フードによる猫のダイエット～摂取カロリーを制限して体重を減らす方法

　肥満猫用に製造されたダイエット専用フードは、三大栄養素＋ビタミン＋ミネラルが、おおむね基準を満たすように調整されており、また満腹感を持続するため適度な繊維も含んでいます。探す際は「減量サポート」や「体重管理」といったキーワードで検索してみて下さい。選ぶ際の共通基準は「この製品はAAFCO（米国飼料検査官協会）の定める基準を満たすことが証明されています」と記載されていることです。この記載があれば、少なくともAAFCOが推奨している必須栄養素の最低量が満たされていることを意味しています。 　飼い主は製品のラベルの栄養バランスを見て自分で選ぶこともできますし、不安な場合は獣医さんに相談することもできます。地域によっては「犬猫の肥満外来」のように専門性の高い肥満治療を行っている動物病院があるかもしれませんのでご確認下さい。
　獣医師からは多くの場合、猫に合ったオススメのフードを療法食という形で紹介してもらいます。「療法食」とは特定の病気などに合わせて栄養バランスが整えられており、獣医師の指示に従って与えることが望ましいフードのことです。「要指示薬」のように処方箋が必要というわけではありませんので、動物病院のほかネット通販などでも簡単に入手することができます。
　自分で選ぶにしても獣医さんのおすすめを選ぶにしても、ドライフードを選ぶ場合はエネルギー密度の推奨値は3.3～3.8kcal／gです。エネルギー密度とは、フード1粒の中にどの程度カロリーが凝縮されているかを意味しています。例えばパッケージのエネルギー量が100g単位で表記されている場合、「330～380kcal」なら「3.3～3.8kcal／g」で妥当な範囲と言えますが、「400kcal」となっていたら「4kcal／g」でややカロリーが高すぎと判断されます。 猫に必要なえさ・食事グッズ

　前述した安静時エネルギー要求量を参考に、ダイエット中の猫の必要カロリー数がわかったら、選んだフードの含有カロリー数で割ってみましょう。それが1日に必要なフードの量ということになります。例えば、体重5kgの猫が4kgを目指してダイエットしている場合の適正カロリー数は「198kcal」です。選んだフードの含有カロリーが3.5kcal/gの場合、198÷3.5＝57gが適正量となります。飼い主が注意すべきは、この適正量をオーバーしないよう厳密な計画に従って給餌することです。エサの量を測る時は、「カップの2/3」といったざっくりした計測ではなく、キッチンスケールなど、1g単位で計量できる計測器を用い、過不足がないよう十分注意します。 　なお、ペットフードのパッケージには、たいてい「給与量の目安」として体重に応じたエサの量が記してあります。ここで注意しなければならないのは、この数字は「理想体重1kg当たりの給餌量」であるという点です。理想体重が5kgの猫と、理想体重が5kgだけれども太りすぎで6kgの猫がいたとします。もし体重1kg当たりの給餌量に合わせてエサを与えてしまうと、太っている方の猫に、本来より20%も余分なエネルギーを与えてしまうことになります。ですから給餌量はあくまでも、理想体重の安静時エネルギー要求量から導き出した厳密なカロリー数をスタートラインにするようにして下さい。

　断食やエサの半減など、極端に食事量を減らしてしまうと、脂肪以外の組織が目減りしてしまいます。また猫では特に脂肪肝の危険性が高まります。ですから摂取カロリーは、理想体重の安静時エネルギー要求量の80%～100%の間に抑えるのが基本です。
　断食や食事量の減少によって体が飢餓状態を感知すると、生命維持に欠かせない脳へのエネルギー供給を保つため、体の中に蓄積されてるエネルギーを使おうとします。具体的には以下です。

• 炭水化物＝筋グリコーゲンと肝グリコーゲン
• 脂質＝脂肪組織のトリアシルグリセロール
• タンパク質＝筋肉のアミノ酸

　絶食状態にある動物を用いた実験によると、足りないエネルギーを確保するため脂肪組織が分解される一方、筋肉もまた分解されていることがわかります（下グラフ）。特に最初の1週間においては、脂肪よりもタンパク質の減少量の方が多いくらいです。脂肪組織を維持するのにエネルギーは必要ありませんが、脂肪以外の組織を維持するには一定のエネルギーを要します。つまり脂肪以外の組織が減ってしまうと、エネルギー消費率が低下し、太りやすい体質になってしまうのです。 小動物の臨床栄養学（4版, P411）より 　脂肪以外の組織が減ったところにエネルギーが供給されると、そのエネルギーは来たるべき飢餓に備えて脂肪細胞に蓄積されていきます。これが人間界でもおなじみの「リバウンド」です。
　食事量を急激に減らしてしまうと脳が飢餓状態を感知し体組織の分解を促進します。その結果、脂肪以外の組織の減少と、それに伴うリバウンドの危険性を高めてしまうため、ダイエットにおいては禁忌です。

