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犬と猫の間で行われる異種間輸血では高い確率で拒絶反応が起こる

 犬と猫の間で行われる異種間輸血は果たしてどの程度安全なのでしょうか?検証するための調査が行われました(2017.10.12/イタリア)。

詳細

 「異種間輸血」(xenotransfusion, ゼノトランスフュージョン)とは文字通り、異なる動物種の間で行われる輸血のこと。必要な血液がどうしても手に入らない時など、緊急の状況においてしばしば行われ、メディアなどで珍事として報道されることもあります。
 2010年10月、アメリカ・フロリダ州のキーウェストに暮らす猫の「バターカップ」が、重度の貧血で卒倒した。すぐさまマラソン動物病院に運び込まれたものの、輸血用の血液在庫がなく一刻を争う状況となった。担当医が窮余の策として頼ったのが、ウエストパームビーチにある犬用の血液バンク。急遽取り寄せたグレイハウンドの赤血球を用いて4時間に及ぶ輸血治療行ったところ、バターカップは何とか一命をとりとめた。 DailyMail(2014.10.4) グレーハウンドの赤血球を異種間輸血されて一命をとりとめた猫の「バターカップ」
 今回の調査を行ったのは、イタリアにあるメッシーナ大学とミラノ大学からなる共同チーム。犬と猫の間で行われる異種間輸血が果たしてどの程度安全なのかを検証するため、猫34頭と犬42頭の血液を用いた大規模な交差試験を行いました。猫を「レシピアント」(血液を受けとる側)、犬を「ドナー」(血液を与える側)と想定し、猫の血漿成分に犬の赤血球を混ぜ合わせる「主交差試験」と、猫の赤血球に犬の血漿成分を混ぜ合わせる「副交差試験」を複数回行ったところ、以下のような割合で拒絶反応(抗原抗体反応)が見られたと言います。なお「凝集」とは血液が固まって使い物にならなくなる現象、「溶血」とは赤血球が破壊されて使い物にならなくなる現象のことです。
主交差試験(猫R/犬D)
犬と猫における主交差試験の結果
副交差試験(猫R/犬D)
犬と猫における副交差試験の結果  「主交差試験」の結果、凝集や溶血反応を示した割合は4℃で「86.5%」、室温で「82.6%」、37℃で「74.8%」となりました。また「副交差試験」の結果、凝集や溶血反応を示した割合は4℃で「99%」、室温で「100%」、37℃で「98.1%」となりました。確認された高い抗原抗体反応から調査チームは、犬と猫の間で行われる異種間輸血は、よほど切迫した状況でない限り推奨されないと警告しています。
Naturally occurring antibodies in cats against dog erythrocyte antigens and vice versa
Vito Priolo, Marisa Masucci, et al.Journal of Feline Medicine and Surgery, doi.org/10.1177/1098612X17727232

解説

 今回の調査では、猫の血漿に犬の赤血球を混ぜた場合、試験環境(4℃・室温・37℃)にかかわらず75~85%という非常に高い割合で拒絶反応が引き起こされることが確認されました。これだけ高い確率であれは、異種間輸血を行った際に重篤な副作用が引き起こされても不思議ではありません。ところがどういうわけか、1960年代から現在に至るまでに実際に行われた60例近くの異種間輸血では、ほとんどが軽度から中等度の副作用しか報告されておらず、なおかつその後順調に回復しているそうです。理論値と実測値の食い違いを生み出している理由はよくわかっていませんが、異種間輸血に限っては、たとえ拒絶反応が起こってもそれほど激しいレベルに達することがないのかもしれません。
 猫の血液型ごとに拒絶反応を調べたところ、最も体温に近い37℃環境下においてA型猫の血液の方がB型猫の血液よりも有意に拒絶反応を示しやすいことが明らかになりました。こうした事実から、万が一犬から輸血を受ける場合、A型猫が最も凝集や溶血のリスクが高いと推測されています。 動物用血液バンクが存在していない日本においては供血猫に頼るしか無い  日本国内においては動物用の血液バンクが整っておらず、動物病院が抱える供血動物やボランティア動物からの血液でまかなっているというのが現状です。ひょっとすると、生きるか死ぬかの瀬戸際において猫の血液が見つからず、やむを得ず犬用の血液を輸血に用いるという状況があるかもしれません。過去の事例から考えると命を脅かすような重篤な副作用は出ないかもしれませんが、2度目、3度目の輸血となると体の中に犬の赤血球に対する抗体ができている頃ですので、激しい拒絶反応から死んでしまうことも想定されます。犬用血液で急場をしのいでいる数日の間に、猫用の血液を見つけることが、異種間輸血のポイントになりそうです。 猫の血液型