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ほとんどの医師が消毒していない聴診器は多剤耐性菌の感染源になりうる

 複数の抗生物質を跳ね返してしまう多剤耐性菌の感染を広げているのは、感染動物の咳やくしゃみではなく、動物病院の獣医さんが用いる「聴診器」かもしれません(2016.6.24/日本)。

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 「多剤耐性菌」とは、従来の抗生物質が効かず、動物の免疫力によっては重篤な症状を引き起こす厄介な病原菌。動物病院で抗生物質を投与されている犬や猫から感染しやすいという逆説的な特性を持っています。詳しくは姉妹サイト「子犬のへや」のこちらの記事をご参照ください。
 基本的な予防法は「待合室で他の犬や猫を触らない」、「自分の犬や猫を他の飼い主に触らせない」というものです。しかし飼い主がどんなに用心していても、動物病院の意識が低いと、感染を完全に防ぎきることはできません。なぜなら、過去に行われた非常に多くの調査で、病院内で使用される「聴診器」の驚くべき不潔さが指摘されているからです。ページ下部に資料を添付しますが、全体を一文でまとめると聴診器の衛生管理に関するルールを設けている病院は少なく、仮にあったとしても実践されていないことが多いとなります。
 聴診器の汚さに関しては、残念ながら日本も例外ではないようです。2013年7~8月の期間、日本国内にある4つの病院で入院診療に携わる常勤医合計308名にアンケート調査を行った所、白衣を週1で交換している割合が「48%」だったのに対し、毎日交換している割合は、わずか「7.5%」だったといいます。また、聴診器の膜面を拭きとる習慣がある人の割合は「53%」で、診察ごとに拭き取るという几帳面な人の割合はわずか「7%」にとどまったとも(→出典)。このデータは人医療機関を対象として行われたものですが、獣医療機関でも同様の傾向があるのだとすると、かなりゾッとしますね。 獣医師の多くは、使用した後の聴診器をしっかりと消毒していないかもしれない  医療器具に関してどのような衛生管理が行われているかは、その病院に直接問い合わせて確認するしかありません。間接的に探る方法としては、以下のような点に着目してみるのが有効でしょう。細かいところまで配慮が行き届いている病院なら、ひょっとすると消毒に関する院内ルールがあるかもしれません。
  • 院内の清掃が行き届いているか?
  • 患者への対応がぞんざいではないか?
  • 獣医師や看護士の身なりは清潔か?
【資料】聴診器の不潔さ
  • 1994年の調査 イギリス国内にある新生児の集中治療ユニットで使用された聴診器を調べたところ、71%でバクテリアが検出された。アルコール消毒を義務付けて6週間後、再び調べたところ、検出率は30%にまで減少した。聴診器を始めとした医療器具は院内感染の元になりうると考えられる(→詳細)。
  • 2008年の調査 イスラエルにある小児科病棟で、医師、レジデント、インターン、医学生が持つ43個の聴診器のバクテリア培養を行った。その結果、6つのサンプルを除いた全てにおいてバクテリア陽性と出た。最も多かったのはブドウ球菌(47.5%)で、1サンプルに至ってはメシチリン耐性菌だった。また9つのサンプルではグラム陰性菌が検出され、そのうち1つはアシネトバクターだった。ほとんどの聴診器が病原菌を保有しているにもかかわらず、消毒に関する基本ルールは徹底されていないようだ(→詳細)。
  • 2009年の調査 スイス大学実習病院に勤務する医師の利き手の4ヶ所、および聴診器の2ヶ所を調査した。合計489サンプルを調べた所、好気性細菌のカウント数は、指先467、母指球(親指の付け根)37、小指球(小指の付け根)34、手の甲8、聴診器の膜89、聴診器の伝音管18という結果だった。指先の汚染度と聴診器膜および伝音管の汚染度は連動していた(→詳細)。
  • 2011年の調査 カナダの救急病棟に勤務するスタッフ100名が使用している聴診器のバクテリア培養を行った所、54サンプルでコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出された。一方、メシチリン耐性菌は検出されなかった。聴診器を使用する前後において、しっかりと消毒を行ったのはわずか8%にすぎず、そのすべては看護士だった。医師が消毒を行わない理由として多かったのは「多忙」や「うっかり」だった(→詳細)。
  • 2014年の調査 ギリシャ国内にある大学病院付属の救急診療部で、聴診器、心電計、酸素濃度計など合計100機器を調べたところ、99%でバクテリア陽性と出た。最も多かったのはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(80.3%)で、聴診器を使用した後、しっかりと消毒していると回答した医師の割合はわずか13%だった。衛生管理に関する統一したルールが必要と思われる(→詳細)。
  • 2014年の調査 カナダ国内にある救急診療部で使用されている93個の聴診器を調べた所、90個(96.7%)のサンプルから何らかのバクテリアが検出された。30%ではブドウ球菌陽性と出たが、メシチリン耐性菌は検出されなかった。7個(7.5%)のサンプルからは日和見感染菌が検出された。聴診器は院内感染を広げる危険性を持っている(→詳細)。
  • 2015年の調査 これまでに出された28の調査報告書をメタ分析したところ、聴診器から何らかのバクテリアが検出された確率は85%(47~100)だった。最も多く報告されたのはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌で、病原菌としては黄色ブドウ球菌、緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌、クロストリジウム・ディフィシルが多かった。汚染された聴診器と院内感染の因果関係は立証されていないが、患者の皮膚から聴診器にバクテリアが移り、その聴診器から他の患者にバクテリアが移る可能性は十分にあると考えられる。最も効果的な消毒法が確立しておらず、また医学生や医師の間で聴診器を消毒するという慣習がないことは問題だ(→詳細)。