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高齢猫の高血圧症にはウロモジュリンが関与している可能性がある

 高齢猫でよく見られる高血圧症は、人間の場合と同様「ウロモジュリン」と呼ばれるタンパク質の異常によって引き起こされている可能性が示されました(2016.11.21/イギリス)。

詳細

 ウロモジュリン(uromodulin)は「Tamm-Horsfallタンパク」の異名を持つタンパク質の一種。1950年代にはすでに哺乳動物の腎臓中に存在していることが確認されていましたが、その生理学的な機能についてはいまだによくわかっていません。
ウロモジュリン
 ネフロンに含まれるヘンレわなの太い上行脚と、遠位尿細管の起始部に発現するタンパク質の一種。細胞内のリボゾームで合成とフォールディング(折りたたみ)が行われた後ゴルジ体に運ばれ、上皮細胞の表面に出現して排出される。ウロモジュリンのシステイン残基に変化が起こると、フォールディングに異常が生じてタンパクの輸送が正確に行われなくなり、細胞内にウロモジュリンが蓄積して腎機能不全を引き起こすと考えられている。
 未知の部分が多いものの、近年行われた遺伝子解析によりウロモジュリンの生合成に関連した遺伝子変異が、主として腎機能に影響を及ぼしていることが徐々に明らかになってきました。常染色体優性遺伝するこうした変異は現在50以上確認されており、尿細管間質線維症、高尿酸血症、皮髄境界部での嚢胞形成、尿の凝縮能喪失など、「ウロモジュリン関連腎疾患」と総称される様々な病変を引き起こすと考えられています。 猫も高齢になると人間同様高血圧になりやすい  今回の調査を行ったイギリス・王立獣医大学のチームは、高齢猫で頻繁に見られる慢性腎臓病と高血圧には、人間の場合と同様ウロモジュリンが何らかの関わりを持っているという仮説を立て、大規模な遺伝子解析を行いました。調査対象としたのは、長期的な健康モニタリングプログラムに参加している老齢猫227頭。データベースに記録されている医療データから慢性腎臓病と全身性高血圧(収縮期血圧170mmHg以上+標的臓器障害 or 2度の計測で両方とも170mmHg以上)の猫をスクリーニングし、ウロモジュリンの遺伝子変異との関連性を検証しました。その結果、4つの変異(g.8539A>G | g.9764A>C | g.9858T>C | g.9879T>C)が収縮期血圧の増加と関係していたといいます。しかし腎機能や慢性腎臓病との関連性は見いだせなかったとも。
 こうした結果から調査チームは、人間においても猫においても、ウロモジュリンの機能が血圧に影響を及ぼしている可能性があることを突き止めました。今後は対象サンプル数をもっと増やし、今回得られた知見の再現性を確認していきたいとしています。 Uromodulin gene variants and their association with renal function and blood pressure in cats:a pilot study

解説

 ウロモジュリンがどのように腎機能に影響を及ぼしているかに関しては、現在いくつかの仮説があります。専門的でややわかりにくい部分もありますが、以下は一例です。
ウロモジュリンと腎機能の関係
  • 仮説1 ウロモジュリン遺伝子を人為的に不全にしたマウスでは、電解質バランスに異常は見られなかったもののクレアチニンクレアランス(腎機能)が顕著に減少して尿の凝縮能力が障害され、「Na-K-Cl共輸送タンパク2」(NKCC2)の活性が減少した。ウロモジュリンはナトリウムの吸収を促進し、太い上行脚におけるNKCC2の活性を高めていると考えられる。
  • 仮説2 ウロモジュリン遺伝子を人為的に不全にしたマウスでは、尿中TNFα(腫瘍壊死因子)濃度が上昇する。TNFαは自己分泌的にNKCC2の発現をダウン調整することがわかっている。正常マウスの太い上行脚細胞をTNFαで刺激したところ、NKCC2の発現が減少すると同時に、ウロモジュリン遺伝子のmRNA発現が増加した。こうした事実から考えると、ウロモジュリンがTNFαの効果を調整してNKCC2の発現様式に影響を及ぼし、結果として血圧を変化させていると推測される。
  • 仮説3 全身性高血圧を抱えた猫では、正常血圧の猫に比べ血清リン濃度が著しく低いことが確認されている。ウロモジュリン遺伝子の変異で正常なウロモジュリンが減少すると、収縮期血圧の上昇と髄質カリウムチャンネル(ROMK2)の発現異常を招き、全身性高血圧と血清リン濃度の低下につながっているのかもしれない。
 人間で確認されているウロモジュリン遺伝子の変異(rs13333226)は、高血圧のリスクを下げるとされています。一方今回の調査では、遺伝子変異が収縮期血圧を高めるという逆の関連性が確認されました。こうした事実から、人間と猫とでは、ウロモジュリンの振る舞いに多少の違いがあることが推察されます。しかしウロモジュリンが複雑なメカニズムを通じて血圧を上下動させていることは確かなようです。 猫の「正常」を知る