提供することを強く推奨する。猫にとっての爪とぎは自然な行動であること、手術の具体的な内容、術後のリスクに関して完全な情報提供することは獣医師の義務である(→出典)。
The AVMA strongly encourages client education prior to consideration of onychectomy (declawing). It is the obligation of the veterinarian to provide cat owners with a complete education with regard to the normal scratching behavior of cats, the procedure itself, as well as potential risks to the patient.
ISFM/iCatCare
 International Cat Careとその獣医療部門である猫医学国際学会(ISFM)は、医療的目的を持たない抜爪術は解体の一種であり、非倫理的であるとみなす(→出典)。
International Cat Care (iCatCare) and its veterinary division the International Society of Feline Medicine (ISFM) consider the declawing of cats for anything other than genuine therapeutic medical reasons to be an act of mutilation, and to be unethical.
WSAVA
 世界小動物獣医師協会(WSAVA)は、コンパニオンアニマルの外見を変えることを目的とした外科手術は積極的に忌避されるべきであると考える。可能ならば、整形的な意味だけで医療的な目的を持たない施術は法律で規制すべきである。例えば断尾、断耳、声帯切除、抜爪術、犬歯切断など(→出典, 行動規範セクション10参照)。
Non-therapeutic surgical operations on companion animals
i) Surgical operations for the purpose of modifying the appearance of a companion animal for non-therapeutic purposes should be actively discouraged.
ii) Where possible legislation should be enacted to prohibit the performance of nontherapeutic surgical procedures for purely cosmetic purposes, in particular;a. Docking of tails; b. Cropping of ears; c. Devocalisation; d. Declawing and defanging.
 上記したように施術を積極的に容認している団体は1つもありません。微妙な立場を保っているのが「アメリカ獣医師協会」(AVMA)で、「代替策が全てうまくいかなかった場合は認める」というスタンスをとっています。アメリカ国内では抜爪術の施術率が20%程度と高く、30億ドル近いビッグビジネスに成長しているため、「既得権益を守る」といった事情があるのかもしれません。カリフォルニア州ロサンゼルスのウエストハリウッド市が2002年、抜爪術を違法化しようと動き出した際、州の獣医師協会(CVMA)が躍起になって反対し、市を相手取って訴訟まで起こしたのは興味深いところです(→出典)。
 一方、日本ではどうなっているのでしょうか?平成27年度版「診療料金実態調査及び飼育者意識調査」の中に「爪抜き」とか「抜爪」という項目が見られないことから、少なくとも医療行為とはみなしていないことがわかります。しかし明確に立場を表明しているわけではなく、「最終的にそれを実施するか否かは、飼育者と動物の置かれた立場を十分に勘案して判断しなければならない」(小動物医療の指針・第11項)となっているのが現状です。既得権益と縁が深い団体ですから、「強く反対する」といった立場を表明してこの施術を商売にしている一部の獣医師を邪魔立てすることは無いのかもしれません。
 抜爪術に関する情報提供は本来獣医師が行うべきですが、ネット上では出典も何もない適当な情報を獣医師自身が撒き散らしているようです。デメリットや副作用を含めた基本情報は当サイトでまとめましたので、以下のページをご参照ください。 猫の抜爪術に関する真実