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犬や猫のペットフードに含まれるヒ素の危険性

 人間向けの食品でも問題になっている「ヒ素」による、ペットフード汚染が懸念されています(2016.8.4/アメリカ)。

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 コロラド州立大学の助教授であり、総合医療教育センター「CureCora」のCEOも務める医師ナーダ・ロビンソン氏は、医療情報サイト「Veterinary Practice News」の中で、自然界に広く存在している重金属の一種「ヒ素」に関する懸念を表明しました。具体的には、さまざまな検査を行ったにもかかわらず、病名を診断できないような犬や猫の体調不良を引き起こしているのは、ひょっとするとペットフードに含まれるヒ素かもしれないというものです。
 アメリカ国内で食品に含まれるヒ素が話題になったのは、比較的近年の2011年です。9月、「ドクター・オズ」の愛称で親しまれているテレビのパーソナリティ、メーメット・オズ氏は、自身の番組の中でりんごジュースに危険なレベルのヒ素が含まれているとし、特に赤ん坊に与えた際に有害であるとの警告を発しました(→出典)。これに対し「アメリカ食品医薬品局」(FDA)やジュースの製造元である「ネスレ」は、検査の仕方に問題があるとして異議を唱えます。その後、非営利の消費者組織「コンシューマー・リポーツ」が第三者的な立場で改めて調査を行った結果、特に毒性が強いと言われる無機ヒ素に関しては、検査した80品目のうちわずか1品目だけが、飲料水に認められている上限値「10ppb」をわずかに超える「10.48ppb」だったと言います。ドクター・オズの言い分は全面的には認められなかったものの、この番組をきっかけとしてヒ素に対する消費者の意識が高まり、 FDAも上限値が定められていなかったジュースやその他の食品に関する調査を進めていきたいとの姿勢を表明しました。 りんごジュースに含まれるヒ素の危険性を解説するドクター・オズ  翌2012年、上記した「コンシューマー・リポーツ」の調査班は、200を超える食料品店で売られている米製品を調査しました。その結果、ほとんどで有機ヒ素と無機ヒ素の両方が検出されたという結果になっています(→出典)。また2015年、ワシントン大学が行った別の調査では、ワインの生産で有名なアメリカ国内の4カ所で製造された65種が検査対象となりました。その結果、ほとんどすべてのサンプルが飲み水の上限値である「10ppb」を超えるヒ素を含んでおり、なおかつその全てが危険な無機ヒ素だったと言います(→出典)。さらに2016年4月には、FDAが米に含まれるヒ素に関する新たなデータを公表し、子供用のお米シリアルに含まれる無機ヒ素の上限値を「100ppb/g」にするというお達しを出しました(→出典)。
 こうした流れを受けナーダ・ロビンソン氏は、人間用食品のみならず、ペットフードに含まれるヒ素の危険性も看過できないと強調しています。同氏によると、現在では動物用医薬品98品の認可が取り下げられるものの、それまでは過密状態で飼育されている動物の成長を促したり、病気を予防するという名目で、上限値が定められていないまま、ヒ素含有の食品添加物が家畜動物の飼料に加えられていたとのこと。また、稲に吸収されたヒ素は果皮(糠)に蓄積しやすいとも。ヒ素が多く含有されるのは鳥の羽根や玄米の糠  一方、ペットフードのタンパク源としては、羽根も含めた鶏肉や七面鳥肉がよく用いられます。またボリュームを増すための炭水化物源としては、玄米やクズ米がよく用いられます。つまり、犬や猫といったペット動物がりんごジュースやワインと接する機会は無いものの、肉や玄米を含んだペットフードを通じて、ヒ素を取り込んでしまう可能性は否定できないというのです。
 ロビンソン氏は「医師や獣医師が日常的に出くわすよくわからない体調不良には、ヒ素中毒が関わっているのではないか?」という懸念を表明して記事を締めくくっています。 Arsenic Exposure Poses a Growing Risk to Pets

解説

 上記した問題を日本国内に置き換えて考えてみると、あまり安心できない現状が見えてきます。

人間用食品とヒ素

 人間用の食品に対するヒ素の基準値としては、水道法第4条の規定に基づき、「水道水中0.01mg/L以下」というものがあります(→出典)。しかしその他の食品に関しては、「ヒ素について食品からの摂取の現状に問題があるとは考えていない」という見解に基づき、明確な基準値が設けられていません。農林水産省は、「海産物中には多くのヒ素化合物が含まれている」、「農産物の中ではコメからの摂取が比較的多い傾向にある」という事実を認めている一方、「日本において、どのくらいの量の無機ヒ素が体の中に入った場合に、健康への悪影響が生じるかを評価することは困難である」という立場をとっています(→出典)。食品中に含まれている具体的なヒ素の量を知りたい場合は、食品安全委員会が公開している「化学物質・汚染物質評価書 食品中のヒ素」という資料を参照するのが良いようです(→出典)。

ペットフードとヒ素

 ペットフードに対するヒ素の上限値は、ペットフード安全法により「15μg/g」と定められています(→出典)。しかしこの値は、アメリカのFDAで幼児用のお米シリアルに設けられた「100ppb/g」に比べるとずいぶん緩い基準のように思われます。「100ppb/g」が「0.0001mg/g」であるのに対し、「15μg/g」が「0.015mg/g」ですので、単純計算で150倍です。犬や猫は人間の子供よりさらに体が小さいのに、このような基準値で果たして本当に良いのでしょうか?
 また、この上限値が必ずしも守られているとは限らないという問題もあります。FAMIC(農林水産消費安全技術センター)では定期的にペットフードの抜き打ち検査を行っているものの、検査項目は年によってまちまちで、ほとんどのケースではヒ素が調べられていません(→出典)。
 さらにペットフードの製造には「レンダリング」というプロセスが含まれます。これは動物の体組織から脂肪と水分を取り除き、食品用の原材料として粉末状にする工程のことですが、原型がなくなる前の原材料に、人間用の食品と同レベルのものが用いられていると考えるのは楽天的すぎます。原価を抑えるため、安価な肉や米が使われてると考える方が自然でしょう。肉や米が安価になる理由は何でしょうか? レンダリング前の原材料にヒ素が混入している可能性は否定出来ない

消費者の注意点

 ペットフードの中には「原産国は日本です!」と強調しているものがあります。しかしこれは、最終加工が日本国内で行われたという意味であり、日本産の原材料を用いているというわけではありません。気になる原材料に関しては、ペットフードの製造元に問い合わせるしかないというのが現状です。海外から輸入された原材料の中に、鶏肉の成長を促進するために用いられたヒ素混合物や、基準値以上のヒ素が含まれていたため、人間用の食品としては扱えなくなった玄米やクズ米などが、含まれていない事を祈りたいものです。
 ちなみに有害性が高い無機ヒ素は、「U.S. EPA」(アメリカ合衆国環境保護庁)の基準では「グループA」(→出典)、「IARC」の基準では「分類1」(→出典)、すなわち「人への発がん性が認められる」とされています。その他、慢性ヒ素中毒の人における症状は、「皮膚の色素沈着」、「白斑」、「角化症」、「各種のガン」(皮膚・肺・腎臓・膀胱)などです。 猫のガン ペットフードができるまで(子犬のへや)