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動物虐待による犬や猫の死亡率は最低でも1%程度か?

 死後解剖に回された犬や猫を対象とした調査により、動物虐待が死因と考えられるケースが全体のおよそ1%を占めていることが明らかになりました(2018.3.7/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、アメリカ・ミネソタ大学のチーム。2001年2月から2012年5月の期間、ミネソタ大学の獣医診断ラボに死後解剖で回されてきた犬と猫の医療データを後ろ向きに調べなおし、全体のうち動物虐待が関わっているケースが一体どの程度含まれているのかを検証しました。その結果、犬8,417頭のうち73頭(0.87%)、猫4,905頭のうち46頭(0.94%)において虐待が関わっている可能性が確認されたと言います。
 犬においては偶発的でない外傷(特に銃による)、猫においてはネグレクトと偶発的でない外傷(特に鈍器による)が多く確認されました。また動物の年齢がわかる71症例だけに絞ってみたところ、58%では2歳以下の若齢であることが明らかになりました。
 臨床の現場において獣医師が動物虐待の疑われる症例に出くわす事は珍しくありません。しかし報告システムが整っていないとか、裁判になったとき証言のための時間と労力を取られるとか、虐待犯から逆恨みされるといった様々な障壁があり、警察に報告しないことが多々あるといいます。調査チームは、虐待による死亡が疑われるケースを臨床所見ごとにパターン化し、獣医師に報告を義務づけるなどのシステムを整えれば、今まで事なかれ主義で流されてきた虐待事件が浮かび上がってくるだろうとしています。
Retrospective analysis of necropsy reports suggestive of abuse in dogs and cats
Daniel C. Almeida MV, MS; Sheila M. F. Torres MV, PhD; Arno Wuenschmann DVM, doi.org/10.2460/javma.252.4.433, Journal of the American Veterinary Medical Association, February 15, 2018, Vol. 252, No. 4, Pages 433-439

解説

 動物虐待の分類法にはいくつかありますが、今回の調査ではMunro(2008)による4分類法が採用されました。
偶発的でない外傷
 偶発的でない外傷とは人間の意図が介在した外傷のことです。具体的には蹴飛ばす、殴る、投げ飛ばす、もので叩く、火傷を負わせる、窒息させる、飛び道具(銃・弓・ダーツetc)で射つ、毒を盛るなどが含まれます。
 犬や猫に怪我を負わせるような飼い主が動物病院に連れてくるというケースはそれほど多くないと考えられるため、一人暮らしの家庭内や外部との接点が少ない繁殖施設・訓練施設で人知れず身体的な虐待を受けている動物の数はかなり多いと推測されます。 「しつけ」と称して犬に体罰を加えることも虐待
ネグレクト
 ネグレクトとは生きて行く上で必要となる最低限の環境を用意しないことです。例えば、食事を与えない、寝る場所を与えない、ケージの中に閉じ込めっぱなしにする、病気になっても動物病院に連れて行かないなどが含まれます。病的に多頭飼育するアニマルホーダーもこの部類に入るでしょう。
 鳴き声や糞尿がひどくなれば近隣住人が気づいて事件が発覚することもありますが、飼育頭数がそれほど多くない場合は家庭内でひっそりと虐待が進行してしまう危険性があります。 動物の福祉を損ないながらも多頭飼育を続けるアニマルホーディング
性的な虐待
 性的な虐待とは生殖器や粘膜を対象とした虐待のことです。具体的には直腸、肛門、生殖器、口などが含まれます。
 「偶発的でない外傷」と同様、動物に怪我を負わせるような飼い主はそもそも動物の福祉のことなど考えていませんので、犬や猫が怪我を負ったとしても動物病院には連れてこないと考えられます。その結果、虐待が密室化してしまう危険性があるでしょう。
感情的な虐待
 感情的な虐待とは動物に不愉快な感情を抱かせる行為全般のことです。例えば脅しつける、大きな声で怒鳴る、叩くそぶりを見せる、精神的な慰安(撫でる・ブラッシングする・抱きしめるetc)を与えないなどが含まれます。
 たとえ身体的な障害を加えなくても、恐怖や不安といった精神的な苦痛を与えること自体が動物虐待になるという認識を持っていない人がいます。厄介なのは身体に傷として残らないため外から見分けることが難しく、その分虐待行為が潜在化しやすくなってしまうという点です。
 アメリカのFBIは従来の「UCR statistics」をアップグレードし、2021年までに「NIBRS」(National Incident-Based Reporting System)という新しいデータベースシステムに移行する計画を発表しています(→出典)。これは全米に散らばっている法執行機関が犯罪に関する詳細を1つのデータベースに入力し、情報を共有し合うというものです。2016年からは、それまで「その他の犯罪」として分類されてきた動物虐待も「Animal Cruelty」という独立したカテゴリに昇格し、「放火罪」や「暴行罪」と同格で扱われるようにになりました。
 動物虐待犯をデータベースに入れるよう進言した「National Sheriffs' Association」(全国保安官協会)は連続殺人犯テッド・バンディ、ジェフリー・ダーマー、デヴィッド・バーコウィッツと動物虐待との関係性を指摘し、「動物を虐待する人間は、そのうち人間を傷つけるようになる」と主張しています。そしてデータベースを通じて動物虐待犯をモニタリングすることが、DVや児童虐待の早期発見、早期解決につながるだろうとも。
 今回の調査では、死亡症例のうちおよそ1%で虐待が疑われるという結果になりましたが、上記したように表に出てくる動物虐待はほんの一部に過ぎませんし、死亡症例にまで発展するものはほんの一握りです。「1%」が氷山の一角だとすると、その下にどれくらいの氷塊が隠れているのでしょうか?犬好きや猫好きにとっては辛い想像になりそうです。