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猫におけるローソニア菌(Lawsonia intracellularis)の陽性率と病原性

 ブタやウマの増殖性腸炎を引き起こすことで知られるローソニア菌が、猫の消化管疾患の原因になっているという可能性が示されました(2017.6.22/韓国)。

詳細

 調査を行ったのは韓国の国立大学・仁川大学校。2009年から2011年の期間、ソウルと京畿道(キョンギド=首都近郊)にある9つの動物病院を受診した猫のうち、何らかの消化管疾患(急性下痢・慢性下痢・腹痛・体重減少・腹部膨満・栄養失調)を抱えた235頭を対象とし、ウマやブタの増殖性腸炎を引き起こす細菌「ローソニア・イントラセルラリス」(Lawsonia intracellularis)の大規模な抗体検査を行いました。その結果、以下のような陽性率が出たといいます。
首都圏猫のローソニア陽性率
  • ソウル=3.7%
  • キョンギド=6.2%
  • 全体=5.2%
 細菌と消化管疾患との因果関係までは証明できなかったものの、5.2%という高い陽性率から考え、首都圏において猫がローソニアの媒介動物になっている可能性を否定できないとしています。ただし、抗体陽性と出た猫のほとんどは都市部に暮らしており、ブタやウマと直接的に接する機会がなかったため、まず一体どのようにして細菌をもらってしまったのかを明らかにする必要があるとも。
Evidence of Lawsonia intracellularis Infections in Domestic Cats with Intestinal Disorder: A Retrospective Serological Study
Jung-Yong Yeh et al., Intern J Appl Res Vet Med Vol.15,No.1,2017

解説

 ローソニア・イントラセルラリス(Lawsonia intracellularis)はS字型をしたグラム陰性の小桿菌。ブタやウマに感染して増殖性腸炎を引き起こすほか、ヒツジ、ハムスター、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、フェレット、イヌ、ブルーフォックス、オジロジカ、ダチョウ、エミュー、アカゲザル、ニホンザルでの感染例が確認されています。 ローソニア・イントラセルラリス(Lawsonia intracellularis)  感染例のほとんどがブタやウマに集中していることから、その他の動物における疫学調査はほとんど行われておらず、何らかの消化管疾患の原因になっているのかどうかは全くわかっていません。過去に行われた少数の調査では、犬や猫の陽性率に関し以下のような結果が出ています。
犬猫のローソニア陽性率
  • ドイツ・2003年ドイツのさまざまな地域から犬57頭分、猫50頭分の糞便サンプルを集めて調べた所、陽性率は犬が7.0%、猫が0%だった(→出典)。
  • チェコ・2007年消化管症状(慢性もしくは断続的な下痢)のある犬54頭のうち、陽性だったのは40頭(74.1%)だった。一方、症状を示していない犬17頭のうち陽性だったのは13頭(76.5%)とそれほど変わらなかった(→出典)。
  • 韓国・2008年102頭のげっ歯類と24頭の野良猫を、韓国北東部にある9つの養豚場近くから集めて陽性率を調べた所、げっ歯類が15.7%、猫が12.5%だった(→出典)。
  • アメリカ・2008年2006年8月から2007年1月の期間、さまざまな哺乳動物を対象として陽性率調査を行った所、テリムクドリモドキ、アライグマ、ジリス、野猫(14頭)ではいずれも0%だった(→出典)。
  • アメリカ・2012年ウマの増殖性腸炎が確認された10の農場近くで、さまざまな哺乳動物を対象として陽性率調査を行った所、2つの農場に属する3頭の猫で陽性だった(→出典)。
  • ブラジル・2015年40頭の下痢症状を示す犬と18頭の健康な犬を対象として陽性率を調べた所、症状群が7.5%(3頭・すべて3ヶ月齢の子犬)、無症状群が0%だった(→出典)。
 今回の調査では、細菌が何らかのルートを通じて猫の体内に侵入し、免疫反応を活性化して抗体が形成されることが追認されました。ただし、細菌が消化管疾患を引き起こしたのかどうかに関してはよくわかっていません。犬を対象とした調査では、下痢の有無と関係なかったというものと、下痢を示す犬で陽性率が高かったという異なる結果が出ています。ローソニアが猫に対して発揮する病原性解明は今後の課題でしょう。またブタやウマと接する機会がなかったにもかかわらず、なぜか細菌を保有していたと言いますので、感染ルートに関しても今後明らかにしていく必要があります。 豚や馬と直接接触していないのにローソニアに感染することがある  日本における猫を対象とした疫学調査は今のところありません。世界中で行われた調査では、養豚場や馬のいる牧場の近くに暮らしている猫で陽性と出ていますので、やはり暮らしている地域がリスクの1つになっていると考えられます。