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猫の飼い主は犬の飼い主よりもペットとの間に精神的な距離を置いている

 日本国内に暮らしている犬の飼い主と猫の飼い主を比較したところ、猫の飼い主の方がペットとの間に精神的な距離を置いていることが明らかになりました(2017.3.27/日本)。

詳細

 調査を行ったのは京都大学心理学部「CAMP-WAN」のチーム。日本国内に暮らしている犬の飼い主92人(平均年齢47.20歳)と猫の飼い主74人(平均年齢40.86歳)に対してアンケート調査を行い、ペットと飼い主との関係性にどのような違いが見られるかを検証しました。調査内容は、自由回答と1から5までの5段階で評価するライカート回答の複合型で、一例として以下のような質問が含まれます。
ペットと飼い主の関係調査票
  • 動物としての原始的な感情(幸せ | 悲しみ | 怒り | 恐れ | 驚き | 嫌悪)は犬や猫にどの程度あるか?
  • 原始的な感情から派生する二次的な感情(愛情 | 友情 | 同情 | 共感 | 哀れみ | 嫉妬 | 憎しみ)は犬や猫にどの程度あるか?
  • 知性や理性は犬や猫にどの程度あるか?
  • 人の意識が向いている方向を犬や猫は認識できるか?
  • 人の感情を犬や猫は理解できるか?
  • 人の意図を犬や猫は理解できるか?
 得られた回答を解析した結果、犬の飼い主と猫の飼い主との間で統計的に格差が見られる項目がいくつか発見されました。具体的には以下です。
犬と猫の飼い主の違い
  • 「ペットは家族である」と回答した人の割合は猫の飼い主(72.97%)よりも犬の飼い主(88.04%)の方が高い
  • 犬の飼い主の方が悲しみ、友情、同情、共感、哀れみを高く評価した
  • 犬の飼い主の方が人間の感情を理解する能力を高く評価した
 猫の飼い主のうち「ペットは家族である」と回答した人と「家族ではない」と回答した人を比較してみたところ、両者で違いが見られたのは「ペットはどの程度共感能力を持っているか?」という質問に対する回答だけで、「家族である」と回答した人の方が高く評価したといいます。
 こうした結果から調査チームは、犬の飼い主と猫の飼い主との間には微妙ながら差があるようだとの結論に至りました。具体的には、猫の飼い主の方がペットとの間に精神的な距離をやや置いているという点です。こうした違いの背景にあるのは、犬と猫がたどってきた家畜化の歴史ではないかと推測されています。
Owners’ view of their pets’ emotions, intellect, and mutual relationship: cats and dogs compared
Kazuo Fujita et al. , dx.doi.org/10.1016/j.beproc.2017.02.007, Behavioural Processes(2017)

解説

 犬の飼い主よりも猫の飼い主の方が「家族の一員である」とみなしている割合が低く、ペットとの間に精神的な距離を置いていることが分かりました。この現象の理由にはいくつかあると考えられます。

片利共生的な関係

 犬は人間と相利共生的に生きてきた結果、「人間に従順」とか「人間の意図に敏感」といった特質に対して強い選択圧がかかりました。それに対し猫は、人間と共同生活を営むというよりは、都合のいいときに近づき都合が悪くなると離れていくという、片利共生的なスタイルで人間に家畜化されました(→詳細)。その結果、犬に対するのと同程度の選択圧がかからなかったのではないかと考えられます。つまり犬よりも猫の方が自由気ままな傾向が強いということです。猫の飼い主で見られた精神的な距離は、猫が持つこうした独立性が反映されたのではないかと推測されます。

表情の乏しさ

 猫が持つ原始的な感情の中で、「悲しみ」だけが他の感情よりも1ポイントほど低く評価されました。この一因は、猫の表情筋の乏しさにあると思われます。近年行われた調査によると、保護施設において猫の引き取り率を高める要因は「頭や脇腹を擦り付ける」といった行動であり、表情はほとんど関係がなかったと報告されています(→詳細)。一方同様の調査を犬において行ったところ、下の写真で示したような「眉毛を挙げて上目遣いで見つめる」という悲しげな表情が譲渡率を高めたそうです。 眉毛を挙げた犬は黒目がちになり、人間に可愛いと思わせることができる  「悲しみ」の評価ポイントが猫においてのみ低かった理由は、猫が犬のように哀れっぽい表情を作ることができないからだと推測されます。またこの表情の乏しさは、猫と飼い主との間に精神的な距離があることの一因になっているかもしれません。

猫の共感行動

 猫の飼い主のうち「家族である」と回答した人と「家族ではない」と回答した人の違いは、猫の共感能力に対する評価だけでした。RiegerとTurner(1999)は、飼い主が落ち込んでる時に猫が頭やわき腹を擦り付けてくることが多かったと報告しています。これに似た経験をしたことがある飼い主は、「猫に共感能力はどの程度あるか?」という質問に対して高い評価を下し、猫を家族の一員として身近に感じるかもしれません。逆にこうした経験をしたことがない飼い主は、「猫って冷たいなぁ…」という印象を抱き、共感能力を低く評価して「ただのペット」や「ただの猫」という認識を強めるかもしれません。そしてこうした認識が、猫と飼い主との間の精神的な距離として現れた可能性はあるでしょう。

SNSに見る猫との距離

 猫と飼い主の間に精神的な距離が生まれてしまう理由を幾つか見てきましたが、この傾向はSNSの中にも見出すことができます。例えば、猫にキュウリを見せて驚かせる人、猫をベランダに出している写真を投稿して「いいね」を稼いでいる人、猫に着ぐるみを着せて動画のアクセス数を稼いでいる人などです。猫にキュウリを魅せて驚かせる悪ふざけは心の距離の現れ こういう人たちの心の底には、「たかが猫」という精神的な距離があるのではないでしょうか。猫を家族の一員とみなしているならば、ペットの身に危険が及ぶことやペットが嫌がる事はしませんし、ましてそれをSNSに投稿するなんて事は絶対にしませんからね。