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奇病「ネコ膝-乳歯症候群」に対する初めての手術例

 膝のお皿と乳歯という遠く離れた2ヶ所の異常を引き起こす奇病「ネコ膝-乳歯症候群」に対する治療例が報告されました(2016.8.22/アメリカ)。

詳細

 「ネコ膝-乳歯症候群」(Feline Knees-Teeth Syndrome)は、明確な外傷なく発生する膝蓋骨(お皿)の骨折と、乳歯が抜け落ちず歯槽骨の中に残る乳歯遺残を特徴とする奇病。2004年に文献内に初登場して以来、アメリカで60例弱、イギリスで数例が報告されているだけの極めて珍しい病気の一つです。 ネコ膝-乳歯症候群では明白な理由もなく膝蓋骨が骨折する  暫定的な診断基準は、乳歯遺残(特に臼歯)、最低1つの非外傷性の膝蓋骨骨折、膝蓋骨以外の場所に発生した両側性の非外傷性骨折で、よくある骨折部位は脛骨(すね)、大腿骨(ふともも)、骨盤(特に坐骨)、上腕骨とされています。骨形成不全症ではないかと疑われているものの発症メカニズムはよくわかっておらず、現在ペンシルバニア大学医療遺伝学センター、カリフォルニア大学デイヴィス校、ブリストル大学などが中心となってDNAデータの蓄積や症例の収集を進めているところです(→出典)。
 今回の治療報告を行ったのは、ノースカロライナ州アッシュビルで獣医歯科と外科を専門とするケイシー・カーステン医師。患猫はウエストアッシュビルに暮らすカービー・バーグレンさんのペット「ピップスクイーク」(3歳)です。 アメリカ国内で59番目のネコ膝-乳歯症候群例となった黒猫「ピップスクイーク」  バーグレンさんは生後4ヶ月でピップスクイークを引き取ってすぐ、歩き方がどこかおかしいことに気付きました。その時に受診した動物病院で股関節脱臼と診断されたため、すぐに大腿骨頭切除術を受けます。ところが手術を終えて半年後、今度は右の膝蓋骨が明白な理由もなく骨折したと言います。さらにその3ヶ月後には反対側の膝蓋骨も骨折。同時に、乳歯が抜け落ちず口の中で歯が2列になっており、歯槽骨が異常に増殖しているという病変も発見されました。 ネコ膝-乳歯症候群では、歯槽骨に残った乳歯が骨の異常増殖を助長すると推測されている  症状を頼りにネットで調べを進め、最終的に行き着いたのが「Avery Creek Pet Hospital」。ここで治療を担当したのが、冒頭でご紹介したケイシー・カーステン医師でした。彼女が担当したのは骨折ではなく顎の骨の異常増殖の方で、過去に報告のあった4例を調べてみると、その全てが感染症にかかり最終的には安楽死させられていたと言います。カーステン医師はひとまず片方の顎の骨を削り取り、二次感染が起こらないよう1日に2回抗生物質を投与しながら慎重にモニタリング。その甲斐もあってか、術後1ヶ月の時点(2016年8月)でピップスクイークは順調に回復しているということです。現在は反対側の乳歯を抜いて骨の異常増殖を事前に防ぐため、飼い主であるバーグレンさんが中心となり、クラウドファンディングを通じて医療費を募っている最中です。 Citizen Times Go fund me ネコ膝-乳歯症候群は病気そのものよりも、術後の二次感染の方が危険