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多価不飽和脂肪酸(PUFA)が猫の尿路結石を予防してくれる可能性あり

 猫の食事に多価不飽和脂肪酸(PUFA)を加えると尿路結石ができにくくなる可能性が示されました(2017.11.6/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのはオレゴン州立大学とヒルズからなる共同チーム。12頭の短毛種(オス4頭+メス8頭 | 全て不妊手術済み | 平均5.6歳)をランダムで2つのグループに分け、通常食と試験食をそれぞれ56日間ずつ給餌し、猫の生理学的な変化を観察しました。モニタリングされたのは血清脂肪酸濃度、尿比重、尿中カルシウム濃度、ストラバイトのRSS(相対過飽和)、シュウ酸カルシウム滴定検査、尿沈渣検査で、食事の具体的な内容は以下です。
給餌食の内容
  • 通常食アラキドン酸0.07% | EPAなし | DHAなし
  • 試験食アラキドン酸0.17% | EPA0.09% | DHA0.18%
 給餌試験の結果、試験食を給餌されていた期間において、両グループで以下のような共通した変化が見られたと言います。
PUFA給餌期の変化
  • 血清EPAが173%増加
  • 血清DHAが61%増加
  • 血清アラキドン酸が35%増加
  • 尿比重の低下
  • 尿中カルシウム濃度の低下
  • ストラバイトのRSS低下
  • シュウ酸カルシウム結晶形成への抵抗性増加
 試験食の給餌期間中に限り「ストラバイトのRSS低下」、「シュウ酸カルシウム結晶形成への抵抗性増加」という変化が見られました。また通常食の給餌期間中に限り、尿沈渣検査で結晶が多く観察されました。こうした結果から調査チームは、多価不飽和脂肪酸がシュウ酸カルシウム結石とストラバイト結石両方の形成を抑制する効果を有しているのではないかと期待しています。
Increased dietary long-chain polyunsaturated fatty acids alter serum fatty acid concentrations and lower risk of urine stone formation in cats.
Hall JA, Brockman JA, Davidson SJ, MacLeay JM, Jewell DE (2017) PLoS ONE12(10): e0187133. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0187133

解説

 1985年、それまでアメリカ国内で猫の尿路結石の大部分を占めていたストラバイト結石の割合が33%まで減少し、逆にそれまで少数派だったシュウ酸カルシウム結石の割合が55%まで増加するという逆転現象が見られました。この現象の理由としては「ストラバイト結石の再発を予防するようアレンジされたキャットフードの登場により、逆にシュウ酸カルシウム結石ができやすくなった」というものが想定されています。こうしたことから2つの結石は「あっちが出ればこっちが引っ込む」関係であると考えられてきました。つまり、食事によって両方を抑え込む事は出来ないと言うことです(Lekcharoensuk, 2001)。しかし今回の調査により多価不飽和脂肪酸がどちらの結石の形成も抑制する可能性が示されました。 尿に含まれている溶媒の濃度が高まると、溶けきれなかった分子が結晶化し結石を形成する  尿路結石の形成に影響を及ぼす因子は、以下に示すように多岐にわたります。多価不飽和脂肪酸が結石の形成を抑制するメカニズムとしては、特に「カルシウムの分泌低下と尿水分量の増加」が重要と想定されています。
尿路結石の形成因子
  • 形成を阻害する要因クエン酸 | マグネシウム | ピロリン酸 | タム-ホースフォール蛋白
  • 形成を促す要因尿路内における細胞の残骸 | 他の結晶の存在 | 尿蛋白 | pHの低下 | イオン化カルシウムと高カルシウム血症 | ナトリウム | シュウ酸塩 | 尿酸塩 | 尿量の少なさ | 尿細管における緩やかな流れ
 多価不飽和脂肪酸が一体どのようなメカニズムを通して「カルシウムの分泌低下と尿水分量の増加」を促すのでしょうか?調査チームは一例として以下のような作用を想定しています。
PUFAと尿中カルシウムの変化
  • アラキドン酸 アラキドン酸は猫の必須脂肪酸の1つで、プロスタグランジンの前駆物質。プロスタグランジンは腎臓内において血管拡張やナトリウムと水分のバランスを保つ際に必要。
     食事中のアラキドン酸が増えたことにより、腎臓における血流もしくはNa-K-2Clポンプの活動性に影響を及ぼし尿中のカルシウム濃度を低下させた可能性がある。
  • EPAやDHA EPAやDHA(n-3脂肪酸)は細胞膜におけるタンパクを仲介した反応、脂質性メディエーターの生成、細胞シグナリングや遺伝子の発現形式などを変化させる。
     食事中のEPAやDHAがプロスタグランジン(PGE2)の生成を抑制し、尿中へのカルシウム分泌が減ると同時に腎臓におけるカルシウムの再吸収が促された可能性がある。
 人間を対象とした調査では、(n-3) 脂肪酸を豊富に含んだ食事によって尿中カルシウム濃度が52%の人で低下し、シュウ酸の分泌量が34%の人で低下し、シュウ酸カルシウムの過飽和状態が38%で低下したと報告されています。またEPAを豊富に含んだ食事を18ヶ月間摂取し続けた所、尿中カルシウム濃度が有意に減少したとの報告もあります。一方マウスを対象とした調査では(n-3)脂肪酸の投与により尿中へのカルシウム分泌量が減少したとされています。
 こうした事例から考えると、猫においても多価不飽和脂肪酸が結石阻害作用を有している可能性は大いにあるでしょう。閉塞性であれ非閉塞性であれ、尿路結石は猫の慢性腎不全の発症率を高め、寿命を3年ほど縮めるという危険性が指摘されています。今回の調査に参加した猫の数が少ないこと、および臨床上健康な猫だけが対象となっていること、調査チームに「ヒルズ」が加わっていることなどから、調査結果をすぐに一般化することはできませんが、「多価不飽和脂肪酸」(PUFA)というキーワードは予備知識として覚えておきたいものです。 猫の慢性腎不全 猫の尿道結石