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猫マッサージの基礎知識~やっていいことと悪いことを理解しよう!

 猫に対してマッサージを施す前に知っておかなければならない基礎知識です。知らないと猫が不健康になったり、飼い主が嫌われてしまうこともありますので事前にしっかりと「ツボ」を抑えておきましょう!

猫マッサージの効果

 マッサージは、動物と人間両方に対して、様々な効果を発揮します。以下でご紹介するのはその一例です。

仲間意識を強める

 マッサージには、人間と猫の仲間意識を強めるという意味があります。
猫同士が行うアログルーミングは、仲良しの証拠  2001年にWolfeが行った調査によると、猫が舌を使ってお互いに舐め合う「アログルーミング」は、仲の良い個体と行う傾向にあり、グルーミングされている方の猫は、している方の猫が動きやすいよう、首や頭の位置を微妙に調整してあげると言います。人間が手を用いて猫を撫でてあげることと、猫が舌を使ってグルーミングしてあげることは、ほとんど同じ意味です。ですから、マッサージを受けている猫は人間の事を仲間として認識し、その結果、人間と動物の絆である「ヒューマンアニマルボンド」(Human Animal Bond)が強まるという効果が期待できます。

身体の異常をいち早く見つける

 マッサージには、病気を早期発見するという重要な役割があります。
 体の表面は、炎症、腫れ、しこりなど、病気の初期症状が現れやすい部位です。猫の体を定期的にマッサージしてあげることは、病気をいち早く発見し、悪化しないうちに治療を施すことにつながります。

血流を促進する

 マッサージには全身を巡る血流を促進するという効果があります。
 体の表面を軽くなでることで静脈血の流れが促され、また体の深部を押すことで動脈血の流れが促されます。その結果、体の隅々に対する酸素の運搬がスムーズになり、逆に、細胞で発生した老廃物が手際よく体外に排出されるようになります。このようにマッサージには、猫の血流を促し、新陳代謝を活発にするという効果があるのです。

猫のストレスを緩和する

 マッサージには、脳内のオピオイドシステムを活性化しストレスを緩和するという効果が期待できます。
好きに人に触られると、オピオイドシステムが活性化し、エンドルフィンの放出が促される  オピオイドシステムとは、脳内麻薬の一種である「エンドルフィン」の分泌を促進する仕組みのことです。人間を始めとする多くの動物では、好きな人と一緒にいたり、好きな人に触られたりするとき、このオピオイドシステムが活性化し、エンドルフィンが分泌されることが確認されています。つまり適切なマッサージを施せば、上記オピオイドシステムを介して猫の体内でエンドルフィンが分泌され、ストレス緩和につながってくれるというわけです。

飼い主自身がリラックスする

 マッサージには、飼い主をリラックスさせる効果があります。
 1988年にジュリア.K.ヴォーンブロックらが行った実験では、犬をなでているときに被験者の血圧が低下することが確認されています。またエリカ・フリードマンらが行った実験では、動物に話しかけることには、血圧を下げ、ストレスを軽減する効果があることが判明しています。このように人間は、動物と触れ合っているだけで、様々な癒し効果を享受できるのです。猫にマッサージを施すことで、飼い主は「アニマルセラピー」に近い効果を自然と得ることができます。

猫マッサージの注意点

 猫にマッサージを施す際は、その効果を最大限に発揮するため、幾つかの注意すべき点があります。

マッサージをいつ行うか?

 マッサージは、猫から催促があったタイミングで開始するのが良いでしょう。
マッサージの開始は、猫からの催促をきっかけにするのがベスト  1993年にCarlsteadが行った研究によると、猫は行き当たりばったりの接触を好まないことがわかっています。また、 1991年にTurnerが行った研究では、「猫の方から人間にコンタクトをすると、接触時間は長くなる」、「猫の求めに応じて相手になった回数が多いほど、人と猫は親密になる」ということがわかっています。つまり猫からの催促をきっかけにしてマッサージを開始することがベストタイミングということです。
 ただし注意点もあります。それは「ニャーニャー」と要求鳴きをしているときに求めに応じてしまうと、猫は「泣けば願いが叶う!」と学習してしまい、以降無駄鳴きが多くなってしまうということです。これを予防するため、猫が要求鳴きをしたタイミングではなく、泣きやんだタイミングを見計らってマッサージを開始するよう心掛けます。

マッサージをどこで行うか?

