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猫の保護施設が起こす多頭飼育崩壊は新たな社会問題

 日本国内でもちらほらと聞かれるようになった施設型の多頭飼育崩壊。保護施設(ホーディングシェルター)と飼育崩壊を起こした一般家庭の猫を比較したところ、施設由来の猫たちの方が不健康である可能性が示されました。

多頭飼育崩壊・施設型 vs 家庭型

 調査を行ったのはカナダのオンタリオ州にあるトロント動物愛護センターのチーム。2011年から2014年の期間、アニマルホーディング環境からセンターに飼育放棄された合計371頭の猫を対象とし、多頭飼育環境のタイプによって猫の健康状態、生還率、施設内の滞在期間がどのような影響を受けるかを検証しました。
アニマルホーディング
 アニマルホーディング(animal hoarding)とは自分自身の管理能力を無視して病的に動物を集めること(※ホールディングではありません)。あえて日本語に翻訳すると「病的な多頭飼育」で、適切な給餌を怠る、不衛生な飼養環境、病気になっても治療を受けさせないなどを特徴とする。オンタリオ州トロントにある集合住宅の狭い一室で、史上2番目の多頭飼育崩壊事件が発生
 調査の結果、14のホーディングケースが見つかり、1ヶ所における平均放棄頭数は26.5頭(中央値は20.5頭)であることが判明したといいます。またホーディング環境の分類が可能だった10のケースを調べたところ、2つが施設型で128頭、8つが一般家庭型で163頭だったとも。ここでいう「施設」とは動物保護施設として行政機関に登録を行っている団体のことで、表向きは「レスキューグループ」「保護団体」「保護シェルター」「サンクチュアリ」などさまざまな呼び方があります。  多頭飼育環境から飼育放棄された371頭の猫と、それ以外の環境から飼育放棄された6,359頭の猫の生還率(=里親に譲渡された率)を比較したところ、前者が95.9%、後者が92.5%で両者の間に統計的に有意な差は認められませんでした。また多頭飼育環境から飼育放棄された249頭とそれ以外の環境から飼育放棄された4,171頭の施設内滞在期間(=収容から譲渡までの期間)を比較したところ、前者が32日、後者が28日で、こちらも両者の間に統計的に有意な差は認められませんでした。
 一方、施設型の多頭飼育崩壊と一般家庭型の多頭飼育崩壊を比較したところ、ある特定の疾患に関し前者のリスクが大幅に高まる傾向が確認されたと言います。具体的には収容時の上部気道感染症が4.35倍、収容後も続く慢性的な上部気道感染症が23.7倍というものでした。
Medical conditions and outcomes in 371 hoarded cats from 14 sources: a retrospective study (2011-2014)
Linda S Jacobson, Jolene A Giacinti1,et al., Journal of Feline Medicine and Surgery, DOI: 10.1177/1098612X19854808

日本での施設型多頭飼育崩壊

 近年、日本においても施設型の多頭飼育崩壊がちらほらと聞かれるようになりました。カナダ国内で行われた今回の調査では、施設型2ケースで128頭、一般家庭型8ケースで163頭の猫たちが飼育放棄されています。1ケースの平均に換算すると前者が64頭、後者が20.4頭という3倍近い開きです。平たく言うと施設型の多頭飼育崩壊はひとたび発生すると大規模で悲惨ということになるでしょう。

搾取的ホーディング

 施設型のアニマルホーディング(病的な多頭飼育)は当事者の動機によっていくつかのタイプに分類されます。よくあるのが搾取的ホーディング(exploiter hoarders)です。
 これは「支援金詐欺」とか「ノーキル詐欺」と呼ばれるもので、「殺処分ゼロのために!」というもっともらしい看板を掲げて不特定多数の人たちから支援金をかき集めます。あるいは思わず目を背けたくなるようなひどい状態の犬や猫の画像をわざとさらし、見る人の憐憫を掻き立てている所もあります。
 日本における実例としては広島県の某NPOが有名です。この団体は劣悪な環境下に犬たちを押し込み、過密ストレスに起因する殺傷事件が起こっているにも関わらず「殺処分ゼロ継続中」などと虚偽の報告をしてふるさと納税を集めています。

