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猫の喉頭麻痺~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の喉頭麻痺(こうとうまひ)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の喉頭麻痺の病態と症状

 猫の喉頭麻痺とは喉に分布している反回(はんかい)神経に異常が生じて筋肉が正しく動かなくなり、発声や呼吸がスムーズにできなくなった状態のことです。声門が常に閉じた状態になりますので、息を吸おうと思っても空気がなかなか肺にまで届きません。 喉頭麻痺を起こした猫の声門~輪状披裂筋の麻痺により披裂軟骨の外転不全が生じ声門が閉鎖したまま固定される  エックス線画像では肺の過膨張、喉頭の尾側偏位、咽頭・喉頭・食道・胃内部の空気を確認できることもありますが、画像だけで確定することは困難です。多くの場合、嚥下困難(食べ物や水を飲み込めない)や神経症状は伴わず、血液生化学検査値に異常は見られないとされていますので、以下のような臨床症状と合わせて診断を下します出典資料:White, 1994)
喉頭麻痺の症状(猫)
  • 発声異常(声が変)
  • 喉を鳴らせない
  • 呼吸が速い
  • 呼吸困難(口を開けて息をする)
  • 吸気性喘鳴(吸うときにゼーゼー)
  • 運動不耐性(すぐバテる)
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 元気喪失
 喉頭に分布している反回神経は左右にありますので、どちらか一方の神経だけが障害を受けた場合は「片側性」、両方の神経が同時に障害を受けた場合は「両側性」の喉頭麻痺と呼ばれます。
 人間、犬、ウマにおいては左側だけが障害を受けるケースが多いようです。理由としては右よりも左側の反回神経の方が長く、含まれる神経線維の数が少ないからだと推測されています。猫における正確な統計はありませんが1990年から1999年の期間、カリフォルニア大学デイヴィス校で治療を施した16症例のうち、片側性の喉頭麻痺が4症例あり、その全てが左側だったといいます出典資料:Schachter, 2000)。ですから猫においても左側が障害を受けやすい傾向にあるのかもしれません。
 以下でご紹介するのは喉頭麻痺を発症した猫の呼吸音を捉えた動画です。息を吸い込むときに声門が閉じたまま空気の流れを邪魔しますのでゼーゼーと苦しそうな音が出ています。これが吸気性喘鳴(stridor)です。 元動画は→こちら

猫の喉頭麻痺の原因

 猫の喉頭麻痺の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の喉頭麻痺の主な原因
  • 先天性生まれつき喉の神経(反回神経)や筋肉(輪状披裂筋)に異常があり、披裂軟骨をうまく動かせない状態のことです。生後まもない頃から「声を出せない」「声がおかしい」「喉をゴロゴロ鳴らせない」といった症状を呈するようになります。
  • 外傷性首元に対する機械的なストレスにより反回神経もしくは筋肉がダメージを受けて発症するパターンです。一例としては猫同士の喧嘩や犬との喧嘩で首筋を噛まれる、首輪がどこかに引っかかって首吊り状態になる、交通事故に遭うなどが考えられます。
  • 腫瘤性反回神経の近くに何らかの腫瘍が形成され、神経を圧迫することで電気信号の流れを遮断して発症するパターンです。甲状腺腫や胸部に発生した良性悪性の腫瘤などが考えられます。
  • 医原性何らかの治療行為が原因で偶発的に神経や筋肉を傷つけてしまい発症するパターンです。実例では動脈管開存手術や甲状腺腫の切除術でうっかり神経を傷つけてしまい麻痺を発症したというパターンが報告されています出典資料:White, 1994)
  • ダニ麻痺性オーストラリアの一部には強い神経毒を持ったダニが生息しており、噛まれた動物はダニ麻痺と呼ばれる状態に陥ります。例えばシドニー大学の調査チームが喉頭麻痺の猫29頭を調べたところ、4頭ではダニ麻痺が原因だったと報告しています出典資料:Beatty, 2012)
  • 特発性特発性とは様々な検査をしたにも関わらず明白な原因が見当たらない時に与えられる名称で、平たく言うと「よくわからない」という意味です。人間の喉頭麻痺患者の30%、犬の90%は特発性といった報告もあります出典資料:Schachter, 2000)
 1996年から2006年の期間中、イギリス・ブリストル大学附属の猫疾病センターに集積された喉頭疾患を後ろ向きに調べたところ、全部で35症例が見つかり、喉頭麻痺(14例, 40%)>悪性腫瘍(10例, 28.6%)>炎症性疾患(6例,17.1%)>その他(5例,14.3%)という順で多かったといいます出典資料:Taylor, 2009)。またオーストラリア・シドニー大学の調査チームが2001年1月から2010年7月の期間、救急動物病院の専門医4名が扱かった合計69の喉頭疾患を分類したところ、喉頭麻痺(29症例, 42%)>悪性腫瘍(24症例, 34.8%)>炎症(14症例, 20.3%)>その他(2症例, 2.9%)の順で多かったと報告されています出典資料:Beatty, 2012)
 猫における喉頭麻痺自体はまれな疾患ですが、喉頭に発生する疾患の中では高い割合を占めているようです。

猫の喉頭麻痺の治療

 猫の喉頭麻痺の治療法としては、主に以下のようなものがあります。喉頭麻痺を引き起こしている原因を正確に突き止めることが、治療の成功につながります。
猫の喉頭麻痺の主な治療法
  • 保存療法・経過観察麻痺が片側性で症状が軽い場合は運動制限などの経過観察が取られます。神経が圧迫ストレスを受けても神経内膜が保存されている限り、神経線維が自発的に再生して機能が改善してくれる可能性が示されています出典資料:Lith-Bijl, 1996)
  • 外科手術麻痺が両側性で声門が閉じたまま開こうとせず、著しい呼吸困難が見られるような場合は外科手術によって積極的な治療を行います。部分的な喉頭切開と声帯の除去、披裂軟骨切除術、喉頭形成術、披裂軟骨側方化術(タイバック)などさまざまな手法があります。術後のよくある副作用はえづき、絶食、誤嚥、狭窄、声変わり、声の喪失、手術部位の離開、一時的なホルネル症候群などです出典資料:Schachter, 2000)
口を開けるけれども声は出ない「サイレントニャオ」は可愛いですが、ずっと声が出ないのは異常です。その他「口を開けてゼーゼーしている」「声がおかしい」「ゴロゴロと喉を鳴らさなくなった」などの変化にはいち早く気づいてあげましょう。