トップ猫の文化猫の浮世絵美術館歌川国芳展鼠よけの猫

鼠よけの猫

 江戸時代に活躍した浮世絵師・歌川国芳の残した猫の登場する作品のうち、鼠よけの猫について写真付きで解説します。

作品の基本情報

  • 作品名鼠よけの猫
  • 制作年代1841年(江戸・天保12)
  • 落款一勇斎国芳画
  • 板元川口屋宇兵衛
鼠よけの猫のサムネイル写真

作品解説

 「鼠よけの猫」(ねずみよけのねこ)は、家からネズミを追い出すためのお守り的な意味を持つ作品です。江戸時代にはネズミをペットとして飼うことが一部で流行し、「養鼠玉のかけはし」(国立国会図書館・江戸時代の博物誌より)などネズミの飼い方を指南(しなん)するハウツー本まであったようです。
ネズミの飼育ハウツー本
江戸時代にあったネズミの飼育ハウツー本「養鼠玉のかけはし」
 しかしペットとして飼われるネズミがいる一方、蓄えてある米や穀物を食い荒らす害獣(がいじゅう)としてのネズミも当然いたわけで、こうしたネズミを追い払うための一種のまじないとして、「鼠よけの猫」を家に貼る人がいました。「鼠よけの猫」の絵はそもそも富山の薬売りがお得意さんへのおまけとして配る「売薬版画」(ばいやくはんが,富山絵ともいう)の一種として流行したものです。
江戸後期の売薬版画
江戸後期の売薬版画「鼠よけの猫」  ただ、江戸後期に流行したこの版画は、主として富山の版元によって富山内で摺られていたものですから、江戸で作成された国芳の当作品は、単なる薬のおまけとして富山で作られたわけではないようです。作品上部の文章は 此図は猫の絵に妙を得し一勇斎の写真の図にして
これを家内に張おく時には鼠もこれをみれば
おのずとおそれをなし次第にすくなくなりて出る事なし
たとへ出るともいたずらをけっしてせず誠に妙なる図なり
福川堂記
とあります。「これは猫の絵に関しては他の追随を許さない国芳の絵だ。これを家の中に張っておけば鼠も出てくることはない。たとえ出てきたとしても、妙ないたずらをすることはない。とても秀逸な絵だ。」と語っています。「福川堂」とは、実は版元である川口屋宇兵衛のことで、彼が国芳にこれを描かせたことがうかがえます。