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猫の潰瘍性口内炎に対する治療法の総括レビュー

 猫の生活の質を著しく低下させることで悪名高い「潰瘍性口内炎」の治療法に関する総括的なレビューが行われました(2016.8.1/アメリカ)。

詳細

 報告を行ったのは、アメリカ・カリフォルニア大学デイヴィス校の医療チーム。医学データに関するデータベース「PubMed」、「Web of Science」、「CAB」の中から、猫の潰瘍性口内炎とそれに対する治療法に関して述べた16の調査報告をピックアップし、それぞれの信頼度を評価しました。具体的な内容は、調査手法がどの程度科学的に信頼できるかを示す「Experimental Design Grade」(EDG)と呼ばれる指標を用いて、最も高い「I」から最も低い「V」までの5段階で評価すると同時に、調査結果がどの程度医学的な証拠に基づいているかを示す「Evidence Grade」(EG)と呼ばれる指標を用いて、最も高い「A」から最も低い「C」までの3段階で評価を行うというものです。 猫の潰瘍性口内炎  選抜した16の調査報告書のうち、10は内科的な治療に関するもので、残りの6は外科的な治療に関して述べたものでした。具体的には以下です。

内科的アプローチ

  • 報告1【治療薬】シクロスポリン
    【評価】EDG=I/EG=B
    【原文】こちら
  • 報告2【治療薬】シクロスポリン
    【評価】EDG=III/EG=B
    【原文】こちら
  • 報告3【治療薬】ラクトフェリン/ピロキシカム
    【評価】EDG=I/EG=A
    【原文】こちら
  • 報告4【治療薬】自家間葉幹細胞
    【評価】EDG=II/EG=A
    【原文】こちら
  • 報告5【治療薬】パラポックスウイルス
    【評価】EDG=II/EG=C
    【原文】こちら
  • 報告6【治療薬】人工ネコインターフェロンオメガ
    【評価】EDG=IV/EG=C
    【原文】こちら
  • 報告7【治療薬】人工ネコインターフェロンオメガ
    【評価】EDG=V/EG=C
    【原文】こちら
  • 報告8【治療薬】人工ネコインターフェロンオメガ/プレドニゾロン
    【評価】EDG=I/EG=B
    【原文】こちら
  • 報告9【治療薬】ジンクレオ殺菌性収斂鎮痛剤
    【評価】EDG=V/EG=C
    【原文】こちら
  • 報告10【治療薬】サリドマイド/ラクトフェリン
    【評価】EDG=V/EG=C
    【原文】こちら

外科的アプローチ

  • 報告1【治療法】食事療法/抜歯
    【評価】EDG=I/EG=B
    【原文】こちら
  • 報告2【治療法】抜歯
    【評価】EDG=II/EG=B
    【原文】こちら
  • 報告3【治療法】抜歯
    【評価】EDG=III/EG=B
    【原文】こちら
  • 報告4【治療法】抜歯
    【評価】EDG=III/EG=B
    【原文】こちら
  • 報告5【治療法】抜歯
    【評価】EDG=V/EG=C
    【原文】こちら
  • 報告6【治療法】抜歯+二酸化炭素レーザー切除
    【評価】EDG=V/EG=C
    【原文】こちら

解釈上の注意

 潰瘍性口内炎に関する調査には、全体の縮図となり得るほど豊富な調査対象数、将来につながる有用な調査デザイン、病気の重症度に関する定量~半定量的な評価システム、十分な追跡調査期間が求められるものの、今回の総括的レビューで検証された調査報告の中に、上記4つの条件を全て揃えた完璧なものものはなかったと言います。
 目下の課題は、いまだによくわかっていない病因をまずは解明し、100%の寛解を得られるような治療法に関するヒントを得ることだとしています。 Therapeutic Management of Feline Chronic Gingivostomatitis: A Systematic Review of the Literature
Jenna N. Winer, Boaz Arzi, et al.2016

解説

 内科的アプローチ法の中で比較的信頼度が高いと評価された報告の具体的な内容は以下です。
有望な内科的アプローチ
  • 報告1(I-B) 前臼歯もしくは全歯の抜歯を行った猫16頭のうち、9頭をシクロスポリン(2.5mg/kg)投与群、残りの7頭を偽薬投与群とに分割し、1日2回投与して6週間観察を行った。投与期間終了後、「SDAI」と呼ばれる特殊なスケールで口内の重症度を評価したところ、シクロスポリン群では重症度が52.7%改善したのに対し、偽薬群では12.2%の改善にとどまった。またシクロスポリン群のうち7頭(77.8%)の猫が40%以上の改善を見せたのに対し、偽薬群のうち40%以上の改善を見せたのはわずか1頭(14.3 %)だけだった。シクロスポリンの血中レベルが300ng/mlを超えている場合、顕著な改善が見られると推定される(→出典)。
  • 報告3(I-A) ピロキシカムの経口投与による4週間の調査群では、最初の2週間で症状が顕著に改善、ピロキシカムの経口投与とウシラクトフェリンの口内スプレーを組み合わせた12週間の調査群では、ピロキシカムだけの場合よりも重症度がさらに低下し、症状、生活の質、体重が全て改善した。調査に参加した猫13頭のうち、77%で著明な改善が確認され、とりわけ大きな副作用は見られなかった(→出典)。
  • 報告4(II-A) 難治性の潰瘍性口内炎を抱えた7頭の猫に対し、脂肪細胞由来の自家間葉幹細胞2000万個を、1ヶ月の間隔あけて2回静脈注射した。最初の注射の半年前と半年後のタイミングで口内の病変を評価したところ、完全な寛解3頭、改善2頭、無反応2頭という結果を得た。また調査終了後6~24ヶ月の追跡調査では、再発が見られなかった。血中の「CD8lo」が15%を下回っているとき治療に反応すると推測されるため、バイオマーカーとして利用できるかもしれない(→出典)。
 一方、外科的アプローチ法の中で比較的信頼度が高いと評価された報告の具体的な内容は以下です。
有望な外科的アプローチ
  • 報告1(I-B) オメガ6多価不飽和脂肪酸とオメガ3多価不飽和脂肪酸の割合が、炎症の軽減と病変治癒の促進を左右するという仮説のもと、抜歯を行った7頭の猫に「10:1」の食事を、他の7頭には「40:1」の食事を与えて4週間様子を見た。両グループ間で炎症性サイトカインのレベルに違いは見られたが、どちらか一方の病変が早く治癒するという現象までは確認できなかった(→出典)。
 猫の潰瘍性口内炎は発症メカニズムがよくわかっておらず、おそらく複数の原因が複雑に絡み合っていると想定されているため「この治療をすれば絶対に改善する!」というゴールドスタンダードを見つけるのが極めて難しいとされています。有病率は0.7~12.0%で、日本国内では飼い猫だけで7万~120万頭が苦しんでいると推定されますので、いち早い病因の解明と効果的な治療法の確立が望まれるところです。 猫の口内炎