トップ2018年・猫ニュース一覧7月の猫ニュース7月19日

動物保護施設(シェルター)における猫の収容ガイドライン・AAFP版

 「アメリカ猫獣医療協会」(AAFP)は専門誌「Journal of Feline Medicine and Surgery」(2018年20号)の中で、動物保護施設(シェルター)において猫を収容するときのガイドラインを公開しました。以下はその概要です(2018.7.19/アメリカ)。

詳細

ケージ収容する場合
✓猫たちをケージの中に収容するときは、2週間までの短期収容ならば床面積は最低限0.75~1平方mが必要。
✓ケージを1つだけ用いる場合は、幅152cm×奥行き70cm×高さ66~76cmという大きめサイズを使う。
✓ケージを2つ使う場合は幅60cm×奥行き70cm×高さ60cmという小さいサイズを左右もしくは上下に連結して「続き部屋」(ダブルコンパートメント)スタイルにし、一方をトイレ、他方を休息や食事のための居住空間にする。
✓人間との交流時間を設ける。 猫の収容施設における「続き部屋」(ダブルコンパートメント)のデザイン例
グループ収容する場合
✓猫たちを広い室内で共同収容するときは4~6頭にとどめる。
✓無音、無振動を心がけ、猫へのストレスを減らす。
✓温度調整(15.5~26.5℃)、湿度調整(30~70%)、定期的な換気をこまめに行う。
✓自然光が入る場所を用意し、自由に日向ぼっこできるようにする。
✓人間との交流時間を設ける。
収容ユニット数
✓必要なユニット数は「1日の収容数×収容日数」で算出する。たとえば1日に受け入れる猫の数が1頭で、譲渡されるまで30日かかる(=30日収容する)場合、「1頭×30日」で30ユニットが必要。同様に、1日に受け入れる猫の数が5頭で、譲渡されるまで40日かかる(=40日収容する)場合、「5頭×40日」で200ユニットが必要。
✓こうした計算をせずに無節操に猫を受け入れてしまうと、狭いスペースにギュウギュウ詰めにすることとなり、猫たちの福祉や健康を著しく損なう。
Shelter housing for cats: Principles of design for health, welfare and rehoming Shelter housing for cats: Practical aspects of design and construction, and adaptation of existing accommodation

解説

 猫たちの譲渡率を高めるコツは、収容数を減らしてストレスマネージメントをしっかりすることのようです。
 2012年、カナダにあるブリティッシュコロンビア動物愛護協会(SPCA)は「C4C」と呼ばれるプログラムを試験運用し、猫たちの譲渡率がどのように変化するかを検証しました。具体的な内容はケージのスペースを0.53から1m平方に倍加し、猫たちの収容数を半減するというものです。一見すると譲渡率が下がってしまいそうですが、実際は譲渡率15%増加、収容日数(LOS)は44日から22日に半減、隔離エリアの疾患猫頭数は1日16頭から年に10~15頭に激減という好転が見られたといいます。またこのプログラムは2014年から2015年にかけカナダ国内にある2つの保護施設で試験運用され、上気道感染症の低下、獣医療費の低減、譲渡率の向上、安楽死率の低下という効果が見られたとのこと。
 さらにイギリスにあるBattersea Dogs & Cats Home(BDCH) は、それまで116ユニットあった小さな収容ケージを85ユニットの大きめな収容ケージに入れ替えて収容数を27%下げ、過密状態の改善とストレスマネージメントに力点をシフトしました。その結果、ビフォーに相当する2011年とアフターに相当する2016年を比較した時、収容日数(LOS)は25日→13日、1日の譲渡数は4.6頭→6.5頭、年間の譲渡数は1,678頭→2,372頭という大幅な改善が見られたといいます。さらにストレスによって有病率が高まる上気道感染症の感染率は、71%から16%へと急降下しました。
 上記したような事例から考え、猫たちの譲渡率を高めるためには、たくさんの猫たちをただ闇雲(やみくも)に受け入れるのではなく、しっかりとストレス管理ができる収容数に抑えることが重要であるようです。
 近年日本国内では「ホーディングシェルター」の問題が浮上しつつあります。これは後先を考えずに犬や猫たちを受け入れ、しっかりとしたターンオーバー(入れ替え)が実現できないまま収容数だけが一方的に増えていく保護施設のことです。保護を行っている当事者、そしてそれを外野から眺める応援者たちの多くは、「殺処分が0になった」という上辺だけの数字に有頂天になり、殺処分を免れた後の犬や猫たちがどのような飼育環境下に置かれているかにはあまり興味がありません。 1人が50頭もの犬を管理せざるを得ない状況に追い込まれているピースワンコ・ジャパンの保護施設  例えば、広島県のとあるNPO団体では、動物愛護センターで殺処分の危機にあった犬たちを全頭を引き出して飼養していますが、施設内に収容された2千頭近い犬たちを管理しているのはわずか40人のスタッフだといいます(写真上)。1人50頭の犬たちを一体どのようにして管理するというのでしょうか?ちなみに無理な管理体制を反映してか、この団体は2018年2月に犬の脱走事件を起こし、6月には狂犬病予防注射を怠った疑いで取り調べを受けています(→出典)。これでは悪名高い「引き取り屋」と何ら変わりありません。 保護シェルター「犬猫みなしご救援隊」の自称・猫部屋その1 保護シェルター「犬猫みなしご救援隊」の自称・猫部屋その2  また同じ広島県には、愛護センターなどから猫たちを全頭引き出して保護している別のNPOもあります。このNPOが「終生飼養ホーム」と呼び、「傷ついた犬猫たちがストレスを感じることのないよう、最大限の環境を準備したいと、今もなお、設備・遊具等、進化し続けております」と称している収容エリアは上の写真のような感じです。2018年4月末の時点で、延べ4,879頭もの猫を保護しているとのこと(→出典)。
 AAFPのガイダンスで述べられた最低条件を念頭に置いたとき、果たして猫たちの福祉はしっかり守られてると言えるでしょうか?以下は、収容キャパシティを全く考えずに次々と猫たちを保護し、ホーディングシェルターの疑いをかけられている東京都板橋区のとある施設です。残念ながら上記したNPOとほとんど違いは見られません(→出典)。 収容キャパシティを無視して次々と猫たちを軟禁するホーディングシェルターの内部写真  「殺処分ゼロ」は心地よい響きを持った言葉です。しかし、その先にある犬や猫たちの生活環境までフォローしてあげないと、地獄の3丁目から4丁目に引っ越しをしただけということになってしまいます。 猫のストレスチェック 猫の欲求