トップ猫の文化猫の浮世絵美術館歌川国芳展山海愛度図会

山海愛度図会

 江戸時代に活躍した浮世絵師・歌川国芳の残した猫の登場する作品のうち、山海愛度図会について写真付きで解説します。

作品の基本情報

  • 作品名山海愛度図会
  • 制作年代1852年(江戸・嘉永5)
  • 落款一勇斎国芳画
  • 板元蔦谷吉蔵・他
山海愛度図会のサムネイル写真

作品解説

 「山海愛度図会」(さんかいめでたいずえ)は、タイトルを全て「~たい」という語尾で統一し、浮世絵を通じて全国の名産品を紹介する全62枚のシリーズものです。表記としては「山海愛度図会」のほか「山海愛たいづゑ」(おもたい)・「山海めで度図会」(早く着てみたい/つづきが見たい)・「さん海愛度図会」(あとが聞たい)・「さんかい愛度図会」(これが着たい)などまちまちですが、全て同一シリーズです。ちなみにこのシリーズは国立国会図書館デジタル化資料において確認することができます。
 さて、「山海愛度図会」シリーズの中で猫が登場するものが3枚あります。七の「ヲゝいたい」、十九の「はやくきめたい」、そして三十八の「えりをぬきたい」がそれです。各作品の詳細は以下。
七の「ヲゝいたい」 ヲゝいたい  猫に抱きつかれたうら若き女性が「おお痛い!」と叫んでいます。よくみると、女性に飛びついた猫の爪が飛び出していますので、とがった爪の先が着物を貫通したのかもしれません。あるいは愛情表現として女性の顔に額をこすりつけようとして、思わず頭突きをしてしまったのでしょうか?
 背景に描かれている名産品は「越中滑川大蛸」(えっちゅうなめりかわおおだこ)で、現在の富山県滑川市に相当しますが、今はホタルイカが名産となっています。なお、国立国会図書館デジタル化資料ではタイトルが「きいたい」となっていますが、「ヲゝいたい」の方が広く知られているのでこちらを採用しました。
十九の「はやくきめたい」 はやくきめたい  女性が見ているのは占い札で、表には漢詩で「財鹿須乗箭」(ざいろくすべからくせんにじょうず)、「胡僧引路帰」(こそうみちをひいてかえる)と記されています。これは「狙った獲物を手に入れ、幸せである」という意味になるとか。また後ろには前足を器用に折りたたんで香箱座り(こうばこずわり)をしている猫が描かれています。香箱とは当時の女性の嫁入り道具でした。こうした細かな伏線が、タイトルの「はやくきめたい」(運命の人を早く決めたい!)にうまくつながっています。ちなみにモデルの女性は国芳の娘だそうです。
 背景の名産は「播州高砂蛸」(ばんしゅうたかさごだこ)で、現在の兵庫県高砂市に相当します。
三十八の「えりをぬきたい」 えりをぬきたい  鏡を見ながら女性がおめかししています。「襟を抜く」とは、着付けをする際、首の後ろをこぶしひとつ分くらいあけることですので、これから着物を着てデートにでも出かけるのでしょうか。よくみるとちょっと半笑いですね。鏡の後ろでは女性のペットと思われる茶とまだら、二匹の猫がじゃれあっています。
 背景の名産品は「遠江須之股川※」(※は右図参照)で、現在の静岡県あたりに相当します。ちなみに右に示した漢字は絵の中で実際に用いられていますが、現在は存在していません。想像の域を出ませんが「鰻」(うなぎ)か「鯉」(こい)のどちらかではないかと考えられます。