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オキシトシン受容器の個体差が、猫の性格形成に関わっている可能性あり

 愛情ホルモンの異名を持つオキシトシン。このホルモンの体内におけるレセプター(受容器)の個体差が、猫の性格形成にも関わっているかもしれません(2018.1.5/日本)。

詳細

 調査を行ったのは京都大学心理学研究室を中心としたチーム。オキシトシン受容器の形成に関与している遺伝子「OXTR」とその近辺に存在しているマイクロサテライトにターゲットを絞り、普通の雑種猫と純血種との間に一体どのような違いが見られるのかを遺伝子レベルで比較しました。
マイクロサテライト
 「マイクロサテライト」(microsatellite)とは長大なDNAの塩基配列のうち、数塩基が1単位となって複数回繰り返している箇所のこと。縦列型反復配列(short tandem repeat, STR)とも。下の例で言うと「CTT」が8回繰り返しているような部分を指す。 マイクロサテライト  遺伝子にそばにあるマイクロサテライトが遺伝子の転写や翻訳に影響を及ぼしている可能性が示唆されている。特に注目されているのは、DNAからRNAを合成する転写プロセスの開始に関与する「プロモーター」と呼ばれる遺伝子の上流領域に含まれるもの。
 日本国内に暮らしている雑種猫100頭(雄猫54+メス猫46/平均60.95ヶ月齢)と10品種に属する40頭からDNAサンプルを採取し、OXTR遺伝子の上流領域と下流領域に含まれる5つのマイクロサテライトの遺伝子多型性(ポリモーフィズム)を調べたところ、すべてのマイクロサテライトで違いが見られたといいます。具体的には、マイクロサテライト(MS)1~4に関しては雑種の方が長く、MS5に関しては純血種の方が長かったとのこと。
 さらに雑種猫の飼い主にアンケート調査を行い、猫の性格を「開放性」「友好性」「荒っぽさ」「神経質」という4つの切り口で評価していったところ、猫の属性やポリモーフィズムと性格傾向の間に以下のような関連性が見つかりました。
猫の性格と影響因子
  • 開放性若い猫>年配の猫
  • 荒っぽさ手術済みのメス猫>未手術のオス猫
  • 友好性✓オス猫>メス猫
    ✓MS3と4が長い雑種>短い雑種
    ✓MS3が「長/長」もしくは「長/短」>「短/短」(※弱い関連)
    ✓MS4が「長/短」のメス>その他のメス
    ✓MS4が「長/長」のオス猫>その他のオス
 こうした結果から調査チームは、オキシトシン遺伝子「OXTR」およびその近くに存在しているマイクロサテライトの個体差が、オキシトシン受容器形成に何らかの影響を及ぼし、結果として性格特性を変化させている可能性を示しました。特にMS3と4が長い雑種の方が純血種よりも高い友好性を示しましたが、この2箇所のマイクロサテライトが具体的にどのようなメカニズムを通して遺伝子に作用しているかに関してはよくわかっていません。
Microsatellite Polymorphisms Adjacent to the Oxytocin Receptor Gene in Domestic Cats: Association with Personality?
Arahori M, Chijiiwa H, Takagi S, Bucher B, Abe H, Inoue-Murayama M and Fujita K (2017) Microsatellite Polymorphisms Adjacent to the Oxytocin Receptor Gene in Domestic Cats: Association with Personality? Front. Psychol. 8:2165. doi: 10.3389/fpsyg.2017.02165

解説

 過去に行われた調査では、純血種の猫よりも雑種猫の方が「友好性」が高いと報告されています(Takeuchi and Mori, 2009)。今回の調査ではMS5以外のマイクロサテライトに関し、純血種よりも雑種の方が長いことが確認されました。またMS3と4が長い雑種の方が短い雑種よりも友好性が高いことが確認されています。まとめると「純血種よりも雑種の方がMS3と4が長く友好性が高い」となるでしょう。しかしMS3やMS4が本当に遺伝子の発現に影響を及ぼしているのか、それとも単なる見かけ上の関連性なのかはわかっていませんので、早計な一般化は危険です。 オキシトシン受容器遺伝子のマイクロサテライトに関し純血種よりも雑種の方がMS3と4が長く友好性が高い可能性あり  人間を対象とした調査ではOXTRの遺伝子型に性差がある可能性が示唆されています。また猫を対象として行われた調査では、性別、不妊手術の有無、OXTRの遺伝子型と「荒っぽさ」との間に関連性があると報告されています(Arahori et al., 2016)。逸話的に聞かれる「メスよりもオスのほうが温厚」とか「不妊手術をしたら猫の性格が変わった」といった話には、性ホルモンのほかOXTR遺伝子の発現様式やオキシトシンホルモンが関わっているのかもしれません。
 ネコ科動物の中で群れを作るライオン、チーター、そしてイエネコには、オキシトシンに関連した遺伝的な共通素地(OXTRやAVPR1Aなど)があるのではないかと推測しています。この辺の調査は今後の課題です。 猫の性格