PM2.5が高濃度の家庭においては猫の呼吸器疾患発症リスクが激増する

　調査を行ったのは国立台湾大学動物病院のチーム。2016年8月から2014年7月の1年間、台北市にある動物病院を受診した犬と猫を対象とし、呼吸器系の疾患と家庭環境中における室内空気汚染との間に何らかの関係性があるかどうかを検証しました。犬121頭（呼吸器疾患83頭＋比較対象38頭）及び猫81頭（呼吸器疾患64頭＋比較対象17頭）を選抜し、犬や猫が最も頻繁に使う場所の空気サンプルを採取して、室内空気汚染の度合いを調べたところ、以下のような関連性が浮かび上がってきたといいます。

• 年齢→患犬9.8歳：健常犬7.7歳
• 体重→患犬5.1kg：健常犬10.9kg
• お線香→患犬30%：健常犬13%
• 環境温度→患犬25.2℃：健常犬27.1℃
• 環境湿度→患犬65.7%：健常犬69.3%

• 平均PM2.5→患猫38.6μg/m³：健常猫27.4μg/m³
• 環境温度→患猫26.0℃：健常猫27.8℃
• PM2.5が基準以下→患猫59%：健常猫29%

　こうした結果から調査チームは、犬においては家の中における「お線香の使用」が、猫においては「高いPM2.5濃度」が呼吸器系疾患の発症リスクになっているという可能性を突き止めました。 Association between indoor air pollution and respiratory disease in companion dogs and cats
Chung‐Hui Lin, Pei‐Ying Lo et al., Journal of Veterinary Internal Medicine, doi.org/10.1111/jvim.15143

　PM2.5とは微小粒子状物質（PM）のうち粒子径が2.5μm以下のもの。髪の毛の断面を1/30程度に分割した大きさをイメージすればわかりやすいでしょう。屋外における具体的な発生源としてはボイラー、焼却炉、コークス炉、鉱物の堆積場、自動車、船舶、航空機、土壌、海洋、火山などがあります。日本においては1日平均値70μg/m³で健康に悪影響を及ぼす可能性があるとされ、健康基準値は35μg/m³以下に設定されています。 「PM2.5」による大気汚染（政府広報オンライン） 　PM2.5を始めとする室内空気汚染は、室内で過ごす時間が長い子供や女性の死亡率を高める可能性が指摘されています。また人間においても実験動物においても、PM2.5が呼吸器系の健康を害していることが確認されています。犬や猫の血清、尿、被毛からコチニン、ニコチン、有機ハロゲン汚染物質などが検出されている事実から、ペット動物においても同様のリスクがあるのではないかと懸念されてきましたが、これまで詳しい調査は行われていませんでした。
　今回の調査により、室内におけるPM2.5が健康基準（35μg/m³）超のとき、呼吸器疾患を発症するリスクが4.13倍に高まる可能性が示されました。呼吸器疾患の猫で見られた主な症状は、下部気道疾患、鼻炎、肺炎など炎症性のものが大半です。人間における疫学調査では、室内空気汚染物質によって慢性閉塞性肺疾患、喘息、肺炎、鼻炎、急性呼吸器症状などが引き起こされることが確認されていますので、猫においても環境中の汚染物質によって酸化ストレスが発生し、向炎症効果が高まって炎症性の症状につながったのかもしれません。 　人間においては2.5μm超のやや大きめの汚染物質はもっぱら鼻腔、口腔、咽頭に沈着し、2.5μm以下の微小汚染粒子は気管、気管支、肺胞にまで達すると推測されています。猫における終末気管支の直径は100～432μmですので、人間の場合と同様、PM2.5が十分に蓄積する大きさを持っているようです。PM2.5の健康基準とされる「1日平均値35μg/m³」を上回っている家庭において猫の呼吸器疾患リスクが上がるのもうなづけますね。 　以下はPM2.5の発生源になりうる家庭内の物質です。放し飼いしている家庭においては屋外での接触リスクも含まれてしまいますので、完全室内飼いにして排ガスや粉塵との接触を遮断すると同時に、室内から空気汚染源を除去することが望まれます。

• タバコ
• 調理煙
• ストーブ
• お線香・ロウソク
• 塗料
• 接着剤
• 殺虫剤
• 難燃剤
• 消臭剤

部屋の中の見えない化学物質に注意