トップ猫の心を知る猫の習性猫の集会を開く

猫の集会を開く

 猫の習性の一つである猫の集会を開くという点について解説します。
 公園の片隅や駐車場などで、猫たちが集合している姿をたまに見かけますが、猫はなぜこのような行動を取るのでしょうか?

猫の集会とは?

 猫の集会とは、どこからともなく現れた猫が1ヶ所に集まり、何をするでもなくのんびりと時間を過ごす現象のことです。非常にありふれた光景ですが、その理由についてはよくわかっていません。 猫が夜な夜な開く集会の明確な理由は、実はよくわかっていない  猫の集会は、「猫の帝王」の異名を持つドイツの動物学者パウル・ライハウゼンが、今から40年以上前の1973年の時点ですでに報告しているものです。彼は以下のような特徴を観察しています。
猫の集会(ライハウゼン版)
  • オス猫もメス猫もいる
  • お互いの距離は1.8m~4.5m
  • たまに舐めたりグルーミングしたりする
  • 基本的にはただ座っている
  • 敵対的な行動をほとんど見られない
  • 時に一晩中続くこともある
  • 真夜中過ぎに自分たちのテリトリーへ帰っていく
 こうした数々の特徴は観察されたものの、帝王の力をもってしても、その明確な理由までは解明できなかったようです。 FREE-RANGING CATS(Wiley Blackwell)
 一方、イギリスの動物行動学者デズモンド・モリスはその著書「キャットウォッチング」の中で猫の集会について言及しています。彼は猫が住んでいない中立地帯を「社交クラブ」と表現し、そこに集まる市街地の猫たちは、人間に飼い慣らされて単独性が弱まった個体群ではないかと推測しています。また人間の居住地の間隙を縫って暮らしているため個々のテリトリーが狭くなり、結果として居心地が良いと思える猫にとっての「公園」が、たまたま重なってしまったのではないかとも。 キャットウォッチング1(平凡社)
 日本においても猫の集会に関する報告があります。1990年代初頭、九州北部の玄界灘に浮かぶ相島(あいのしま)という小さな島において野良猫の生態観察を行った動物学者・山根明弘氏は、ご多分に漏れず猫の集会に遭遇しました。同氏が観察した結果は以下です。
猫の集会(山根版)
  • 島の海岸のコンクリートで覆われた少し広い場所
  • 春から秋にかけてが多かった
  • 無風状態の静かな夜が好まれた
  • 猫の数は10~20匹
  • 猫同士の距離は50cm~1m
  • 何時間もそのままで交流することはない
  • 三々五々帰っていく
 このように、ドイツのライハウゼンと非常によく似た傾向が観察されています。おそらく集会は、世界中の猫に共通してみられる習性なのでしょう。一方その理由について山根氏は、「猫たちがあまりにも動かないので、よく分からない」と率直に告白しています。 ねこの秘密(文春新書)

猫が集会を開く理由

 さまざまな動物学者たちが世界各地で猫の集会を目撃しているものの、その理由についてはいまだによくわかっていないようです。主なものをまとめると以下のようになります。
猫の集会の意味
  • オス猫とメス猫のお見合い
  • 猫同士の情報交換
  • 新参猫の顔見せ
  • 近くにエサ場がある
  • 序列の確認
 上記以外にも、断片的な情報から考えると、人間で言う団体ツアーで海外旅行に行く心理に近いのではないかという仮説が浮上してきます。 猫の集会と人間の団体旅行は似ている  猫の集会は、「夏から秋にかけて多い」、「ほとんどが夕方以降」、「開けた場所で開かれる」といった事実から、集会には「風通しの良い場所で夕涼みをする」という意味合いがあるように思われます。また季節的に、「蚊や害虫の多い場所から遠ざかりたい」という単純な意図があるのかもしれません。
 一方、猫は開けた場所があまり好きではないようです。例えば1981年、Panamanらがイギリスで農場猫の行動を昼夜に渡って観察したところ、活動の中心域から遠出する際は、長く生い茂った草の間や茂みの中、および建物の上などを積極的に活用し、開けた場所を避ける傾向があったと言います。また2007年、Brickner-Braunがイスラエルの集落で猫の観察を行ったところ、砂漠地帯を横切る時は、木の陰や茂みを利用したとも。こうした事実から考えると、猫は外敵の目につきやすい開けた空間を本能的に避ける傾向があるようです。
 「開けた場所で夕涼みをしたい」という欲求と、「開けた場所を避けたい」という欲求が葛藤している場合、猫はどうするでしょうか?その答えの一つが「猫の集会」であるように思われます。猫同士が集まって徒党を組めば、単独でいるときよりも外敵に対する不安が軽減されます。また同時に、「虫が少ない場所で夕涼みをする」という本来の欲求も満たすことができます。これはちょうど、「一人では不安だけど、ツアーなら海外旅行に行きたい」という人間の心理に近いと言えるでしょう。他人同士なのでベタベタはしないものの、互いの存在が微妙な安心感につながっているという関係性です。
 上記した仮説を裏付けるかのように、2017年に日本のチームが福島の三春シェルターに収容された猫を対象として行った調査では、「個別に収容されている猫よりもグループで収容されている猫のほうがストレスレベルが低い」と報告されています。またイギリスにあるハートプリー大学のチームが行った調査でも、やはりグループ収容されている猫のストレスが低くなる可能性が示唆されました(→詳細)。こうした研究報告を踏まえて考えると、猫たちが集会を開く理由はやはり「何となく落ち着くから」ということなのかもしれませんね。
 猫が何のために集会を開くのかは今のところ完全には解明されていませんが、基本的に徒党を組むことがないオス猫が1ヶ所に集まるのですから、何かよほどの理由があるに違いありません。ただ確実に言えるのは、ミュージカル「キャッツ」のように、「天上おいて新たな生を与えられる猫を選ぶ」という崇高な目的はないだろうということです。
ミュージカル「キャッツ」
ミュージカル「キャッツ」 ミュージカル「キャッツ」(CATS)は1981年、イギリスの文学者T.S.エリオットの詩集にアンドリュー・ロイド=ウェバーが曲をつけて製作されたミュージカルです。内容は、都会のごみ捨て場に集まった猫たちが次々にステージに登場し、自分の身の上を歌と踊りに乗せて披露するというもので、これも一種の「猫の集会」と言えるでしょう。実際の集会は、ミュージカルというよりはむしろお通夜のようにしんみりと進行しますが…。