 猫をマッサージするときは、飼い主の膝やお腹の上に乗せて行なうのが良いでしょう。
猫に対するマッサージは、飼い主の体と接触した状態で行ったほうが良い  猫は暑くて湿度の高い日においても、お互いにくっ付き合うといいます。これはおそらく、体温を維持するためではなく、心理的な安心感を得るためだと考えられます。ですから猫にマッサージを施す時は、飼い主の体にくっついた状態を保ち、猫ができるだけリラックスできるようにすると、効果が倍増します。
 ただし猫が人の体に触れる事を苦手としているような場合は、無理強いする必要はありません。強引に膝の上に乗せようとするとストレスが高まってしまい、逆効果になります。

マッサージをどの程度行うか?

 マッサージを行う時間に明確なルールはありません。
 猫と人間、双方の集中力を考慮すると、5分~20分程度が妥当でしょう。ごくまれに、「リラックスしすぎて瞬膜が引っ込まなくなる」というケースも発生しますので、あまり無制限にマッサージし続けるというのも考えものです。ですから20分程度を上限として設定することにします。なお、猫からの「もうやめて」というサインは以下のような形で現れます。このサインが見られたら、速やかにセッションを中断しましょう。
猫からの「やめて」サイン
猫がマッサージをやめてほしいときに見せるサインいろいろ
  • 自発的に離れる 猫が自発的に飼い主の元から離れていくような時は、「もう充分満足しました」というサインになります。
  • デビルフェイスを見せる 「デビルフェイス」とは、耳を横に広げて悪魔の角(つの)のように尖らせ、瞳孔をまん丸に開いた顔のことです。この顔は、人間で言うと「しかめっ面」に相当するものですので、猫の表情が変った時は「もうやめて」のサインになります。
  • 手に噛み付く 上記「デビルフェイス」に気づかずマッサージを続けていると、突然手に軽く噛みついてくることがあります。これは時に「愛撫誘発性攻撃行動」とも呼ばれ、「やめて!」と言う、やや強目の拒絶サインとなります。
 なお、上記「やめて」とは逆に、「もっとやって!」というサインは、「のどをゴロゴロ鳴らす」、「目を半開きにしてうっとり顔になる」、「なでてほしい場所を押し付けてくる」、「しっぽの先をゆっくりと振る」などの形で現れます。

猫マッサージの禁忌

 「禁忌」(きんき)とは、猫から催促があっても、マッサージを行ってはいけない条件のことです。具体的には以下。

怪我をしているとき

 猫が捻挫、肉離れ、急性炎症、ヘルニア、骨折などの怪我をしており、炎症が治まっていないような場合は、逆効果になる危険性があるため、マッサージを控えるようにします。

熱があるとき

 熱があるということは、体内に入ってきた異物に対し、免疫系が一生懸命に反応していると言う事です。猫がこうした状態にあるときにマッサージをすることは、人間で言うと風邪をひいて熱っぽい時に体を触られるようなものですので、逆に不快に感じてしまうことがあります。

食事の直後

 エサを食べた直後は、血液が消化器系に集まり、一生懸命に消化活動を行います。そんな時にマッサージをしてしまうと、せっかく内臓に集まった血液が、また筋肉に戻ってしまいます。

激しい運動の直後

 激しい運動をした後は、まだ筋肉や神経が興奮していますので、しばらくクールダウン期間を置くようにします。猫の呼吸が落ち着き、適度な疲労を感じたところでマッサージに移った方が効果的でしょう。

