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海産物(魚)由来のキャットフードが環境ホルモンになる危険性あり

 海産物に含まれる有機ハロゲン化合物が環境ホルモンとなり、犬と猫の甲状腺機能に悪影響を及ぼしているかもしれません。

有機ハロゲン化合物とは何か?

 有機ハロゲン化合物とは、炭素と第17族元素(フッ素・塩素・臭素・ヨウ素)が結合した化合物のこと。具体的にはPCBs(ポリ塩化ビフェニル)やPBDEs(ポリ臭素化ジフェニルエーテル)などが含まれます。
 PCBsやPBDEsが哺乳動物の体内に入ると、肝臓にある薬物代謝酵素(P450)の作用で水酸化され、その後グルクロン酸抱合によって体外に排出されます。しかし水酸化形態である「OH-PCB」や「OH-PBDE」の一部は、エネルギー代謝を調整している甲状腺ホルモン(サイロキシ, T4)と構造や物性が似ているため、極めて低い濃度であってもホルモンの作用に悪影響を及ぼしてしまう危険性が示唆されています。つまり環境ホルモンとして甲状腺機能亢進症などを引き起こす可能性があるということです。

ペットフード中の有機ハロゲン化合物

 ペットフードに用いられる海産物がPCBやPBDEの供給源になっている可能性が示されています。
 調査を行ったのは愛媛大学・沿岸環境科学研究センター。愛媛県内にある動物病院を受診した犬や猫の血液、および県内のペットショップで購入した市販のペットフード(ドライフード+缶詰とパウチのウェットフード)を対象とし、中に含まれる有機ハロゲン化合物の濃度を測定しました。その結果、以下のような傾向が見られたといいます。「MeO-PBDE」とはPBDEがメチル化した物質「メトキシPBDEs」のことで、数字の単位はすべて「pg/g」です(※1ピコグラム=1兆分の1グラム)。 有機ハロゲン化合物の犬と猫における血中濃度

環境ホルモンによる犬猫への悪影響

 データをまとめると、犬でも猫でもペットフード由来の環境ホルモンにより甲状腺の機能に異常をきたす可能性があることがわかりました。具体的には、犬ではPCBの代謝産物である「OH-PCB」、猫では海産物(魚)由来のキャットフードを食べることによって体内に蓄積する「OH-PBDE」が原因になりやすいと考えられます。 猫は海産物を通してPBDEを摂取しやすく、また肝臓でのOH-PBDE処理が苦手  また猫ではOH-PBDEを体外に排出する時に必要となるグルクロン酸抱合能が微弱~欠落していること、およびMeO-PBDEsを多く含む海産物由来のフードを食べる機会が多いことから、犬よりもはるかに有害物質が体内に蓄積しやすく、その分環境ホルモンの影響を受けやすいものと推測されます。

海産物と猫の甲状腺ホルモン

 以下は愛媛大学・沿岸環境科学研究センターが行った調査結果の概略です。犬においてはマイナーな病気である一方、猫においては高い発症率が報告されている甲状腺機能亢進症には、キャットフードに含まれる海産物が関係しているのではないかと推測されます。 有機ハロゲン代謝物による陸棲哺乳類の汚染実態解明
有機ハロゲン化合物・基本用語
  • PCBs=ポリ塩化ビフェニル
  • PBDEs=ポリ臭素化ジフェニルエーテル
  • OH-PCB=ポリ塩化ビフェニルの水酸化型
  • OH-PBDE=ポリ臭素化ジフェニルエーテルの水酸化型
  • MeO-PBDE=ポリ臭素化ジフェニルエーテルのメチル化型

OH-PCBの血中濃度

 PCBの血中濃度は犬よりも猫の方が高かったにもかかわらず、その代謝産物である「OH-PCB」に関しては猫(150)よりも犬(220)の方が高い値を示しました。この原因は犬の方が肝臓の酵素(p450)の活性が高く、PCBを水酸化する能力が高いからだと推測されています。

OH-PBDEの血中濃度

 PBDEの代謝産物である「OH-PBDE」に関しては犬(2)よりも猫(710)の方が圧倒的に高い値を示しました。この原因は、フェノール化合物の代謝を担うグルクロン酸抱合能が猫では微弱~欠落しており、体内で発生したOH-PBDEをうまく体外に排出できないからだと推測されています。理論上、体外に出る際にグルクロン酸抱合の作用を受けるすべての物質が猫の体内に蓄積しやすいということになります。

フード中のPCBs

 ペットフードを調べたところ、PCBs濃度に関しては「キャットフード>ドッグフード」という格差が見られたことから、原材料に含まれる魚介類の量が関係している可能性が示されました。またPCBの水酸化形態であるOH-PCBs濃度に関しては、犬でも猫でも「血中>フード」という関係が見られました。このことからペットの血中に残留するOH-PCBsは、そもそも餌に含まれていたのではなく、エサから取り込んだPCBsが代謝されたものであると推測されました。

フード中のPBDEs

 キャットフードに含まれるPBDEsの異性体を調べたところ、BDE209が大部分を占めており、猫の血中の組成と同様の傾向であることが確認されました。このことから、猫の血中に含まれるPBDEsは主としてフード由来である可能性が高まりました。

フード中のOH-PBDEsとMeO-PBDEs

 キャットフードに含まれるOH-PBDEs濃度を調べたところ、「血液>フード」という格差が見られました。またMeO-PBDEsに関しては「フード>血液」という逆の格差が見られました。これらの事実から、猫の血液に含まれるOH-PBDEsはフードに含まれていたものが血中に現れたのではなく、フードに含まれていたMeO-PBDEs(特に6MeO-BDE47)が猫の体内で代謝によって脱メチル化し、TTR(血中にあるサイロキシン輸送タンパク「トランスサイレチン」)と結合して血中に残留したものと推察されました。
猫の甲状腺機能亢進症は発症メカニズムが未だに解明されていない謎の病気。当ページで紹介した有機ハロゲン化合物以外にも、以下のような物質が原因になっているのではないかと疑われています。 PFAS 大豆イソフラボン