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猫は自分の名前を理解できる?~母音と子音をちゃんと聞き取れている可能性が高い

 猫の名前を呼ぶと振り向いたりしっぽを振ったりします。しかし実際の所、猫はどのくらい正確に自分の名前を聞き分けることができるのでしょうか?ユニークな検証実験が行われました。

猫には自分の名前がわかる?

 猫が自分の名前を認識しているという事実はすべての飼い主が日常生活の中で直感的に理解していることです。しかしこの事実を実験的に証明することはそれほど簡単ではありません。 猫は名前に反応しているのか音に反応しているのか?  例えば部屋の中で猫の名前を呼んで振り向いたとしましょう。猫が自分の名前を理解した上で反応したと考えることもできますが、ただ単に音の発生源に注意を向けただけかもしれません。あるいは飼い主の声に反応したのであり、飼い主以外の声だったら名前を呼んでも反応しなかった可能性もあります。
 猫の反応が「音源」や「飼い主の声」ではなく、「名前」という音素に反応していることを証明するには特殊な検証法を用いなければなりません。

実験・猫の名前認識力

 調査を行ったのは上智大学・総合人間科学部のチーム。「馴化・脱馴化法」と呼ばれるパラダイムを用いて、猫がちゃんと自分の名前を理解しているのかどうかを実験的に検証しました。具体的な手順と方法は以下です。

馴化・脱馴化法とは?

 「馴化・脱馴化法(じゅんかだつじゅんかほう)とは、似通った2つの刺激を判別できるかどうかを客観的に判断する時に用いられる実験方法。
✓まずある特定の刺激Aを被験者に繰り返し与える

✓慣れ(馴化)が生じて少しずつリアクションが薄くなっていく

✓馴化が生じたタイミングで刺激Aによく似た刺激Bを与えてみる

✓リアクションが薄いままだったら刺激AとBを判別できていない証拠。リアクションが強まったら刺激AとBを判別できている証拠。
 なお猫の「反応」としては「耳を向ける」「顔を向ける(振り向く)」「声を発する(鳴く)」「しっぽを振る」という指標が採用されました。刺激に対してこれらの反応が見られなくなった場合は「馴化」が生じたという意味です。

実験1

【被験猫】
オス8頭+メス8頭 | 平均年齢3.69歳 | 11の家庭で飼われているペット猫
【実験手順】
猫の名前と長さやアクセントが非常に似た一般名詞4つを馴化刺激に用いる。例えば猫の名前が「たま」なら「あさ」「かま」「さら」「なた」など。飼い主の声で録音した4つの単語を15秒間隔で聞かせた後で猫の名前を聞かせ、反応を観察する。
【実験結果】
16頭中11頭(68.8%)で馴化が見られた。自分の名前を聞いた時に強い反応を示したのはこの11頭中9頭(81.8%)だった。

実験2

【被験猫】
オス16頭+メス18頭 | 平均年齢5.51歳 | 5頭以上の多頭飼い環境で、10頭は猫カフェの猫スタッフ
【実験手順】
同居している猫の名前を馴化刺激に用いる。飼い主もしくは猫カフェの店主の声で録音した4つの名前を15秒間隔で聞かせた後で猫の名前を聞かせ、反応を観察する。
【実験結果】
34頭中15頭(44.1%)で馴化が見られた。一般家庭の猫では25%(6/24頭)、猫カフェの猫では90%(9/10頭)と馴化率には統計的に有意な格差が見られた。 一般家庭の6頭に関しては全頭(100%)が自分の名前に対し強く反応した。一方、猫カフェの9頭に関しては3頭(33.3%)だけにとどまった。

実験3

【被験猫】
オス16頭+メス13頭 | 平均年齢6.48歳 | 5頭以上の多頭飼い環境で、9頭は猫カフェの猫スタッフ
【実験手順】
多頭飼育環境と猫カフェ環境における反応の違いを検証する。
【実験結果】
多頭飼育家庭の猫では20頭中14頭(70%)で馴化が見られた。猫カフェの猫では9頭中7頭(77.8%)で馴化が見られた。馴化が見られた上記21頭中、自分の名前に対する強い反応が見られたのは13頭(61.9%)だった。

実験4

【被験猫】
オス14頭+メス19頭 | 平均年齢6.48歳 | 単頭飼い~6頭の多頭飼い環境
【実験手順】
基本的には実験1と同じ手順。ただ一般名詞と猫の名前の発声者を飼い主以外の第三者にする。
【実験結果】
33頭中20頭(60.6%)で馴化が見られた。20頭中13頭(65%)が自分の名前に対して強く反応した。

まとめ

 実験1~3の結果から、自分の名前と非常に似た単語を聞き分けることができる可能性が示されました。また実験4の結果から、自分の名前が飼い主以外の声で発声されても聞き分けることができる可能性が示されました。
 「猫の名前を呼んだら振り返った」という現象は、声の発生源に反応しただけかもしれませんし、飼い主の声に反応しただけかもしれません。しかし今回の実験結果から類推すると、母音と子音から構成される自分の名前という音響的な刺激を聞き分けたと言っても言い過ぎではないことが判明しました。
Domestic cats (Felis catus) discriminate their names from other words
Atsuko Saito, Kazutaka Shinozuka, Yuki Ito, Toshikazu Hasegawa, Scientific Reports volume 9, Article number: 5394 (2019)

猫との生活にどう活かす?

 多頭飼育家庭の猫と猫カフェの猫を比較したところ、猫カフェの猫においては他の猫の名前と自分の名前を聞き分けることがあまり得意ではないことが判明しました。その理由として考えられているのは、名前と賞罰のリンク不足です。
 例えば猫カフェにおいて「レオ!」と名前を呼ぶと、全く無関係な「コテツ」が寄ってくることがあります。大抵のお客さんはそのまま撫でてかわいがってあげるでしょう。「レオ」の立場からすると「なんとなく名前が呼ばれた気がするけれども自分のことではないのか…」と認識し、名前とご褒美とのリンクが崩れてしまいます。
 こうした経験を繰り返していくと、 自分の名前が呼ばれても反応しなかったり、逆に他の猫の名前が呼ばれたときに反応してご褒美をもらうといった混乱が生じてきます。その結果が、多頭飼育家庭の猫との間で見られた名前聞き取り能力の違いです。 猫が名前に反応しなくなるのは賞罰とのリンク崩れが原因  ここから引き出せる教訓は「名前の後には必ずご褒美を与える」というセオリーです。名前を呼んでもご褒美を与えなかったり、名前を呼んだ後に叱るといった間違いを犯すと、名前に対する反応が悪くなったり、そもそも名前に反応してくれなくなります。
 自然災害などで家が崩壊し、万が一猫が迷子になってしまった場合、名前に反応してくれるかどうかが発見の生命線になります。日頃から名前とご褒美とのリンクを強化し、飼い主の呼びかけには高い確率で反応してくれる状態を作っておきましょう。
 なお今回の調査では、実験に加わった猫の半数以上が耳や頭を向けた一方、声を出して返事をしたり尻尾を動かすことで反応した猫の割合は一割にも届きませんでした。猫の名前を呼んだ時、耳だけこちらに向けて無視されることが多々ありますが、少なくとも名前は認識しているので良しとしましょう。 猫に名前を覚えさせる