ガンを患っているとき

 ガン細胞は血液やリンパ液に乗って体の中を巡ります。マッサージによって体液の流れを促してしまうと、ガン細胞の移動を早めてしまう危険性があります。

猫のしこりの見つけ方

 猫の体は基本的に被毛で覆われているため、腫れやしこりといった病変にはなかなか気付くことができません。飼い主はマッサージを行うと同時に、皮膚の表面に何らかの変化がないかどうかをチェックする習慣を持っていた方がよいでしょう。以下は、猫の体表面に現れやすいしこりの一覧です。怪しい部分を発見したときは獣医さんに相談するようにします。なお図中では省略されていますが、リンパ節と乳腺は左右対称です。
猫の体におけるしこり
猫の体表面い現れやすいしこりや腫瘤の一覧
  • 1=下顎リンパ節「下顎(かがく)リンパ節」とは、顎の下にあるリンパ節です。顔面や頭、口の中に病変があるとここのリンパ節が腫れ上がります。人間でも口内炎ができているときは同じ側のリンパ節がコリコリになりますのでわかりやすいでしょう。
  • 2=腋窩リンパ節「腋窩(えきか)リンパ節」とは、前足の付け根にあるリンパ節です。人間で言うと脇の下に相当します。前足や胸部乳腺に病変があるとここのリンパ節が腫れ上がります。
  • 3=浅鼠径リンパ節「浅鼠径(せんそけい)リンパ節」とは、太ももの付け根にあるリンパ節です。後足や腹部乳腺に病変があるとここのリンパ節が腫れ上がります。
  • 4=膝窩リンパ節「膝窩(しっか)リンパ節」とは、膝の裏にあるリンパ節です。後足の膝から下に病変があるとここのリンパ節が腫れ上がります。
  • 5=乳腺(乳首)猫の場合、左右4つずつ合計8つあるというのが基本的な数です。オスでもメスでも、おなかを触った時、炊いていない米粒のような、硬くて小さなコリコリとして触知されます。このコリコリが徐々に大きくなっていたり、猫が痛がるようなら、腫瘍の可能性が考えられます。
  • 6=下行結腸大腸の末端部分に近い「下行結腸」(かこうけっちょう)は、ちょうど猫の左下腹部にあります。ここがゴリゴリしている場合は、便秘などでうんちがたまっている可能性が大です。腫瘍と鑑別するため、うんちを出した後にもう一度同じ場所を触ってみます。ゴリゴリが消えていれば宿便、消えていなければ何らかの病変かもしれません。
  • 7=会陰ヘルニア「会陰(えいん)ヘルニア」とは、しっぽの付け根あたりから骨盤内の臓器が飛び出してしまった状態のことです。猫では極めて稀です。
  • 8=鼠径ヘルニア「鼠径(そけい)ヘルニア」とは、太ももの付け根から腹部にある臓器が飛び出してしまった状態のことです。猫では極めて稀ですが、停留精巣でも同じような場所が膨らむことがありますので、念のためチェックしておきます。なお太ももの付け根は脂肪がたまりやすい場所でもあります。しこりを指でつまんだとき「チュルン」と逃げていくような場合は脂肪、「ガチッ」とつまめる場合は病変というのが一つの目安です。
  • 9=臍ヘルニア「臍(へそ)ヘルニア」とは、ヘソから腹部にある臓器が飛び出してしまった状態のことです。人間の臍の位置に比べ、猫の臍はやや上の方に偏っています。ほとんどの症例が先天性ですので、急にこの辺が膨らみだした場合は、何らかの腫瘍と考えたほうがよいでしょう。
  • 10=傍肋骨ヘルニア「傍肋骨(ぼうろっこつ)ヘルニア」とは、肋骨の脇から腹部にある臓器が飛び出してしまった状態のことです。交通事故や落下事故にでも遭わない限り、ここでヘルニアを起こすことはありません。
  • 11=腹側腹部ヘルニア「腹側腹部(ふくそくふくぶ)ヘルニア」とは、みぞおちの部分から腹部にある臓器が飛び出してしまった状態のことです。交通事故や落下事故にでも遭わない限り、ここでヘルニアを起こすことはありません。
  • 12=甲状腺猫の甲状腺(こうじょうせん)は、ゴロゴロと鳴っている部分のやや下にあります。通常なら平らですが、甲状腺機能亢進症などがあると、こんもりとした腫れとして触知されることがあります。高齢猫における好発疾患ですので、日ごろからのチェックが重要です。
 被毛で覆われてわかりにくいしこりを正確に発見するためには、手の感覚を鍛えておく必要があります。まず、タオルの下に小さな米粒などを置き、目をつぶった状態で撫でてみましょう。盛り上がりを感知できれば成功です。慣れてきたらタオルを2重→3重とだんだん厚くして、少しずつ手の感覚を鋭敏にしていきます。事前に練習しておけば、たとえ厚い被毛があっても、ちょっとした体表面の変化を触知することができるはずです。