　ダイエット中のペットの栄養を手作りフードでまかなうことも不可能ではありません。しかし多くの場合非常に困難です。
　まず栄養学に関する広範な知識が必要ですし、何より毎日食事を作り続けるモチベーションも必要になってきます。アメリカの獣医師116人を対象にした調査によると、手作りフードを処方した獣医師のうち、犬や猫の栄養要求を満たしていたものは、わずか10%しかなかったと言います（1992, P.Cowell）。獣医師にすら難しいことを、素人が行うのは容易でない事がお分かりいただけるでしょう。
　手作りフードによるダイエットは、知識とやる気が有り余っている人以外は安易に踏み出さないほうが無難です。なお猫に必要なビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸のリストは以下です。本気で自家製フードを作ろうとするなら、これらがすべて不足しないよう、食品成分表などを参考にしながら細かく計算しなければなりません。猫では特にアルギニン、リジン、メチオニン、トリプトファン、タウリン、鉄、カルシウム、亜鉛、ビタミンA 、ビタミンB群が欠乏する危険性があります。 猫に必要なビタミン一覧 猫に必要なミネラル一覧 猫に必要なアミノ酸・脂肪酸一覧

　摂取カロリーを減らすのなら、単純に食事量を減らせばいいじゃないか、と考えるのは当然のことです。しかしフードの量だけを減らすという方法には大きな落とし穴があります。
　ダイエット用では無い通常のペットフードを餌として与えている場合、フードの量を減らしてしまうと、摂取カロリーが減ると同時に、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルのバランスが崩れてしまうことがあります。その結果、ダイエットでペットを健康にしようとしたら、逆に不健康になってしまった、というおかしな状況が生まれかねません。例えば以下は各種栄養素が不足したときに起こる体調不良の一覧です。

• 炭水化物不足体タンパク質の減少、低血糖
• タンパク質の不足成長不良、食欲不振、貧血、不妊、脱毛、けづやの悪化、被毛の貧弱化、筋肉の萎縮
• 脂質の不足脂溶性ビタミンの吸収阻害、自然治癒力の低下、皮膚の乾燥、膿皮症、脱毛、むくみ、湿潤性皮膚炎、繁殖能力の低下
• ビタミンの不足猫に必要なビタミン一覧の中の「欠乏症」を参照
• ミネラルの不足猫に必要なミネラル一覧の中の「欠乏症」を参照

　ダイエット用に作られたペットフードは、食事の中からカロリーだけを減らし、その他の重要な栄養素は適量摂取できるように調整されています。ペットの栄養要求を理解し、細かく計算しながらフードの量を調整するのが面倒な場合は、ダイエット用フードを用いたほうが無難でしょう。

　ダイエット中の猫に一気食いやドカ食いをさせるのはNGです。食べたものを消化吸収するにもエネルギーが使われており、これを「食餌性熱効果」（TEF）といいます。この「食餌性熱効果」は、一度に大量の食物を摂取した時よりも、少量を小分けにして摂取した時の方が大きくなるといわれています。ですから食事は最低でも3回に分けて与えるのがよいでしょう。迷路タイプのトレー（スローフィーダー, パズルフィーダー）と併用すれば早食い防止にもなり、一層効果が高まります。詳しくは猫の食生活へのパズルフィーダー導入ガイドラインでも解説してありますのでご確認下さい。

　運動の直前に餌を与えると、血中グルコースを細胞内に取り込むインスリンの血中濃度が高まります。インスリンは脂肪組織からの遊離脂肪酸を減少させる働きがありますので、結果として脂肪細胞の利用効率が下がってしまいます。つまり、やせにくくなるということです。猫にエサを与えるタイミングは、少なくとも運動の4時間以上前に設定するのが無難でしょう。猫と上手に遊ぶ方法でも解説した通り、猫の遊びに対する欲求は、やや空腹の時に高まります。遊びの直前にエサを与えてしまうと、遊びへの欲求が低下して運動量が減るだけでなく、体内における脂肪の消費も減ってしまいますので、二重に太りやすくなってしまうのです。

　三大栄養素の中でも特にタンパク質は、摂取量の過不足によって健康に多大なる影響を及ぼします。
　「炭水化物」、「タンパク質」、「脂質」という三大栄養素の大きな特徴は、脂質やタンパク質から炭水化物（ブドウ糖）は作られるけれども、脂質や炭水化物からタンパク質は生成されないという点です。つまり、タンパク質から構成される組織を維持するためには、常に外部からタンパク質を摂取する必要があるということです。
　猫の食事に含まれるタンパク質の許容範囲は、乾燥重量中14～45%で、推奨範囲が26～30%です。また肥満傾向にある猫では30～45%とやや高めに設定されています。タンパク質は摂取量が多すぎても少なすぎても健康に対して影響を及ぼしますので、摂取する割合は上記許容範囲内に抑えるのが鉄則です。

　猫を放し飼いにしてしまうと、外で食べているものを飼い主が把握できなくなり多くの場合ダイエットは失敗に終わります。
　外で猫が口にするものには自分で捕獲した昆虫（バッタやトンボなど）、無脊椎動物（ミミズやナメクジなど）、小動物（ネズミなど）のほか、見知らぬ第三者による給餌や置き餌などがあります。猫の放し飼いは無節操な「外食」だけでなく交通事故や感染症の危険性も高める行為です。猫がダイエット中であるかどうかにかかわらず完全室内飼いに切り替えることが望まれます。 次は→運動による猫のダイエット