トップ猫の心を知る猫の習性エサをくわえて移動する

エサをくわえて移動する

 猫の習性の一つであるエサをくわえて移動するという点について解説します。
 野良猫は一口では食べられないような大きな獲物をくわえて移動することがあります。また家で飼われているペットの猫は、捕まえたネズミのおもちゃをくわえたままどこかに行こうとします。猫はなぜこのような行動を取るのでしょうか?

猫の行動・その理由は?

 猫は、一口では食べきれない大きさのエサを与えられた場合、それをくわえて人目につかない場所に移動することがあります。こうした行動の背景には、自分専用のダイニングルームで安心したいという心理が働いているものと考えられます。 猫は大き目の獲物やおもちゃをくわえて移動したがる  猫の食欲は周囲の環境から受けるストレスによって大きく影響されるようです。1974年、3匹の猫を4年間にわたって観察した調査によると、猫は仕留めた獲物をその場で食べたり放置するのではなく、必ずなじみのデリバリーエリアまで運んだとしています(W.G.George, 1974)。これは、獲物を横取りしそうなカラスや他の猫などを避けるための行動なのかもしれません。また1985年に行われた実験では、見慣れない環境とよく知った環境の中に猫を置き、全く同じ餌に対するリアクションを調べたところ、よく知った環境においては食餌量が増えたといいます(Boudreau, 1985)。さらに1995年に行われた実験では、実験室での環境と家庭での環境とで、猫の食欲が変化したとも(Griffin, 1995)。
 こうした断片的な情報をつなぎ合わせると、獲物を捕らえた猫は、ストレスを感じない自分専用のダイニングルームにとりあえず行きたがるという習性が見えてきます。飼い主が猫と遊んでいる最中、ネズミのおもちゃをくわえたままどこかへ持ち去ろうとする行動を目にすることがありますが、これも恐らく「人目につかない場所で思う存分ガジガジしたい!」という衝動の現れなのでしょう。

猫の胃袋との関係

 猫が獲物をくわえたまま移動したがることには、胃袋の大きさが関係している可能性があります。犬の胃袋の大きさは体重1kg当たりおよそ90mlと推定されているのに対し、猫の胃袋は、以下に示すようにかなり小さくできているようです。 プライマリケアのための診療指針(学窓社)
猫の胃の容量
  • 体重が0.5~1.0kgの場合100ml/kg
  • 体重が1.0~1.5kgの場合70ml/kg
  • 体重が1.5~4.0kgの場合60ml/kg
  • 体重が4.0~6.0kgの場合45ml/kg
 例えば体重6kgの犬と猫を比較した場合、胃袋の大きさは「犬=540ml:猫=270ml」と、ちょうど2倍の開きが生じてしまいます。体重が4~6kgの平均的な猫の場合、吐き戻さずに食べられる容積は、せいぜいマックス値より少し下の「150~250ml」程度でしょう。同じ体重の犬と猫における胃袋の容積比較  このように猫は、犬と比べるとかなり小さ目の胃袋しか持っていないようです。では幸運にも、一気に食べきれないくらいの大きな獲物をゲットできた場合、猫はどうするでしょうか?ある者は、余った部分をその場に埋めて隠すかもしれません。またある者は、とりあえず自分専用のダイニングルームに運び、次に空腹になるまでそこに保存するかもしれません。前者はペット猫でよく見られる「砂かけ」行動として、そして後者は「デリバリー」という行動として観察されると考えられます。
 つまり、エサをくわえて持ち運ぶというデリバリー行動は、小さな胃袋しか持っていない猫の「もったいない精神」から生まれている可能性があるというわけです。