病的ホーディング

 保護施設が病的ホーディングに陥ってしまうというパターンもあります。ここで言う病的とは「自分がやらなきゃ誰がやる」という強い信念を持ち、「どんな環境でも殺処分よりはまし」という独りよがりの価値観を動物たちに押し付け、劣悪環境下に軟禁し続けるような状態です。  近年行われた調査では、病的なアニマルホーディングを精神疾患の一種として組み込む必要があると指摘されています。その場合に必要となるのは、説得ではなく医療的なアプローチです。 アニマルホーディング(病的な多頭飼育)を独立した精神疾患として認める動きあり

動物保護団体の法的な位置づけ

 日本の動物愛護法において動物保護団体やシェルターは、たとえ非営利であっても「第二種動物取扱業」として飼養施設の所在する都道府県知事等へ事前に届け出を済ませておく義務があります。犬、猫、うさぎ等の中型動物の場合、飼養頭数のボーダーラインは「合計10頭以上」です。
 第二種動物取扱業として登録された施設には、逸走の防止、清潔な飼養環境の確保、騒音等の防止等が義務付けられ、不適切とみなされた場合は都道府県知事等からの勧告・命令を受けることがあります。また無届出で第二種動物取扱業を行った場合は30万円以下の罰金などに処せられます出典資料:第二種動物取扱業者の規則

第二種のホーディングを防げない動物愛護法

 「動物愛護法」の第25条3では「都道府県知事は、多数の動物の飼養又は保管が適正でないことに起因して動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、当該事態を改善するために必要な措置をとるべきことを命じ、又は勧告することができる」と定められています。「適正」の具体的な内容は「第二種動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」で規定されているような最低限のルールです。
 しかし環境省が公開している直近「平成29年度の報告書」では、第25条に関連した命令、勧告数は全国でゼロ件とされています。日本各地では保護団体や施設によるアニマルホーディングと思われるケースがちらほら見られますので、現時点における動物愛護法はいわゆる有形無実のザル法である感を否めません。  実際、東京都内にある某シェルターの劣悪環境を管轄の東京都動物愛護相談センターに報告したところ、「第二種動物取扱業に対しては実効的な指導・罰則は適用できない」という不可解な回答があったといいます。団体が第二種である限り、行政機関が立ち入り検査をして改善を促し、改善されない場合で30万以下の罰金刑になることほとんどで、それが払えてしまう場合は無罪放免になってしまうとのこと。

ホーディングは消極的な動物虐待

 カナダの調査により、施設型のアニマルホーディングでは上気道感染症の感染率が高く、また慢性化する危険性が指摘されています。またアメリカでメディア報道された合計4,695件の動物虐待事件を調査した所、アニマルホーディングが全体の9%を占めており、他の虐待パターンと比較して1ケースにおける動物の平均死亡数が多かったとも。
 日本の保護団体がホーディングを行っている場合、動物愛護法が定める「動物の所有者又は占有者は動物に起因する感染性の疾病について正しい知識を持ち、その予防のために必要な注意を払うように努めなければならない」という条項に違反していますし、第二種動物取扱業者が遵守すべき細目にある「飼養施設の構造及び規模が取り扱う動物の種類及び数にかんがみ著しく不適切なものでないこと」という規定にも違反しています。要するにホーディングは動物虐待と同じ意味であるということです。  第二種動物取扱として登録している団体が搾取的であれ病的であれ、ホーディングがネグレクトという消極的(=暴力を伴わない)な動物虐待であるという認識を持ち、行政が犯罪として取り締まってくれないと現状は改善しないでしょう。
 現状は内部関係者が名誉毀損で逆に訴えられるリスクを犯して団体を報告し、仮に報告が成功しても「罰金30万円」など再発抑止力のない生ぬるいペナルティしか課せられないというものです。また第三者機関が動物虐待として当該団体を告発し、刑事事件にまでもっていくというケースも少数ながらあります。しかし管轄の行政機関がしっかり対応しかしてくれないとか、裁判所で不起訴になるなど、理解に苦しむ顛末で終わってしまうこともしばしばです。
 第二種動物取扱(保護施設)が起こす多頭飼育崩壊事件は、今後さらに発生件数が増え続ける新たな社会問題と言ってよいでしょう。