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膝の十字靭帯を損傷した猫は完治が難しいかも

 膝の十字靭帯を損傷したことがある猫では、関節の機能が完全には回復せず、歩き方が微妙に変わってしまうことが明らかになりました(2016.11.17/スウェーデンなど)。

詳細

 調査を行ったのは、スウェーデンの農業科学大学とアメリカのノースカロライナ大学から成る共同チーム。膝関節の中にある十字靭帯(じゅうじじんたい)に怪我をしたことがある猫10頭と健康な15頭を集め、両者の歩き方に何らかの違いがあるかどうかを検証しました。被験猫の基本的な情報は以下です。
受傷歴がある被験猫
  • 年齢=平均9.5歳(1~12歳)
  • 体重=平均5.1kg
  • 体型=BCS3.8/5(6.6/9)
  • 品種=3頭だけ純血種
  • 性別=オス6頭+メス4頭
  • 受傷歴=片側性の十字靭帯損傷
  • 健康状態=良好
猫の膝関節を横断している前十字靭帯と後十字靭帯の模式図  上記した10頭のほか、体重と体型に開きが出ないように選別された健常猫15頭を、長さ1.95m×幅0.45mの感圧マットにおびき寄せ、前を向いた状態のまま一定のリズムでまっすぐ歩かせました。歩様解析によって明らかになった両グループの違いは以下です。なお「VI」とは垂直方向にかかる圧力のことで、「PVF」とは垂直方向にかかる圧力のピーク値のことを意味しています。
患猫と健常猫の比較
患猫
●体重比率
 前肢1.4:後肢1
●VI
 8.1 ± 1.7
●PVF
 22.4 ± 2.4
健常猫
●体重比率
 前肢1.2:後肢1
●VI
 8.2 ± 1.5
●PVF
 27.1 ± 3.6
 受傷歴がある猫の患側と健側を比較した所、VIに関しては「患側:健側=7.6 : 8.8」、PVFに関しては「患側:健側=21.9 : 23.1」という具合に、怪我をした方の足になるべく体重がかからないようにしていることが明らかになったといいます。また患猫では臨床的に以下のような特徴が見出されたとも。
十字靭帯損傷猫の特徴
  • 触診可能な関節周囲の肥厚=100%
  • 可動域の制限=80%
  • 太ももの筋肉の萎縮=80%
  • 関節を触ると痛がる=30%
  • 可動域の限界で痛がる=80%
  • 肉球にかかる体重の分散様式が変化した
 歩行実験と合わせ、飼い主に対するアンケート調査も行われました。これは飼っている猫の運動性、活動性、毛づくろい行動、気質の変化を1~10までの10段階で評価するというもので、何の変化もない場合は「0」、最も変化の多い場合は「50」になるように設定されています。患猫の飼い主と健常猫の飼い主の双方に回答してもらったところ、前者の平均値が「9.9」だったのに対し、後者の平均値が「1.1」になったそうです。
 こうしたデータから調査チームは、猫が十字靭帯を一度損傷してしまうと完全に回復することは難しく、歩き方や生活態度に何らかの変化が生じてしまうという事実を明らかにしました。歩き方の変化が痛みによるものなのか、それとも関節に生じた不安定性によるものなのかは判然としないとのこと。 Do cats with a cranial cruciate ligament injury and osteoarthritis demonstrate a different gait pattern and behaviour compared to sound cats?
Sarah Stadig, Duncan X. Lascelles, et al. 2016

解説

 人医学においては、膝の中にある十字靭帯や半月板は血管分布が少ないためなかなか治りにくい部位とされています。この知見は猫にもある程度当てはまるようです。ひとたび怪我をしてしまうと完治するのが難しいため、飼い主としては予防に努めたいものです。
猫の膝の怪我予防
  • 遊びの途中の急な方向転換を避ける
  • 高い場所から飛び降りないようステップを設ける
  • 落下事故を防ぐためベランダに出さない
  • 交通事故を防ぐため外に出さない
  • 踏んでしまわないよう室内では足元に気をつける
 なお十字靭帯の怪我が膝関節の緩みと不安定性につながり、変形性関節症を発症しやすくなるかどうかはわかっていません。しかし関節内の潤滑液が減って摩擦熱が増え、結果として変形が起こりやすくなるという可能性は十分に考えられます。 猫が捻挫した 猫の変形性関節症