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猫の後ろ足が急に動かなくなった場合、椎間板が損傷しているかも

 体を強く打ち付けた後で急に後ろ足が動かなくなった場合、椎間板が損傷しているかもしれません(2017.6.26/イギリス)。

詳細

 報告を行ったのはイギリス王立獣医大学のチーム。2008年から2014年の期間、急性~亜急性の神経症状で大学付属の病院を受診した猫のうち、症状を示してから48時間以内に撮影したMRI画像がある患猫を選別し、「急性非圧迫性髄核脱出」(ANNPE=椎間板から髄核が脱出しているものの脊髄や神経根を圧迫していない状態)の有無とその予後を調査しました。以下は正常な椎間板、および髄核突出、髄核脱出の模式図です。 正常椎間板と髄核突出、髄核脱出の模式図  有資格の神経医が画像診断したところ、調査対象としての基準を満たす猫は合計11頭(年齢中央値は7歳)が見つかり、神経症状としては非進行性の対麻痺(後ろ足の運動機能と感覚の麻痺)と不全対麻痺(対麻痺のうち感覚や運動がかろうじて残っているもの)が多く、全体の75%では脊椎(背骨を構成している個々の骨)に対する外傷が確認されました。治療は外科手術ではなく理学療法が選択され、マッサージや他動運動といった手技が施されました。主な治療結果は以下です。
理学療法の治療成果
  • 入院日数の中央値は10日(3~26日)
  • 深部痛覚が喪失していた3頭は2日程度(1~3日)で感覚が戻った
  • 深部痛覚麻痺と不全対麻痺を示していた5頭では、歩行以外の自発的な動きが4日程度(2~7日)で戻った
  • 歩けなかった9頭は17日程度(6~21日)で歩けるようになった
 11頭中8頭の猫に関しては最低3ヶ月間の追跡調査が行われました。その結果、診断を受けてから6ヶ月の間で、目に見える改善を示した猫は1頭もいなかったと言います。またすべての猫は歩行能力を取り戻し、脊髄の知覚過敏も消えていたものの、生活の質に関しては全頭で低下が確認されたそうです。調査された8頭のうち自律的な排尿・排便が困難だった1頭を除き、7頭はおおむね元の生活を送れるようになりました。しかし神経学的に完全に復調したものはいなかったとのこと。
Presumptive acute non-compressive nucleus pulposus extrusion in 11 cats: clinical features, diagnostic imaging findings, treatment and outcome
Frances E Taylor-Brown et al., Journal of Feline Medicine and Surgery Vol19 Issue1 2017, doi.org/10.1177/1098612X15605150

解説

 脊椎の疾患でよく耳にする「椎間板脱出」(IVDE)は、変形した椎間板が脊髄や神経根と物理的に接触することで神経症状を出すと考えられています。それに対して急性非圧迫性髄核脱出(ANNPE)は、破れた線維輪や髄核に対して発生した炎症が、周囲に炎症性化学物質(ケミカルメディエーター)を撒き散らすことで神経症状を引き起こしていると推測されます。理学療法だけで症状が軽快した理由は、おそらく炎症が徐々に治まって、神経への化学的刺激がなくなっていったからでしょう。 椎間板疾患における近隣神経への物理的刺激と科学的刺激の違い  今回の調査中、交通事故が3頭、高所からの落下が3頭で確認されました。脊椎に対するショックを椎間板がクッションとして受け止めた結果、線維輪が部分的に破れて中の髄核が飛び出してしまったものと考えられます。非圧迫性の髄核脱出は、手術が必要ないという観点から比較的軽症とみなされますが、一歩間違えば脱臼、骨折といったより重度の整形外科的疾患につながりうる危険なものです。ベランダに出た猫の写真で「いいね」を稼いでいる飼い主をTwitterなどでよく見かけますが、上記したリスクを理解すればもはやできなくなるでしょう。神経学的に完全に復調することは難しいと報告されていますので、何よりも予防が大事です。 猫の椎間板ヘルニア 猫の高層症候群