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マグロに潜む水銀が猫の健康を害しているかもしれない

 フード中に含まれる見落とされがちな微量元素「水銀」が、猫の健康を地味に害しているかもしれません(2016.5.13/日本)。

詳細

 報告を行ったのは、京都大学と複数の動物病院からなる共同研究チーム。東京都八王子と京都市にある動物病院を訪れた猫100頭を、何らかの病気を抱えた疾病猫67頭と、持病をもたない健常猫33頭とに分け、被毛中に含まれる水銀濃度と疾病との関連性を検証しました。主な結果は以下です。
被毛中の水銀濃度と健康
  • 健常猫(33頭)被毛中水銀濃度は0.2~6.4mg/kgの範囲 | 暫定参照値上限は9.2mg/kg | 上限を上回る個体は無かった
  • 疾病猫(67頭)被毛中水銀濃度は0.1~17.5mg/kgの範囲 | 2頭は暫定参照値上限を超えていた
 水銀の参照値上限を超えていた2頭に関して飼い主に聞き取り調査を行ったところ、主食はウェットフードで、疾病は口内炎だったといいます。
 口内炎を主症状として病院を訪れた猫4頭のうち、ちょうど50%の2頭において水銀の過剰摂取が確認されたことから、今後は給与フードに含まれる水銀濃度を計測し、場合によっては「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(ペットフード安全法)の中に基準値を盛り込んでいく必要があるかもしれないと指摘しています。 各種疾病ネコにおける被毛中水銀濃度の予備的検討

解説

 今回の調査では、「フード内に高濃度の水銀が含まれていた」とか「水銀の過剰摂取によって猫が病気になった」といった事実は確認されませんでした。しかし、以下に述べるような様々な理由により、ペットフード内に含まれる微量な水銀が猫の健康を地味に害しているという可能性は否定できません。
猫に対する水銀の危険性
  • 猫にも水銀中毒が起こる 人間と同様、猫にも水銀中毒は起こります。1940~50年代、熊本県の水俣湾付近で発生した大規模水銀汚染により、水俣湾産の魚介類を摂取したヒトやネコで、行動異常を伴う死亡事例が多数発生した「水俣病事件」はあまりにも有名です。
  • マグロが水銀の供給源になる 水銀の供給源としては工業排水、歯科治療で用いられる水銀アマルガム、そして水銀が体内で濃縮・蓄積されやすいマグロ類(マグロ・カジキ)、サメ類、深海魚類が挙げられます。猫においては、「工業排水」や「水銀アマルガム」に接触する機会は少ないものの、キャットフードの原料としてマグロを摂取したり、飼い主からのおすそわけとしてマグロの刺身をもらっている場合、危険性が高まります。
  • 基準値が設けられていない 2016年現在、「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(ペットフード安全法)の中で水銀に関する基準値が設けられていません。その結果、仮に水銀が高濃度で含まれていたとしても、それが検知されないまま市場に出回り、最終的に猫の体内に入るという可能性は大いにあります。
 上記したような様々な理由により、猫はフードを介して日常的に水銀中毒の危険にさらされていると考えられます。報告を行った研究チームは「通常飼育されているネコが、水銀中毒となった報告例は、日本国内では未だないものの、現在まで原因不明であった疾病が高度の水銀暴露に起因していた可能性は否定できない」とし、足音を忍ばせて近寄る殺し屋としての水銀の存在に注意するよう呼びかけています。
 ちなみに、WHOが設定した人間における推奨値は「1.6μg/kg体重/週」程度です。また日本生協連では、1週間のマグロ摂取量を最大で200g程度に抑えるよう推奨しています。この参照値を借りて猫向けに計算し直すと、「1週間にマグロの刺身2切れ(20g)程度」にとどめておいたほうが良いということになります。またマグロを原料としたウェットフードを日常的に与えている場合は、おやつとしてのマグロを控えるのと同時に、魚介類以外の素材を原料としたフードを混ぜ込んで、有害物質の蓄積を分散するといった配慮も必要でしょう。 魚介類・鯨類の水銀についてのQ&A(日本生協連) 魚介類に含まれる水銀について(厚生労働省) 猫にマグロを与えるときは、刺し身で週に20g程度が無難